天使の箱庭＜eternity＞

「では、また何かあったら遠慮しないで来て下さいね」
紫苑の言葉に中堅社員の男性も頭を下げながら
「ありがとう、気持ちが楽になったよ」と部屋を出て行く。

紫苑は沖田が言っていたように此処を訪れる多くは家庭の愚痴や部下への不満、
中には恋愛の相談まであった。
恋愛経験の少ない紫苑の最も苦手とするケースだ。

「どうですか？この１週間・・・すこし慣れて来ましたか？」
「いえ、まだ・・でも気が楽になったって帰って下さる方がいらっしゃって・・」
「そうですね、誰かに話して気が済む場合が多いですからね」
沖田は紫苑に簡単なカウンセリングだけを今回は回していた。
「では来週からはもう少し難しい問題を抱えている人をお願い出来ますか？」
「本当ですか？」紫苑は沖田が自分を少し認めてくれたと思って嬉しかった。

「もう時間ですよ、お疲れ様」
沖田が口元を緩め労ってくれた。
「はい、今日もありがとうございました・・・」
紫苑は２日間沖田の顔を見れないのかと思ったら少し寂しくなった。
「そんな顔をして見つめると誤解されますよ」と沖田に揶揄される。
自分が紫苑の父に似ているという事を聞いているから、
紫苑が父恋しと見ているのは判るが、
他の男だったら紫苑のこんな顔を見たら本当に誤解すると沖田は苦笑した。

と、そんな事を考え誤解する対象が男だと思い込んでいる自分にも苦笑した。
「何か？」そんな沖田に声を掛けた時に紫苑の携帯がポケットの中で震えた。
「ほら、遅くなると恋人に怒られますよ」
毎日定時になると紫龍から入る電話にも沖田は慣れてしまった。

「はい・・・はい・・直ぐ行きます」
沖田の予想した通りの会話を交わしながら紫苑は携帯を切り改めて
沖田と挨拶を交わし紫龍の待つ社長室へと向かった。
定時に終業する紫苑に比べて社長の紫龍は終わるのが遅い。
電車で帰る事が許されていない紫苑は紫龍の仕事が終わるまで待つしかなかった。

その間に専門書を読んだり、浅田の手伝いをしたり好きに時間を潰していた。
本当は先に帰って家の事をやりたかったが、それも許されない。
結局金曜日という事もあって紫龍が仕事から解放されたのは夜の８時を過ぎていた。

「悪かったな、遅くまで待たせて」
「ううん・・・でも今度からは電車で帰ろうかな？」
「電車は駄目だ、どうしても帰りたい時は会社の車を使え」
新入社員の自分がそんな事が出来る訳ないじゃない、と言いたかったが口を噤んだ。
自分の事を大事にしてくれる故の言葉なのを紫苑は判っているから。

「さあ、遅くなったから何処かで食事して帰ろうか？」
「僕・・前から行きたいと思っていた所があるんです・・・」
「ん？何処だ？イタリアンかフレンチか？あ、懐石？」
「ううん、回転寿司！！」
「え・・っ？回転寿司？」
「そんな所に行きたいのか？」
「そんな所って・・・紫龍は行った事あるの？」
「い・いや・・俺も無い」
「じゃ行こう？」
「いいぞ・・・紫苑の望みを叶えてやる代わりに帰ったら俺の望みも叶えてくれるか？」
「勿論！わぁ楽しみだなぁ回転寿司！」

『俺も楽しみだ・・・』
紫龍は昨日届いた通販の品を頭に思い浮かべた。

目を輝かせて回転する皿を眺める紫苑の前に紫龍がどんどん皿を置いて行く。
「そんなに食べられないから、勿体無い事をしないで下さい」
「お前が見てばかりで皿を取らないからだろう」
紫苑の文句に文句で返す。
「だって、タイミングが難しいんです」
『やっぱり電車なんか乗せられない』
何故そこで電車を思い出すのか紫龍本人にも判らないが、何となくそう思った。

結局二人で１５皿食べた。
これは多いのか少ないのか紫苑にも紫龍にも判らなかった・・・
「気が済んだか？」
「はい、最近初めての経験が多くて、凄く幸せ・・・」
些細な事にも幸せを感じてくれる紫苑にもっと幸せをあげたい。
邪な事ばかり考えている自分が恥ずかしくもあった。

「紫龍・・・僕は紫龍が居てくれるから誰よりも幸せなんだよ」
「紫苑・・・・」
『神様やっぱり、いいですか？邪な事を考えても・・』

紫苑はカウンセリング室を訪れる多くの人間が誰にも言えないというストレスを抱えている事を知った。
この会社に入れる事自体がエリートだった。
エリート故に抱える様々な不安や不満を誰かに漏らす事はプライドが許さなかったり、
ライバルに弱みを見せたり・・・ましてや病院になど行けない。

だから何処かで吐き出す場所が必要なのだ。
そうしないとストレスが溜まり、酷くなると・・・壊れてしまう。
こういう場と時間を与えた紫龍という経営者を紫苑は尊敬している。
企業の多くが今はこういう方面に力を入れている。

「僕を雇ってくれて、ありがとう」
「期待してるよスーパールーキーさん」
ハンドルを握りながら紫龍が揶揄するように返す。
「もう・・真面目に言ってるのに」不満そうに紫苑は口にするが
「俺だって真面目なんだけどなぁ・・」
「全然真面目じゃない」でもその声は怒っている訳でもなく、
どちらかと言えば甘えているような声だった。

『紫苑・・・生まれて来てくれて、ありがとう』
心の中で紫龍はそう呟いた。

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すみません、午前中だなんて言っておいて遅くなった上に
イマイチ萌えない・・・
読み返していて面白くないなぁ・・って思ってしまった＾＾；

ス・スランプ？という程大袈裟なものでは無いですが・・

明日はもう少しマシな話が書ける事を自分自身に期待します。



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