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天使が啼いた夜 堂本紫苑~22~

 28, 2010 00:36
おそらく手に携帯を握り締めているはずだろうに、
電話が繋がったのは5回もコールした後だった。
千秋からの電話に出る時間も惜しいのが良く判る。
そんな紫龍に少し意地の悪い気分になってしまった。

「千秋か・・・」
「おお、久しぶりだな、元気?」
「千秋悪い、今立て込んでいる・・後で掛けなおしてもいいか?」
「久しぶりの電話なのに随分とつれないなぁ・・・」
「・・・すまない」
それは本当に申し訳なさそうな声だった。

「お見合いどうだった?」千秋が惚けて言ってみた。
「えっ、どうして見合いの事知ってるんだ?」
「お前の可愛い天使ちゃんが言ってたぞ」
「紫苑に会ったのか!?」
「ああ、スーパーに買い物に来てた」
「それで紫苑はどうした?どこかに行くとか言ってなかったか?」

「さあな、それより何で見合いしたんだ?」
「仕方ない、俺にも付き合いってもんがあるんだ」
「何故あの子に話さなかった?」
「直ぐ断るつもりだった、それより紫苑は?」

「そんなにあの子が心配なのか?」千秋は焦る紫龍に違う問い掛けで返した。
「心配するなと言う方がおかしい」
「じゃ何故傷つける?」何故だか千秋は腹が立って仕方なかった。
まるで山口に置き換えているような感じだった。

「・・・紫苑は傷ついていたのか?」
「傷ついていたか、だと?傷つかない筈が無いだろう?」
「悪かったと思っている、だから紫苑が何処に居るのか知っていたら教えてくれ」
紫龍の声の感じで、だいぶ慌て、そして落ち込んでいる様子が判る。

これ以上焦らしても、仕方ない。
紫苑を迎えに来てもらう為に電話したのだったのに、
ついムキになって紫龍を攻めてしまうような事を言ってしまった事に千秋は気付いた。

「ここで可愛い顔して無防備に寝ているよ」
「ここって何処だ?」
「俺が勤めているスーパーの近くの俺のアパートだ」
千秋が正直に言うと住所を聞き紫龍は電話を切った。
マンションに帰っているとしたら、車で10分少々で着く筈だ。

千秋も電話を置き、改めて紫苑の顔を覗きこんだ。
本当に世の中の綺麗な部分だけ見てきたような顔をして眠っている。
山口と再会した後に、浅田を含めた4人の同級生で飲んだ時に紫苑の過去を聞いた。
レイプ事件も山口が助けたあの事件以外にもあったらしい。
未遂と聞いて心から安堵した。

そして両親や祖母の死・・・この子はこの若さで同じ年頃の子が経験する何倍もの事を
経験してきていたのだと知り、自分の弱さを心底恥じた。
汚れを知らぬ天使・・・自分が傷ついた分人に優しい。
『本当はこの子の天使の羽はもうボロボロなのではないだろうか?』
そう思わざるを得なかった。

そうしているうちに外で車のドアが閉まる音がした。
今の紫龍ならドアをガンガン叩きそうだったから、先にドアを開けて待っていた。
急ぎ足で階段を上る靴跡が響いて来る。
緊張した面持ちの紫龍に目で合図して部屋に引き入れた。

「紫苑・・・・」とにかく見つけてほっとした、そんな感じに千秋も苦笑する。
「なぁ堂本・・お前のそんな姿って俺初めて見るかもしれない」
学生時代の堂本は、いつも颯爽として強気で、それでも友人たちに囲まれていた。
それは経営者になっても変わらない筈だ、
いやもっとそのオーラは濃いものになっているだろう。
だが紫苑を見つめる目は、そのどんな目とも違う・・・

『愛しい者を見る目だ・・・』

紫龍はクッションを抱えて眠る紫苑の横に静かに座った。
その手は髪を撫で、頬を撫でる。
「あまり傷つけるなよ・・・」千秋の声も静かだが、何か寂しさを感じさせる声だった。
「ああ、悪かったな迷惑かけた」
「別に迷惑じゃないよ、俺も一緒に飲んで楽しかったよ」
「そうか又今度ゆっくり飲もう、山口も呼んでな」
その目は山口と上手くいっているのか?と聞いていた。

「そうだな、山口にも言っておくよ」千秋の返事に紫龍も安心したような顔をした。
「じゃ連れて帰るよ、ありがとう」
そう言うと紫龍は軽々と紫苑を横抱きにした。
千秋は紫苑の鞄や背広を持って、紫龍の後に続いた。

助手席に乗せられシートベルトを留めた時に紫苑が訝しげに目を開けた。
「あ・・・紫龍もう部屋に着いたの?」
「まだだ、もう少しで着くから眠っておけ」
「はい・・・」そう言うと紫苑は再び瞳を閉じた。
何か寝ぼけて現状を把握してない様子の紫苑にふたり目を合わせて密かに笑い
「じゃ」と片手を上げて紫龍の運転するジャガーは闇に消えて行った。

千秋は部屋に戻ると、紫苑たちに刺激されたのか、
ちょっとだけ山口の声が聞きたくなり携帯を開いた。
「あっ!」自分が紫苑たちを見送りに下に行っている間に電話が掛かって来たらしい。
その着信履歴に口元を緩めながら千秋は発信ボタンを押した。


