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天使が啼いた夜 堂本紫苑~8~

 12, 2010 00:00
「え・・あっ・・・恋・・」
ここは否定すべきなのか、肯定していいのか突然の事で紫苑は返事に詰まった。
「いいですよ、答えなくても。でもあいつは昔から判り易かったですからね」
そう言ってから
「あ、社長の事アイツだなんて失礼ですね」と沖田は笑った。
紫苑が釣られて苦笑いすると
「さあちょっと出かけましょうか?」と言われた。
「はい?外ですか?」
「そう、ちょっと付き合って下さい、私は君を改造するって言ったでしょう?」
「あ・・はい」

自分が何を改造されるのか、何処に連れて行かれるのか少々不安だったが
信用出来ない相手では無いと思い、一緒に立ち上がった。
沖田はまず、地下の駐車場に向かった。
課長以上の地位の社員は車通勤が認められていた。

「私の車はちょっと奥の方ですがね」
ちらっとエレベーターの近くに停めてあったジャガーに視線を走らせて沖田が苦笑しながら言った。
車を降りてからあまり歩かなくて良い一等地に紫龍の車は停めてあったのだ。
「あ、あの白のセダンです」
そこには、国産の中堅クラスのセダンタイプの車が停めてあった。

車の右側に行こうとする紫苑に向かって
「あれ堂本君が運転してくれるんですか?」と揶揄した。
「あっ!」
紫龍の運転する左ハンドルの助手席に乗り慣れた紫苑は国産車の運転席の方に向かったのだ。
その動作はさっきの沖田の問いかけを肯定しているようなものだった。
慌てて紫苑は車の左側に移動した。
「すみません・・・」
紫苑は自分の行動が一挙一動墓穴を掘っているようで、情けなかった。

「大丈夫ですよ、そんなに身構えなくても」
緊張した面持ちで助手席に座る紫苑に慰めるような言葉を掛けてから
沖田は車を発進させた。

「あの・・・何処に行くんですか?」
「まぁ黙って着いて来なさい」
「はい・・」
「ところで、今の大卒の初任給は勿論知ってますよね?」
「はい」突然初任給の話などしだした沖田の意図が判らなかったが
4月から新入社員として給料をもらっている、判らないはずが無かった。

「堂本君、その時計は自分で買ったのですか?」
「いえ、祖母が成人の祝いにくれた物です」
「じゃ価格とかは知らないのですか?」
「はい」
普通は貰った物の価格を調べたりするものかもしれないが
祖母から貰った物だし、あまりそういう事に興味のない紫苑は何も知らなかった。

「そうですか・・・社長も同じブランドの時計をしていますよね?」
「はい、偶然ですが・・・」
それは本当に偶然だった。
「あ・・・これって高価な物なんですね・・・」
今更ながら自分が社長クラスの人間と同じ時計をしている事の意味を知った。
「そうですね、普通のサラリーマンじゃ簡単に手が出ませんんね、中型だったら新車が買えますから」
「え・・・」
「200万円はするはずですよ、その時計」
紫苑の腕に巻かれた祖母からの贈り物のカラトラバは見た目も派手では無く、
扱いやすい時計だったから紫苑も愛用していた。

「お祖母様からの贈り物ですか・・・大切な物ですね」
「はい・・・」紫苑は左手に嵌められた時計をそっと押さえた。
『おばあ様、ありがとうございます。大事にします』
紫苑のその言葉に嬉しそうに微笑んだ祖母・・・今は居ない

だがお金に執着の無い紫苑も流石に200万円の価格には驚いた。
「3年4ヶ月分・・・・」
小さく呟いた紫苑に「え?何がですか?」と今度は沖田が聞いてきた。
「食費です・・・月5万円の食費・・3年4ヶ月分なんです200万って」
そう思うと紫苑はこの時計の高価さが判る気がした。

「社長と二人で暮らしているんですよね?二人で5万円の食費?」
「はい・・・」それが多いのか少ないのかも紫苑には判らなかった。
相変わらず買出しはママチャリで駅と反対側の今も千秋が勤めているスーパーに行く。
野菜は採れたての物を紫龍ママから貰って来る。
但し外食の時には紫龍が払う・・・5万円あれば充分だった。

