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天使が啼いた夜 堂本紫苑~18~

 24, 2010 00:00
「・・・10歳で?」
狩野晶子の口からやっとそんな言葉が出て来た。
自分もかつて中学生の頃火災を目撃した事があった。
赤の他人の家の火事だったが、燃える炎と飛び散る火柱に足が竦んで
がたがた震えていた記憶が蘇った。

気がつくと腕を伸ばした自分の指が紫苑の頬に触れその涙を拭っていた。
さっきまで逆恨み的に憎むべき対象のように見ていた紫苑が
急に愛しい存在に変わったような気がした。
目の前の紫苑が驚いた顔で狩野を見た。
頬に触れられた事よりも自分が泣いていた事に驚いた。
「あっ・・すみません、僕が泣いてちゃ駄目ですね・・」
「・・辛かったね」狩野の口からそんな言葉が飛び出したのには
奥に黙って座っていた沖田をも驚かせた。

「はい・・」素直に頷く紫苑に年上らしい優しい眼差しを向けながら
「そうよね・・辛い時には辛いって言えば良かったのよね・・」
そう呟いてから狩野晶子は事故の日からの事を話し出した。

一緒に買い物をした帰り道だった、あまりの突然の出来事を受け入れられずに
泣く事も出来なかった自分に、周りは冷たい視線を投げかけたと言う。
『妹が死んだというのに泣きもしないで・・冷たい姉だ・・』
などの噂は嫌でも耳に入って来た。
そしてその冷たい視線の中に両親も入っていたのだと狩野は言う。

それから泣けばきっと妹を亡くした時には泣かなかったくせにと、
笑えば何を笑っているんだと責められそうな気がして、
だんだんと心に蓋をするようになったとの事だった。

女性が一番色輝く時期を狩野は色の無い世界で過ごした。
でもまだ充分に間に合う、紫苑はそう思った。
「ご両親に本当の気持ちを話しませんか?」
「まだ修復出来るのでしょうか?」
「生きているのだから、歩み寄れると思いますよ」
「貴方はご両親の分まで頑張って生きているのですね」
狩野の言葉に紫苑はゆっくりと首を振った。
「亡くなった人の分まで生きる事は出来ません、僕は僕の人生を生きるだけです」

「自分の人生を・・・・」狩野は紫苑の言葉を繰り返した。
今まで妹に遠慮して過ごして来た気がする。
心に掛かっていた雲が少しづつ後方へ流れて行くような気がした。
いや確実に雲が流れ出したのを感じた。

「ありがとうございました」
出口で紫苑と沖田に向かって頭を下げ微笑んだ顔を見た沖田が
「素敵な笑顔ですよ」と狩野の腕をぽんと叩いた。
紫苑もそんな狩野を微笑んで見送った。

泣いたからなのか、それとも深刻な悩みだったからか・・・
狩野が帰った後、紫苑はソファに凭れてふーっと息を吐いた。
「お疲れ様」沖田の差し出すハーブティを礼を述べながら受け取った。
去り際に沖田は紫苑の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
『父さまみたい・・・』
はにかむ紫苑に向かって「今父上を想像しましたね」と揶揄するように言った。

「あっ・・・すみません」
考えていたことを言い当てられ、そしてまだ若い沖田に対して申し訳なく思った。
「あの・・沖田部長代理って社長と同期なんですよね?」
「そうですよ、当時はライバルだと思ってました・・あ、それは私だけかもしれませんが」
そう言って笑う沖田にやはり紫龍と同じ若さを感じた。

「しゃ・・社長って若い頃どんな感じでしたか?」
「若い頃って・・」苦笑いする沖田に自分の失言を詫びた。
「構いませんよ、そうですね・・今と変わらないんじゃないんですか?」
闘争本能を剥き出しにしたような堂本紫龍を思い出した。
「欲しい物は必ず手に入れるというタイプでしたね、
傲慢なようで傲慢じゃない、デリケートなようでデリケートでない・・
考えてみれば不思議な奴でしたね」

『なんだ、今とあまり変わらないじゃない・・』少し安心した紫苑に
「それに女性によくもててましたね、あの性格と容姿・・
それに彼はサラブレットですからね、もてない筈は無い」と沖田は言葉を添えた。

『サラブレット・・・・』
そうだ、紫龍は子孫を残すべき立場にある・・・
それを判っているから、あえて紫龍の養子になる事をしなかった。
『紫龍よりも主人の方が資産があるから良いわよ』と揶揄する紫龍ママに微笑みながら・・・
祖母の残してくれた資産を考えればそれを知っている誰もが紫苑が資産目当てで紫龍の両親と養子縁組をした訳じゃないと判っているだろう。
勿論考えたくは無いが何かあった時には相続放棄をすれば済む事だった。
自分が紫龍を愛すればこそ、妻の座を空けておきたかった。

「沖田部長代理はご結婚は?」
紫苑は自分が沖田のプライベートを何も知らない事に気付いて尋ねてみた。
「私ですか?25歳で結婚して27歳で離婚しましたよ」
まだ遠くない過去なのに、沖田は遠くを見るような目で微笑んで答えた。
「あ、申し訳ございません・・・」
まさか離婚経験者だとは知らずに紫苑は拙い事を聞いてしまったと悔いた。

「大丈夫ですよ、気にしないで下さい」と言われ
この何でも難なくこなす沖田ですら、結婚生活で破綻した過去があるとは意外だと思った。
「結婚だけが全てではありませんよ」
それは紫苑と紫龍の立場を考えて言った言葉なのか、
自分に言い聞かす言葉なのか紫苑には判断は出来なかった。

