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天使が啼いた夜 堂本紫苑~17~

 23, 2010 02:12
月曜日から紫苑はカウンセリングの予約の電話に追われていた。
「ここの社員はこんなに悩みを抱えているんですか?」
紫苑は内心紫龍の社長としての資質を疑っているような言葉を吐いた。
「そんな事ないですよ、皆息抜きをしたいだけじゃないでしょうか?」
沖田はそう答えながら内心『皆貴方を見に来るんですよ』と付け足していた。

実際昨年度まではこう多くは無かった。
今年の新入社員代表で、社長の遠縁で見目麗しい紫苑と近づきたいのだ。
だが何も知らない紫苑はひと月先まで予約て埋められたノートを見て溜息を吐いた。
「そうなんですか・・・だったら良いですけど」と言いながら。

そのノートを眺めていて紫苑はひとつ気になる事を聞いた。
「あの・・この狩野晶子さんって方は毎週予約が入ってますけど?」
「ああ、彼女は冷やかしじゃなくて、本当に悩んでいる子だ」
そう言う沖田の顔が曇るのを見て、紫苑はその深刻さを察した。
「あの・・差し支えなければどういう内容か僕が聞いてもいいですか?」

「・・・そうだな、堂本君も知っておいた方がいいだろうね」
そう言うと沖田は狩野晶子について語り始めた。
「彼女は自分の感情を表に出せないんだ・・・」
「感情を?」
「判りやすく言うと、泣けない笑えないって事らしい」
「・・・・・泣けない」紫苑はぎゅっと目を閉じた。
それがどんなに辛いか身を持って判る。

「僕に・・僕にカウンセリングやらせてもらえませんか?」
「まだ君には難しい問題だと思うんだが・・・・」
沖田は紫苑の癒しの力は認めているものの、やはりこの問題は簡単には解決出来ないだろうと思った。
「お願いします、一度でいいんです・・僕も彼女の力になりたいんです」
紫苑の珍しく後に引かない態度に少し考え「いいでしょう」と沖田は答えた。
「ありがとうございます!」
「狩野さんに確認して、イヤだと言われたら諦めて下さいよ」
こういうトラウマ的な悩みを持つ者は相談する相手が変わる事を拒否する場合もあると紫苑に説明した。

そして狩野に連絡を入れその旨を確認すると
「構わないです・・・誰が相手でも同じですから」と無気力な返事が返って来た。
狩野の許可を得た紫苑は今まで沖田が知り得た全ての情報を引き継いだ。

大学1年の時にひとつ下の妹を交通事故で亡くしてから、
自分の感情を表に出せなくなったとの事だった。
社内に特に親しい友人は居ないが、表面的に問題は無かった。
配属も入社以来ずっと経理畑らしい、真面目で几帳面な性格でその仕事をこなしているとの事だった。

そして今日の午後一番最後の予約がその狩野晶子だった。
扉を開け入って来た狩野は入社4年目26歳という年齢よりも少し年上に見える容貌だ。
地味な性格が見た目も老けさせているようだ。

「初めまして、堂本紫苑です、今日は宜しくお願いします」
「狩野晶子です・・・」
本心ではどうしてこんな自分よりも若い何の苦労も知らないような子に
カウンセリングしてもらわなくてはならないのだろう?
と思っているのが見え見えの感じだった。

「妹さんと仲良かったんですね・・」紫苑の言葉に
「ひとつ違いでしたから」ぶっきら棒に狩野は答えた。
「もしかして妹さんが亡くなった時から泣いてないんですか?」
いきなり核心を突いて来た紫苑の顔を狩野がまじまじと見つめた。
「・・判りません、そうだったような気がします」
狩野にしてみれば、もうそんな事はどうでも良いような気がしてた。
7年も泣く事も本心から笑う事もしてないと、一体いつから自分がそうなったのかさえ如何でも良いような気がしていたからだ。

そして知った風に言う目の前の若い紫苑を憎しみに近い目で見た。
「あなたに何が判ると言うんですか?」
狩野は内心『頭が良くて男のくせに綺麗で、苦労のくの字も知らないのだろう』
と思っていた。
紫苑の事は今や社内で知らない者は居ない程だ。

狭き門であるこの会社にトップで入社しただけでも話題に上るのに
蓋を開けてみると、社長の縁戚?そして姿を見ると麗しい・・・
誰もが最初に縁故入社を疑ったが、優秀な成績で一流国立大学を卒業したとなるとその力を認めざるを得なかった。
そしてこの会社が縁故でなど勤まる程甘くないと、ここで働く者たちは知っていた。