「やりくり上手ですね」と褒められそれは少し嬉しかった。
「今時の若い人は200万と聞けば、車が買えるだのブランドのバッグや服が買えるだのと考えるのですが・・・面白い人ですね」と言われ
「そういうものなんですか?」と紫苑が逆に質問したぐらいだった。

「着きましたよ」紫苑が連れて行かれた先は大きな何屋さんか判らないような店だった。
店頭には一見高価に見える時計が1980円の値段で売られていた。
中に入り見回すと、様々なタイプの時計が並んでいた。
「この辺のがいいかな?」と沖田が取り出したのは国外でも有名な日本のブランドだった。
安い物なら2万円しないである。
沖田の手には白い文字盤のステンレスのごく普通の時計が握られていた。
「ちょっと嵌めてみて」と言われ紫苑は大人しくその時計を嵌めてみた。

慣れないステンの感触が冷たかったが、何となく今時の若者になったような気もした。
「どうですか、こういうのは?」
「はい、いいですね、似合いますか?」
今までの革ベルトよりは装着に便利だった。
「似合いますよ」そう沖田は微笑んで「これにしましょう」と言い
その時計をレジに持って行った。

「あ、僕が・・・」
「これは私からの就職祝いとして受け取ってもらいたいのですが?」
「で・でも・・」
上司になる沖田に時計を買ってもらうのも可笑しな話だと流石の紫苑も辞退するが
「これから貢献してもらうんです・・・安い物ですが、受け取ってはもらえませんか?」
父によく似た目でじっと見つめられると錯覚しそうだった。
「それとも恋人に怒られてしまうかな?」揶揄する言葉に
「本当に頂いていいんですか?」紫苑が遠慮がちに言うと
「勿論です、良かった」と又父に似た笑顔を向けられた。

時計店を出ると「次はスーツを買いましょう、勿論スーツは自腹で買ってもらいますが?」
と沖田が次の買い物の予定を紫苑に告げた。
「スーツなら沢山・・・」と言いかけて自分の体に視線を落とした。
今着ているスーツは名古屋の相田夫人からプレゼントされた物だ・・・
黙り込んだ紫苑に「少し判って来ましたか?堂本君のネクタイ1本と20代のサラリーマンが着ているスーツ1着が同じ位の価格ですよ」と沖田が言った。

「はい・・・」相変わらず紫苑はそのスーツの価格は知らないが、相田夫人の事だ、安い物など贈らないだろうとは察した。

「上から下まで250万近い物を身につけた自分よりも年下の人間に悩みを相談出来ると思いますか?」優しい口調だったが厳しい言葉だった。
その言葉でやっと沖田のこの行動の意味を判った紫苑は、自分が情け無くもあり、そして恥ずかしくもあった。
よくもこんな自分が側面から会社の為になりたいと言えたものだ・・・
改めて紫苑は自分が社会人になったんだ、と思い知らされたのだった。





今11時58分です。
書き始めたのが遅かったのに、2700文字という普段よりもかなり多くなってしまいました^^;

すみません、コメントのお返事遅くなってしまいます。

あ、59分・・・・


拍手やコメントありがとうございます。
いつも嬉しく拝見させてもらっています^^

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追記  「通りすがりの男」  以前独り言に載せた話です。

紫苑のママチャリの話で、ちょっと思い出したのでこちらにもアプしてみました^^


2-sion.gif


3-sion-2bu.gif


4-eien.gif

箱庭の常連様が文字入れをして下さいました。
沢山パターンを作ってくださったのですが、これに決めました。
ブログバナーではないので、目次に使わせてもらおうと思っています。

ありがとうございました!


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COMMENT - 16

-  2010, 11. 12 [Fri] 00:22

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-  2010, 11. 12 [Fri] 00:58

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jun  2010, 11. 12 [Fri] 05:34

お早うございます。
沖田さん、紫苑を連れて何処へ行くのかと思ったら
買い物でした。
紫苑の服装って、そんなに高価なものだったんですね。
うらやましい。
僕もほしいな。
これで普通の新入社員となるのかな、

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-  2010, 11. 12 [Fri] 06:40

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-  2010, 11. 12 [Fri] 08:07

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かや  2010, 11. 12 [Fri] 10:03

紫苑ちゃんの周囲は、激甘の、金銭感覚非常識な人が多そうですもんね。紫龍さん筆頭に(笑)
社長の遠縁で高級品武装では、せっかく新入社員から始めても浮いてしまうところでしたね。
余計な、玉の輿ねらいの女性達にも、目を付けられてしまうし。
そういう意味の改造だったのかー。
よくあるパターンだと、安物から高級品へのチェンジだけど、紫苑ちゃんの場合は、逆ですね(^^;)

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:39

鍵コメ pさま

ありがとうございます!!