そうこうしているうちに、紫苑の机の上の携帯が激しく震えた。
「ほら、終わったかコールの時間ですよ」
沖田に揶揄され、机の上の携帯を手にするとそこに表示されるべき名前では無い名前に驚いて、
通話ボタンを押した。

「浅田です」聞こえて来たのは少し強張った紫龍の秘書の浅田の声だった。




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COMMENT - 10

jun  2010, 11. 24 [Wed] 05:13

お早うございます。
狩野さん、紫苑の話聞いて、癒されてきたんですね。
そして自分の在り方を見つめ直せるようになってきた。
紫苑のカウンセリングってすごいですね。
何でも正面からぶつかっていくからできるんでしょうね。
それにしても浅田からの電話って、
紫龍に何か?
二人の幸せ壊さないでー。

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tukiyo  2010, 11. 24 [Wed] 09:05

今回の話はなんだかいろいろ思い出させられました~。
私も10代の時に兄を突然亡くしまして(兄も10代でした)。
涙も出ませんでしたね。
そして周囲の大人達はまだ子供の私にこう言いました。
「兄さんの分もお父さんやお母さんを大切にね」と。
ちょっと待ってくれや~~~!でしたねぇ。
相手の方になんの悪意もないのはわかってましたけど。
その時、私も紫苑ちゃんのようなことを言いました。
「イヤ、兄ちゃんの分は知らん。私は私の分だけを生きる」と。
ほとんどの大人はそういう私を驚いたように見てましたけど
ひとりのおっちゃんが「そうだ!それでいい」と言ってくれたことで
とても救われたのを思い出しました~。
イヤイヤ、個人的なことを失礼致しました。

萌え補充できましたか~wwヨカッタヨカッタ~w

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けいったん  2010, 11. 24 [Wed] 10:35

狩野さんが 笑ったね♪

心に 深く刺さった錘(おもり)を 紫苑のカウンセリングで やっと 外せ新たに出発した狩野さんに これから 素敵な未来が 訪れてきますように。

重症患者の狩野のカウンセリングも終え ほっとした紫苑に 浅田の強張った電話の声!!
紫龍に 何かあったの!!(@@;)...不安...byebye☆

Edit | Reply | 

紫猫  2010, 11. 24 [Wed] 18:55

狩野さん…、
心の鎖が解けたようで…
彼女も自分の道を歩んでいくのでしょう。
最後に笑ってくれて…ほんとに感動しました(TmT)

いきなり、強張った浅田さんの声!
いったい何が!?
不安でドキドキします!

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此花咲耶  2010, 11. 24 [Wed] 19:31

kikyouさま

雲が流れ出した・・・この表現が、とても好きです。
これまで長い時間囚われていたものは、一度にはれたりすることはないと思いますけど、雲の切れ間から光が地上に届く、光芒とか天使のはしごのイメージが浮かびました。
がんばっている人、がんばりすぎている人、多いですね。
紫苑くんだったら、やっぱり「天使のはしご」かな。
浅田さん・・・一体何があったんでしょう。

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kikyou  2010, 11. 24 [Wed] 21:15

junさま

こんばんは。

今回紫苑は自分の経験から何とか狩野を癒す事が出来ました^^
本格的な初仕事にしては、何とかやり遂げることが出来たと思います。

でも経験ない事でも、紫苑は一緒になって一生懸命考えてくれるから大丈夫だと・・

浅田からの電話・・・ちょっと気になりますネ。
いや・・だいぶかな?(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 24 [Wed] 21:24

tukiyoさま

こんばんは。

そうでしたか・・・

でもその小父さんの言葉って凄いですね!
それよりも、tukiyoさまが10代でそういう事を言えたっていう事実に驚きです。
とてもしっかりした10代だぁ・・
私なら流された返事しか出来ない・・・

でもついそういう言葉をかけがちですよね。
難しい・・・^^;


萌え・・・補充しましたが、薄いです(笑)
最近街に出てないからかなぁ?
少し若い子の集まる場所で観察でもしたい気分ですよ。

何処かに想像を掻き立てるようなカプいないでしょうか?(#^.^#)

コメントありがとうございました。




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kikyou  2010, 11. 24 [Wed] 21:42

けいったんさま

はい、狩野笑いました!(*^_^*)

こんばんは。

まだ若い狩野です、これから沖田に「素敵ですね」と言われた
笑顔で良い出逢いをして欲しいですよね。


浅田からの電話・・・・・さてどんな内容でしょうね^^

コメントありがとうございました。


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kikyou  2010, 11. 24 [Wed] 21:54

紫猫 さま

こんばんは。

紫苑が狩野の心を開く事が出来てよかったです^^

同じ痛みを持つ分、狩野の心にも沁みてくれたと思います。

こうして社内にもどんどん紫苑のファンが増えていきそうです^^;

浅田・・・どうしたんだろう?
いや・・・大した事じゃなかったらスミマセン!

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 24 [Wed] 22:02

此花さま

こんばんは。

あ、メールしようと思ってたのに・・・あとでメールしますネ。

雲が流れ出した・・・好きと言ってもらえて嬉しいです。
雲の表現は少し悩みました。
最初は霧とか霞とか・・で考えたのですが・・

私も頭の中に、雲が流れ空が明るくなる様が浮かんで・・
でも残念ながら、天使のはしごまでは、私の小さな脳みそには・・

もう、此花さんったらロマンチスト!^^


おお!紫苑どうする?

コメントありがとうございました。

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