「妹さんの死がショックだったんですね・・・・」
「当たり前でしょう!目の前で・・・目の前で轢かれたんです!」
狩野の吐き出す言葉に紫苑は自分の白衣の胸をぎゅっと掴んだ。
自分の過去に意識を持って行かれないように、何かに縋るように掴んだ。

「・・・辛かったですね」
目の前で愛する家族を失う事がどんなに辛い事か身を持って体験している紫苑だから言える言葉だった。
何となく声のトーンが変わった事に狩野は気付いた。
今まで聞いた一般的な『大変だったわね、辛かったわね』とは何処か違うように思えた。

それでも狩野はそう思った自分を否定した。
「あなたみたいな幸せな人に何が判るんですか?簡単に辛かったね、なんて言わないで」
自分は相談に来てるんだ、喧嘩を売りに来ているのじゃない、と判っていてもそういう風にしか言えない事自体がある種の病気なのだと・・・
他人に当たっても解決しない事など充分承知しているけど言わずにはいられなかった。

「そうですね・・・僕は今凄く幸せですよ」
ほら!と言うような視線が紫苑に突き刺さる。
「でもね・・・僕も泣けなかった・・・11年の間僕の涙は枯れていました・・」
紫苑の言葉に「え・・・っ?」と狩野が今までと違った反応を示した。

「僕の両親は僕が10歳の時に・・火事で亡くなりました。
僕は外から・・ただ燃え落ちる家を見てるしか出来なかった・・・」
過去の事として淡々と語っているような紫苑だったが、
その瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちるのを狩野は呆然として眺めていた。
そして何故だか、その涙を美しいと思っている自分がいる事に気付いた。

一方、紫苑のカウンセリングが心配でパーティションで区切られたソファに深く腰掛けていた沖田も紫苑の告白に驚いた一人だった。
初めて逢った時に火事で両親を亡くしたのは聞いていたが、その時の様子まではきちんと聞いていなかったし、両親が亡くなってからも苦労はしなかったという紫苑の言葉をそのまま信じていたのだった。





関連するお話は「天使が啼いた夜 19」「20」辺りです。

箱庭に記事を探しに行った際に、つい・・・時間も無いのに・・・・
-雅-を読んでしまった(少し飛ばしながらも全部(+_+))
何かやっぱツボなんだなぁ・・・
って自分の過去作品を読み返して泣く変なヤツです^^;


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昨日「雨の日に出逢って」しか記事を上げていない上に、ブログ村のバナーを貼ってないので
普段よりも1000ポイント程低かった(>_<)
なので・・・すみません「雨の日に出逢って」にも村のバナー貼らせてもらう事にしました^^;



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COMMENT - 14

-  2010, 11. 23 [Tue] 04:09

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jun  2010, 11. 23 [Tue] 06:08

お早うございます。
コメ復活ですね。
キキョウさん、無理してるんじゃないですか?

紫苑と同じように辛い目に逢ってた加納晶子さん、
紫苑のこと知って、必ず立ち直りますね。
辛さは紫苑のほうが上だっだのに、
紫苑は立ち直ったんだから、それをぶつけるだけで良いんだから。
「雨の日に出会って」楽しく読み直してます。

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-  2010, 11. 23 [Tue] 06:15

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-  2010, 11. 23 [Tue] 06:33

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-  2010, 11. 23 [Tue] 06:55

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tukiyo  2010, 11. 23 [Tue] 09:04

毎日いつでも萌えてるなんて、その方がおかしいですもの。
体力もたないしぃ~~。
kikyouさんも萌えが減ってるときはお休みしてゆっくり
ボチボチ書いてくださいね。
いつも丁寧にコメに返信してくださるけど飛ばしてもらって
いいですよ~~。

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けいったん  2010, 11. 23 [Tue] 11:46

紫苑のカウンセリング

私も 受けた~い♪
...って このシリアス場面には 場違いでしょうか(ii0ii)
だって 見目麗しい年下の男の子って 目の保養ですもんね。
それだけでも カウンセリングになるよね~(*☆v☆*)

狩野にとって 通りいっぺんの 心のこもっていない慰めや激励の言葉よりも
紫苑の涙は 心に直接 響く 無言の言葉では。
感情を亡くした心は 自身を壊していると 気づいても それを どうしたらいいのか 助けを求める術も 知らないのでしょうね。

でも 紫苑に会えたんですから。 その怯え冷え切った心を 優しく包んで貰い 涸れた感情を 取り戻して欲しいですね。
重いコメになって しまったよー(*yy*)ゞ...照れるわぁ...byebye☆  

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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 20:18

鍵コメ Yさま

こんばんは。

うふふ・・ロマンチストですから(笑)
あ、案内してくれるのなら、そっちまで行きますよ。
その代わり目押しして下さいネ。
動体視力皆無ですからっ!