自分でキリの良い所まで書いて、文字数を見てビックリしました。
やっぱ紫苑の話は指が動きますねぇ。
自分の中で紫苑のキャラが確立しているからだと思うんですが。

仏像・・・嬉しい例えありがとうございます^^

コメントありがとうございました(●^o^●)

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:42

鍵コメ Yさま

いつもあれ、どっちだったっけ?と戻ってしまいます^^;
今日は鍵ですね(笑)

お、節約上手ですねぇ。
って厳しくないですか?(笑)

最後の方は私も激しく同意です(爆)
感覚が違うんだよね・・・・そして後悔する。
何度も娘に「もう・・」と宣言するも、舌の根も乾かぬうちに・・(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:44

junさま

おはようございます。(今日はまだ午前中だ!)威張るなって感じですが(笑)

さあ、これで普通の新入社員になれるのか?
以前懲りた吊るしのスーツを買いに行きます。

紫龍の知らない所でどんどん改造される紫苑です^^;

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:48

鍵コメ Cさま

改造計画着々と進んでいますねぇ。

今の所、沖田が紫龍をどう思っているかは判らないですよね。
まだ私の中でも確定していません^^;

相変わらずプロットを立てない書き手です(笑)
でも紫苑が不幸にならない事は確かですねぇ。
ここには多くのママ様がいらっしゃいますし。
私もその中の一人です^^


コメントいつもありがとうございます(^o^)/

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:54

鍵コメ NKさま

いえいえ、どんどん出てきて下さいネ。

紫苑を甘やかさない大人・・・
さて、紫苑色に染められるか?
その辺も気になる所ですね。

下着まで・・・ここまでやったら危ないですよ(笑)

Nさまが出て来たくなるような話を書けるように頑張ります♪♪

コメントありがとうございました\(~o~)/

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:59

かやさま

こんにちはー。
とても良い天気です。

そうか、王道の逆パターンですねぇ(笑)
今頃気付いた!

ま、紫苑がこれからする仕事内容を考えれば、
高級品を身に付けるには、年齢的にもキャリア的にも早いですね。

そうかそうか( ..)φメモメモ

コメントありがとうございました(^^♪
(単語登録できるようになりましたか?、私はダメ・・)

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けいったん  2010, 11. 12 [Fri] 11:18

父の目に クリソツ~(古ッ)

これは 紫龍とは違ったタイプのMENを 書かれるなんて それも 父の目元に似ていると 微妙ポイントが いいです!!瓜二つってのも あんまりにも・・・ですしねー。
kikyou様も ヤルねぇ~。いや 前から ヤル時は ヤルお方様でしたが。

今私の体内で 風邪菌が 暴走中! チクショー、負けそうだぜッ。
kikyouさまも 気をつけてね。(^o^)ゞbyebye☆

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 17:45

けいったんさま

風邪大丈夫ですか!!

微妙ポイントがいい?(笑)
でも少し日本人離れしている模様。
紫龍がヤキモチ妬くのも判るような・・・

「紫苑浮気する?」
「え・・っ、ダメ・・・」

と私の中で会話が交わされております。


とにかく、浮気よりも風邪を治しましょう!(笑)
負けないで♪♪

コメントありがとうございました。

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紫猫  2010, 11. 12 [Fri] 22:11

紫苑ちゃんをどうする気?!
と思っていたのですが買い物でしたw
少しほっとしました。

高級品から安物へって真剣にならないといけないけど普通は逆だから面白いなっと思ってしまいますw

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kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:20

紫猫 さま

> 紫苑ちゃんをどうする気?!
> と思っていたのですが買い物でしたw
> 少しほっとしました。
>
> 高級品から安物へって真剣にならないといけないけど普通は逆だから面白いなっと思ってしまいますw

こんばんは。

買い物です!

何人かの方が逆!って突っ込んで下さって(笑)
次回の話に活用させてもらいました。

ありがとうございました\(~o~)/

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