紫龍の車がマンションの駐車場に滑り込むと
其処にはさっき電話を入れておいた深田が待っていた。
「何だ、来てくれたのか?」
「俺だって心配ですからね、こいつもしかして酔っ払ってる?」
「みたいだな・・・」
紫苑を抱き抱えながらやっと余裕を取り戻した紫龍が答えた。
「全く人に散々心配させておいて良い気分で寝てらぁ」
呆れたように言う深田だったが、無事だと判った上での皮肉だった。

紫龍がソファに紫苑をそっと下ろすと、鞄と背広を持って着いて来た深田に向かって
「悪かったな、一杯飲まないか?」付き合って欲しそうな顔の紫龍に
「じゃ1杯だけご馳走になります」と深田が答えた。
紫苑の横に紫龍が腰掛け、正面に深田が座る。

ゆっくり1杯飲み終わる頃に紫苑が「う・・ん」と小さく呻いて目を覚ました。
先に正面の深田に気がつき「あ、深田さん・・・」と声を出した。
「紫苑大丈夫か?」隣に座る紫龍が紫苑の顔を覗き込んだ。
「・・・はい」小さく返事をしたと思ったら急に立ち上がり、深田の元に歩いて行った。

「あっ?」「えっ?」
紫龍と深田は同時に驚きの声を上げたが、
深田の声は紫苑の唇で塞がれ声にならなかった。
啄ばむような紫苑の唇が深く絡まろうとした瞬間に
「紫苑!!」という紫龍の大きな声に阻止された。

そんな紫苑が驚きと怒りで見つめる紫龍に向かって言った。
「紫龍が僕に負い目を感じる度に僕は誰かとキスするから・・・」
それは言い換えれば、紫龍がひとつ負い目を感じれば自分もひとつ感じるって事だった。
何だかメチャメチャな発想だが、紫龍とて言い返す言葉は無い。

「・・・・判った、判ったからこっちに来て」
懇願するような紫龍の元に紫苑が歩み寄る。
「ごめん紫苑、嘘ついて悪かった・・・」
そして紫苑は黙って紫龍の隣に凭れ掛かるように座った。


『あのぉ・・・俺の広海への負い目はどうなるんでしょう?』
そう言いたい所だが、ぐっと堪えて深田は静かに部屋を出て行ったのだった。




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COMMENT - 6

jun  2010, 11. 28 [Sun] 06:41

お早うございます。
さすがは千秋、紫龍を手玉に取ってる。
深田にキスする紫苑、
驚きの紫龍の顔が見たくなる場面ですね。
これから紫龍は紫苑を誤魔化すことはできない。
したら他人とキスされるんだから。
紫龍、大変ですね。
深田さん、広海に何か負い目あるんですか?、

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かや  2010, 11. 28 [Sun] 08:49

やっぱり、千秋さんが電話したのは紫龍さんでしたね。
それにしても、紫苑ちゃんたら、大胆な反撃です(^^;)
確かに、紫龍さんには、こんな有効なお仕置きはないわ~。
嘘はダメよ、嘘は。

とばっちりの深田さん、可愛そうに。
でも、紫苑ちゃんのキスは役得・・・。
羨ましいぞ~(笑)

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 28 [Sun] 08:58

junさま

おはようございます。

紫苑のキスは紫龍にも深田にも驚きでしかなかったはずです^^
まさか紫苑がそんな事を仕掛けてくるとは?

深田の負い目?
今紫苑にキスされたことですよ(笑)
さてその事実を広海にちゃんと言うのでしょうかね^^

でも広海だったら、「良かったね」で済みそうですが(笑)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 28 [Sun] 09:04

かやさま

あれ?一瞬間違ったかと思った。
リコメしてたんだけど、あれ?って・・・(笑)
おはようございます!
昨夜はすみませんね。

紫苑の反撃(笑)
まさか誰も予想もしなかった行動に・・・

多分、紫苑と深田ってお互い特別で、でも兄弟みたいな部分で繋がってると思う。
だから紫龍と違う電波で紫苑の危機を察知できるような。
ある意味深田最強じゃん!(笑)

コメントありがとうございました。

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此花咲耶  2010, 11. 28 [Sun] 09:27

kikyouさま

紫苑くんが、千秋さんのところへ行ってくれてほっとしました。脳内で邪まにあんなことやこんなことが遭ったらどうしよう~~と、思って心配してしまいました。(´・ω・`)
激しく動揺もするけど、紫苑くんが一番大切に思っているのは紫龍さん。
紫苑くんの一番の幸せは、自分が側にいることよりも紫龍さんが幸せになること。だから、嘘はいけませんよね。
その完璧な形を、読者はみんな知っています。
ここへ来るとささくれてた気持ちが、穏やかになる気がします。

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kikyou  2010, 11. 29 [Mon] 09:19

此花さま

おはようございます。

私も邪な事を考えたりもしていました(笑)
でも紫苑をこれ以上傷つけるのも気がひける^^

どうも話が暗い方に流れていきそうで拙いです。
紫苑の天然さが失われそうになったりして、半分ほど書き換えたりと
ここのところ意外に苦戦しています。

此花さんの気持ちがささくれてるとは思いませんが(笑)
少しでもまどろんで下されば嬉しいです。

コメントありがとうございました。
遅くなってごめんなさい(*^_^*)

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