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天使が啼いた夜 堂本紫苑~21~

 27, 2010 00:00
スーパーからまた10分程斜めに歩いた所に千秋の住む鉄骨のハイツが立っていた。
「君の所に比べたら粗末な住まいだけど、どうぞ遠慮しないで入って」
千秋にそう促され紫苑は「失礼します」と部屋に入った。
2Kの部屋の中は、寝室と居間に分けてあった。

「あまりにも物が無くてびっくりしただろ?」千秋が肩を竦めながら言った。
「本当だぁ・・・でも必要最低限あれば暮らせますから」
とにこにこして言う紫苑に思わず千秋は失笑してしまった。
「やっぱり君って正直だね」紫苑の言葉は千秋を不快にさせるものでは無く、
逆に紫苑らしいと思わせてしまう。

「あれ?僕何か変なこと言いましたか?」
「いや、今まで根無し草だったからな・・・」
山口から逃げるように住居も転々としていた。
過分な荷物は引越しの邪魔になるだけでは無い。
その場所を心地良いと思わないように生きてきたのだ。
物にも人にもあまり拘らずに生きるしかなかった。

「そうですね、でも勿体無い事をしましたね」
紫苑の言わんとする事を察して「そうだな・・」と頷く。
今となっては若い時間が無駄に流れたような気がする。
だけどその無駄だと思われた時間も今は愛しく思ったりしているのは、
今が幸せだからだと千秋は思っていた。

「さぁ食べよう」
千秋は気持ちを切り替えるように、買ってきた惣菜や刺身をテーブルに並べだした。
「わぁ美味しそうなお刺身ですね」
「美味しいよ、何たって俺が捌いたんだからな」
千秋が内側に曲げた腕をぽんぽんと叩きながら言った。

「酒飲める?」
「弱いですけど、少しなら・・・」
「そうか、じゃあ日本酒でいい?」
「はい」返事をしたものの紫苑はまだ日本酒を飲んだ事が一度もない。
ワイン1杯で酔ってしまうのに、大丈夫だろうか?と
少し思ったが、飲みたい気分の方が勝った。

千秋は紫苑の為にグラスに氷を入れ、そして少しライムを垂らした。
「わぁ綺麗な色ですね」薄くグリーン色に色づくグラスを眺めて紫苑が嬉しそうな顔した。
「これだったら日本酒も飲みやすいだろうから・・」
千秋は何となく紫苑と日本酒が結びつかなかったから少し飲みやすいようにしてやったのだ。

乾杯と軽くグラスを合わせて、口を付けた紫苑が「美味しい」と言う。
「飲みやすいから、飲みすぎには注意しろよな、後で堂本に文句言われたくないから」
おどけて言う千秋の言葉に忘れたかった紫龍の事を思い出してしまった。
顔が曇った紫苑を見て、やはり何かあったと千秋が感じた。

「どうしたの?堂本と喧嘩でもした?」
「いえ、喧嘩なんてしません・・ただ・・」
「ただ?」千秋が次を促した。
「・・・今夜お見合いなんです」
紫苑の言葉に摘んでいた刺身が皿に落ちた。
「えっ?堂本がお見合い?」
堂本が紫苑にご執心なのは千秋だって知っている。

「あっ、でも僕怒っているわけじゃないんですよ、
もし良い人で気に入ったのなら結婚すればいいと思っていますから。」
紫苑の言葉を聞いた千秋が黙り込んだ。
山口は何も言わないが、多分山口にも縁談は沢山来ているだろうと思っている。

「・・俺も君と同じ考えだよ」ぽつんと千秋が漏らした。
「千秋さん・・・・」
千秋が山口と再開して落ち着いた生活を送っているのに、
物を増やさないで前と同じこの部屋に住んでいるのもその辺の考えからきていた。
いつ別れが来てもいいように身軽でありたかった。

安普請のこの部屋には山口を泊めるような事はしていなかった。
だいたいは造りのしっかりとした山口のマンションに泊まっている。
だけど、使い捨ての歯ブラシに髭剃り、着替えは必ず持って帰って来てから洗濯していた。
山口の部屋に何ひとつ自分の物は置いてはいない。

「君は堂本と同じマンションに住んでいるんだよね?」
山口と再会した時に一度だけ訪れたことのある憶ションと呼ばれるあのマンションだ。
「はい・・・今は一緒に住んでいます」
「そうなんだ・・・」堂本ならこの子を離したくなくてそうするだろうと思った。
「実は・・僕・・今堂本紫苑なんです」
「えっ!養子縁組したの?」
流石に千秋もそこまでは想像できないでいた、
堂本の環境を考えると難しいだろうと思っていたからだった。

