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天使が啼いた夜 堂本紫苑~7~

 11, 2010 00:01
「どうしましたか?私の顔に何か付いていますか?」
穏やかに微笑むその顔をただ呆然と見ていた。
「堂本君ですよね?」
「あ、はい!堂本紫苑です。今回こちらの部署に配属されました」
「研修の時は留守にしてて申し訳なかったね、私が沖田です宜しく」
「初めまして・・・宜しくお願い致します」
両手の指をきちんと伸ばして頭を下げる紫苑を口元を緩め沖田は見ていた。

「じゃ早速だけど、堂本君の仕事場はこっちだから」
そう言って紫苑を別の部屋に案内すべく総務部を出て行った。
紫苑はその背中を見ながら後に続いて歩いた。

『父さま・・・・』
紫苑は沖田の顔・・というか目を見た瞬間父を思った。
彫りの深い顔の、目が特に似ていた。
紫苑の記憶の中にある父はまだ30半ば・・・もう年齢を重ねない父だった。

前を歩きながら沖田が「誰かと似ていますか?」と振り向かないまま尋ねてきた。
流石多くの人のカウンセリングをしてきただけはある、
紫苑が沖田の容姿に見惚れた訳では無いと直ぐに察したらしい。

「あ・・はい・・父に目が良く似ています」
紫苑の父はアメリカ系のクォーターだった。
色素の薄い瞳の色も良く似ていた。
その事を紫苑はつい話してしまった。

「そうですかお父様と・・・確か堂本君のご両親は・・」
「はい、僕が10歳の時に火事で二人一緒に亡くなりました」
紫苑に両親が不在な事は履歴書で把握できた。
だが、亡くなった原因やその後の生活の様子などは何も判らない。

「早くにご両親を亡くされて、苦労しましたか?」
「・・いえ、母方の祖母が育ててくれましたので苦労してはいないと思います」
沖田の言う所の苦労の意味が判らないが、苦労はしていない。
寂しいと感じる事が無かったとは言えないが、それは世間の言う苦労では無いと思っていた。
何不自由なく祖母に育ててもらった、愛されていた。

両親の眠る家が目の前で焼け落ちるのを見て、気を失いそれ以降泣く事が出来なかった事は
紫龍と出会った頃に解き放たれていた。
それは心の問題で、苦労とは言えないような気がしていた。


「そうでしたか、でも堂本家の家系にそのような方がいらしたとは初耳ですね」
「あ・・っ!」
紫苑は内心『しまった、しゃべり過ぎた』と思った。
父に似た沖田につい余計な事まで話してしまった事に気付いたが
今更言葉を撤回は出来なかった。

「着きました、この部屋です」
沖田が立ち止まった部屋のプレートは『white room』
「ホワイトルーム?」紫苑は口に出して読んでみた。
「そうです、さあどうぞ」
沖田が開けた扉の中はまさに白の世界だった。

会社の中の一室とは思えぬ雰囲気に思わず目を見張った。
「素敵です!」だが直ぐに紫苑の口からそんな言葉が飛び出した。
白と言ってもホフホワイトの白木の床に壁
木目を生かした素材はとても温かく人を迎えてくれる。

「私がここを任されるようになってから改造してもらったのですよ」
ここには無機質なスチールの机も本棚も無い。
全ての備品が白木とナチュラルな色目の木製品だった。

「気に入ってもらえましたか?」
「はい」
「では改めて宜しく」そう言って右手を差し出され
「こちらこそ宜しくお願い致します」そう言って紫苑も右手を差し出した。

「この部屋を訪ねて来る人間は、皆何かに悩み傷ついている、
その心の負担を軽くしてやるのが私たちの仕事だよ」
「はい」
「堂本君はまだ若いし、エリートだ、まだ挫折という事を経験した事はないだろうけど
ここには人に言えない事や、吐き出す相手のいない人間・・色々なタイプの者が尋ねて来るんだ、君も色々勉強して来たと思うが宜しく頼むよ」
「はい」

「掛けて」と促され、落ち着いた色のソファに座った。
ハーブティを淹れてもらってその香りを楽しんでいる紫苑に向かって
「その前にまず、堂本君の改造だな・・」と少し揶揄するように言われた。

「僕の改造?」
「ええ・・」

コン!コン!!
沖田が話しを続けようとした時、ドアをノックする音に遮られた。
「はいどうぞ」沖田が立ち上がり声を掛けると同時にその扉が大きく開かれた。
『あ・・っ』紫苑が胸の心の中で声を上げた。

「おや社長、珍しいですね貴方がこんな所に見えるなんて」
それは社長を敬っているような口調でも言葉でも無かった。
「失礼するぞ」横柄に声を掛け紫苑の隣に腰を降ろした。
その行動にビックリして立ち上がろうとした紫苑の手を引いて座らせる。

そしてその社長の為に新たにハーブティを淹れながら
「今回は社長の経営方針に感謝しますよ、適材適所・・素晴らしいですね」と言い
眉間に皺を寄せた紫龍に「はいどうぞ、落ち着きますよ」とカップを差し出した。
「相変わらず人を喰ったような奴だな」
「貴方は喰えませんがね」
二人の会話に紫苑がはらはらした視線を送る。