あぁんぐりぐりしてって紫苑も言っているようです(#^.^#)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 20:21

junさま

こんばんは。

コメ欄復活というか・・・時間が取れそうなときだけ開けます^^;
だから無理はしていませんよぉ。
ご心配頂きありがとうございます(●^o^●)

雨の日も再読して下さってて嬉しいです♪♪

時々あほっ子ちゃんを自分でも読みたくも、そして書きたくもなります。
だから読んで下さってありがたいです。


コメントいつもありがとうございます。

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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 20:29

鍵コメ Lさま

こんばんは。初めまして!

40003のカウンター!ありがとうございます。
てへへ・・・次は55555にキリ番しようかな?って思っています。
時間まで気にして下さってありがとうございます。
(それにしても早起き!)
その時は是非踏んで、キリリクお願いしますネ。

珈琲を淹れてから(笑)何だか嬉しいです。
先日Lさまが熱いコメをされていたH様のお話を読む時の私みたい(#^.^#)
更新されてるとページを開いてから、トイレ行ったり珈琲淹れたりして落ち着いてから読んでいます^^

箱庭の方も読んで下さって本当に嬉しいです。
更新をストップしてから日に何度か訪れますが、
その時まだ一度も現在の訪問者数0というのを見た事が無いんです。

自分はカウントしませんので、何時も誰かが読んでいて下さってると
毎度感動していたんです。
きっとその中にLさまもいらっしゃるんですね^^
ありがとうございます(*^_^*)

Lさまが設けられた敷居もとっぱらって下さいネ。
最近はコメ欄閉じていたり、レスが遅かったりする私ですが
今後も感想を聞かせて下されば嬉しいです。

今日は初コメント本当にありがとうございました!^^


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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 20:34

鍵コメ NKさま

こんばんはー(#^.^#)

そ・そんな悲しい話が(笑)・・・・すみません笑い事では無いのでしょうが
世の中の亭主ってそんなものなんでしょうか?
寝込んだ記憶があまり無い私ですが、その当時はちゃんと食べさせてもらったような?(爆)

そうか・・・紫苑が寝込んで紫龍が看病( ..)φメモメモ
いつか書きたいですね(ネタ提供ありがとうございます^^)

あ・・っでも残念ながらゲスト出演はなさそうですが(笑)
でも紫龍・・・どんな看病を?
ちょっと危ない予感が・・・(>_<)


コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 20:39

鍵コメ puさま

こんばんは。
いつもありがとうございます!

雅・・・読んで下さってありがとうございます。
私もきっと今でも電車の中で読めないです^^
かなりナルな私かもしれません(笑)

村・・いいですかねぇ?
規則とかは無いようですが、何となく古い話に申し訳ないと思いつつも
やはり減ると寂しくて・・・結構気にしてたんだなぁって(笑)

あっちも可愛くて選べないですよ。
そのうち変わっている時があるかもです。
色々ありがとうございました。

サイトの準備はまだ進んでいないのですが、
12月半ばになったら少し時間が出来るかな?って感じです。
その時はまた相談に乗って下さいネ。
宜しくお願いします(●^o^●)

コメントありがとうございました。


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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 21:08

tukiyoさま

こんばんはー^^

ご心配おかけしました・・・
萌えを自分の過去作品で補充してきたナルシストのkikyouです(笑)

そして今回私の場合は萌えはエロの中でなく、涙の中にある事を発見しました(^_^メ)
ひとつ利口になったかな?

コメ欄も時間がとれそうも無い時は潔く閉じますからっ!

いつも温かいお言葉ありがとうございます(*^_^*)

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kikyou  2010, 11. 23 [Tue] 21:12

けいったんさま

こんばんはー。

えへっ\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?
私も受けたいです。
あ、顔文字ちょっと使いたかっただけで^^脈略はありません・・・・

珍しく次の話を書き上げています。
今日は少し余裕ですよぉ。

けいったんの熱いコメにも励まされ、秋企画のSSもひとつ上げました^^
あとは絵師様のGO!を待つのみです。

いつも楽しいコメントありがとうございます。
全然重くないですっ!

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