「でも、紫龍とではなくて、紫龍の両親と・・・」
「そうだったんだ・・・でもどうして両親と?てか、両親公認?」
紫苑の告白には色々驚かされて千秋も少々酔いが回りそうな気分になってきた。
「僕の心の中にもう一人の自分が居て・・・紫龍と別れたくないと思う自分と、
妻の座は空けておきなさいっていう自分が・・・その結果が両親との縁組なんです」
「君も複雑で大変だね・・・」

両親と縁組する方法がいいのか悪かったのか今の千秋には何も言えなかった。
だけど紫苑の気持ちは痛いほど良く判る。
自分もその狭間でいつも揺れているのだから。

「飲もうっか?」
「はい」紫苑は口当たりの良い日本酒のグラスを空けて
「お代わり良いですか?」と聞いてきた。

「大丈夫?」
「全然平気です、お酒も美味しいし魚も美味しいです」
いつもの紫苑の顔に戻って千秋も少し安心して、お代わりを作ってあげた。
「それより時間大丈夫なの?」
「大丈夫ですぅ、今頃お見合い相手と美味しい食事をして・・飲みに行ったかな?
美人だったらいいなぁって言ってましたから、きっと鼻の下伸ばして・・・
きっと楽しく・・・きっと・・・・・・千秋さん僕やっぱり寂しいです・・・」

飲みやすくても、ワイングラス1杯が限界の紫苑は2杯目を半分程飲んだ頃にはだいぶ酔いが回って来ていたのだった。
「も・もしかして・・もう酔ってる?」
紫苑の酒の弱さには流石に千秋も慌てた。
「酔ってません」そう言う時にはしゃんとするけど、
また直ぐに体から力が抜けるようだった。
「堂本に電話して迎えに来てもらおうか?」
「駄目ですっ、今日は大事なお見合いなんですから」

「全く・・こんなに酒に弱いとは・・・ほら携帯どこ?」
「携帯・・・鞄の中かな?」
電車に乗る時にマナーモードにして鞄に仕舞ったような気がする。
「鞄?開けていい?」立ち上がろうとしない紫苑の鞄に手を伸ばした。
「いいですよ、でも電話どうするんですか?」
「とにかく堂本に電話した方がいいよ」
「駄目です、邪魔したら駄目なんです」
千秋にというよりも自分に言い聞かせているような言葉だった。

紫苑の鞄から携帯を取り出すと、着信あったのだろうランプが点滅していた。
「ほら、誰かからか電話掛かってきているみたいだよ、見ていい?」
「どうぞぉ」そう言いながら紫苑は2杯目の酒を飲み干した。

千秋が紫苑の携帯を開いた。
「!」そのまま閉じたくなる程の着信履歴だ。
「堂本から電話来てるよ、それも大量に・・・・」
表示される全てが『堂本紫龍』で埋め尽くされていた。
「あ、深田圭って履歴もあるよ」

千秋の手の中で電話が震えた。
『堂本紫龍』の表示を見て「ほら電話だよ出たら」と紫苑に電話を差し出した。
一瞬躊躇った後に紫苑が電話に出た。

『紫苑か?今何処に居る?』ほっとした声に怒りも混ざっているのが判った。
「紫龍・・・今?う~ん内緒、でも僕眠いから寝るね、おやすみぃ」
それだけ言うと紫苑は電話を切って電源まで落としてしまった。
千秋が慌てて紫苑の携帯を取り上げようとすると、
素直に携帯を離したかと思ったら紫苑の意識は殆ど無いような状態だった。
床に置いてある大きなクッションを抱き抱えて
もうくぅっと小さな寝息を立てていた。

「はぁっ?早業・・・全く危ない飲み方だなぁ・・・」
千秋は溜息を吐いた。
自分だから良いようなものの、一歩間違ったら何をされるか判らない場合もある。
タオルケットを持って来て眠る紫苑に掛けてやった。
まだ幼い子供のような桃の頬をつんと突付いても起きそうもない。

「どうしたもんか・・・」
此処にこのまま寝かしておく事は簡単だが、
そういう訳にもいかないのは重々承知だ。
千秋はテーブルの下に置いてあった自分の携帯を取り
滅多に掛ける事のない相手の番号をアドレス帳から探して発信ボタンを押した。




今日から友達と夜のウォーキングを始めました。
最近体が重いと思っていたら、4キロも増えている(ー_ー)!!
年内5キロ減を目指して頑張ります!