「大丈夫だ、こいつとは同期でな・・別に喧嘩している訳じゃないから」
そう言いながら紫苑の頭を撫でる紫龍に向かって
「遠縁と聞きましたが、随分仲が宜しいのですね」と皮肉な言葉を吐いた。
「親戚同士、仲が悪いよりはいいだろう」
紫苑の頭を撫でたのは拙かったかな?と思いながらも惚けた。

「ところでここへは何の用事で?もしかして新入社員一人一人に労いの言葉を掛けて回っているとか?」
「沖田、お前は本当にそんなんでカウンセリングなんか出来るのか?」
「おや?ここ数年心身症やストレスで会社を辞めた者などいましたか?」
「・・・居ないよ!」憎らしげに紫龍が言葉を吐く。
「で・・?」沖田が問いかけの答えを再び求めた。

紫龍は沖田を無視するように紫苑に向かって
「メール見たか?」と優しく聞いた。
「あ、まだ・・・」マナーモードにされた携帯は背広のポケットの中だった。
「昼間でに見て返事して」
そう言うと紫龍は出されたハーブティを一気に飲み干し嵐のように部屋を出て行った。

閉まった扉を見ながら小さく溜息を吐いて沖田が呟いた。
「君も大変ですね、あんなヤキモチ妬きの恋人が居たんじゃ」
さらりと凄い事を言われティーカップを手に持ったまま固まってしまった紫苑だった。




あ・・・30000・・・ありがとうございます。
キリ番過ぎてしまった^^;
よーし!次は33333踏んでください!


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COMMENT - 12

kai  2010, 11. 11 [Thu] 00:15

社員に優しいいい会社だな~

ヤキモチ妬きの恋人は
心配でしょうがないんですね
苛められたりしないか
ナンパされたりしないかって
本当はついてまわりたいくらいに・・・

次回は紫苑ちゃん改造計画!?

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jun  2010, 11. 11 [Thu] 05:41

お早うございます。
沖田って何でも見通してる。
紫龍との関係、もう見抜かれてる。
沖田の紫苑改造って、どうするつもりなんでしょうか?

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-  2010, 11. 11 [Thu] 07:06

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-  2010, 11. 11 [Thu] 08:53

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此花咲耶  2010, 11. 11 [Thu] 09:51

kikyouさま

パパに似たところがあるのは、すごく危険な気がします。
身体じゃなくて精神のほうが。
気持ちじゃなくて、本能で慕ってしまう気がします。
話をしすぎてしまって、気が付いたところ、どきどき・・・
過去を思い出して、ちょっと悲しくなってしまいました。

Edit | Reply | 

紫猫  2010, 11. 11 [Thu] 23:28

お父さんに似てたのですか~
でも沖田って、優しそうな人じゃないと言うか、何でも見抜いてしまいそうで怖いです…。
あと、沖田の言ってた改造ってどういうことなのでしょう?!
やはり怖いですし、心配です。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 09:48

kaiさま

こんにちは、コメント遅くなり申し訳ございません。

紫龍は本当に紫苑が心配で心配で・・・
子供の幼稚園デビューみたいな気分なんでしょうね(笑)

紫苑の改造計画・・・
さて何処を改造するのか、そして紫苑の反応は?


って感じですが、遅いリコメ・・・もう答えは出ていますネ^^;

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 09:50

junさま

こんにちは、お返事遅くなりました。

沖田は人の心を読むのが上手いです。
紫苑みたいな子は何でもバレバレですねぇ。

いや、紫龍が単純過ぎるのも悪い(笑)

コメントいつもありがとうございます\(~o~)/

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 09:55

鍵コメ Cさま

(笑)堕天使な紫苑・・・・ちょっといいかも?
でも時々夜には黒い羽の天使になってしまいますが^^;

そして裏大奥の世界に!もう面白過ぎです(^o^)/

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:31

鍵コメ NKさま

心配して下さってありがとうございます(笑)
多分ここに見える多くの方がママ目線だと思います。

本当に多くの方に見守ってもらって紫苑幸せ者です。

私も凄く嬉しいんですよ。

どうも書いていると紫龍が父目線になっているようで不安です^^;
恋人なのに・・・いつも格好悪い紫龍にしてしまって(笑)
頑張って名誉挽回しなくっちゃ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:35

此花さま

こんにちは。コメント遅くなりました。

そうですよね、危険です・・・
幼い頃手放した父の愛を沖田に求めてしまうかも?です。

それを紫龍が判ってくれればよいのですが、まだ父に似ている事を知らない紫龍・・・

今後の展開を楽しみにしてくだされば嬉しいです(●^o^●)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 11. 12 [Fri] 10:37

Re: タイトルなし

こんにちは、コメント遅くなりスミマセン^^

父に似てるって男的にどうなんでしょうね?
でも紫苑の場合は普通と違うから・・・

今後目が離せないですねぇ。
どんどん沖田に心を許してしまいそうな気配^^;

コメントありがとうございました。

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