拍手やコメントありがとうございます。

今日は3200文字で、いつもよりも1000文字以上多いです。(#^.^#)

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COMMENT - 11

-  2010, 11. 27 [Sat] 02:15

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jun  2010, 11. 27 [Sat] 06:14

お早うございます。
紫苑、飲めないのに飲んじゃった。
お決まりの結果ですね。
飲みたい気持ちはわかるけど。
千秋とすれば、ともかく紫苑を紫龍のところへ戻すしかないですね。

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-  2010, 11. 27 [Sat] 08:11

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kikyou  2010, 11. 27 [Sat] 09:21

鍵コメ Yさま

おはようございます。

あ・愛が溢れてですか(笑)いや・・単にキリが悪くて^^

5000文字!お蔵入りなんて勿体無い、前後編にわけましょう^^

紫苑・・たった2杯で酔い潰れてしまいました。
電源を切られた紫龍は焦ったでしょうね(^0_0^)

腰痛ですか。
それこそ足腰を鍛えてって訳には行かないのかな?
意外と効くのがハイチオールC。

どうでも良い事・・・無問題ですよぉ。
どんどんそういう事書いて下さいよ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 27 [Sat] 09:23

junさま

おはようございます。

ほろ酔いで眠るのって気持ちいいんですよねぇ^^
今頃紫苑も良い夢を見てるかな?(笑)

あとは千秋にお任せです。
対等に物言える相手ですから、どうなる事でしょうね^^


コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 27 [Sat] 09:30

鍵コメ 8さま

おはようございます!

Z苑・・・ここにアドさんのバンバンが欲しい(笑)
あ~今頃イタリアーーンで腐ウォッチングしているのでしょうね。

そうです、電源を落とされた紫龍はきっと唖然呆然・・・・
携帯が無事で済めばよいのですが・・・

お見合い・・多分それどころじゃなかった筈。
でも相手が乗り気になれば?

あ、そういえば私も一度見合いした事あるなぁ(遠い目・・)
22歳で、相手は25歳(お互い若い!)
家持ち、店持ち、ははばば持ち(笑)
ま、見合い自体に興味あっただけですけどネ(爆)

コメントありがとうございました。

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-  2010, 11. 27 [Sat] 10:31

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かや  2010, 11. 27 [Sat] 16:45

紫苑ちゃん、寝ちゃいましたね~。
酔っ払って、寝落ちするのって、気持ちいいんですよねえ。
酔うと眠くなるタチです。
一回、チャット中に飲みすぎて寝ちゃったwww
今晩も、気をつけないと~(笑)

そうか。千秋さんと紫苑ちゃんは、同じ立ち位置にいる、とも言えるんですね。
紫苑ちゃんが言えない事、紫龍さんに言ってやって~!
ウソ付かないで、ちゃんと言えば良かったのに。
どこかでバレるし、一度きりですむ話でもないですものねー。
ずっと独身でいようとしたら、この先、こんなものじゃすまないんだろうな・・・。

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-  2010, 11. 27 [Sat] 16:51

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kikyou  2010, 11. 28 [Sun] 08:48

かやさま

おはようございます。

紫苑酒に弱くて寝てしまいました\(~o~)/
本当に気持ちいいんですよね。

ってチャット中に酔っ払いですか?(笑)

そうなんですよね、千秋と紫苑の立ち位置。
千秋も痛い程に紫苑の気持ちが判る。
それぞれの立場環境は違っても、やはり受け側は弱いような気がします。

コメントありがとうございました。
(昨夜はいつの間にか寝てしまいました^^;)

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kikyou  2010, 11. 28 [Sun] 08:56

鍵コメ NKさま

おはようございます。

何か毎回紫苑には辛い思いをさせてしまって・・・
でもつい苛めたくなるんですよねぇ(書き手として^^)

いつもの深田の役割に似た場所に千秋がいます。
深田よりもある意味紫苑の気持ちが判りますが
何か別の所で深田とは繋がっている感じですね。
やっぱ深田にとって紫苑は特別であって、護りの電波でもキャッチするのでしょうか?(笑)


筋肉痛になるほどのスピードじゃないので^^;
最初はもうただ歩いているだけです。
少しづつペースを上げて、本当は最終的には走りたいです。
本当に足腰が弱ってくる年齢なので、ここで気合いれておかなくては・・・

来年度からはママさんバレーやるんです(笑)
その為にも体力と持久力をつけておかなくては!!

コメントありがとうございました。

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