2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

天使が啼いた夜 堂本紫苑~9~

 13, 2010 00:06
紫苑は途中で銀行に寄ってもらうようにお願いした。
以前バイトしていた分、そして深田たちが払う家賃、
そして社会人になってからの給料が振り込まれる口座のキャッシュカードは
いつも財布に入っている。
社会人になっても相変わらず南條弁護士は毎月10万円の生活費を持ってくる。
殆どの現金は部屋に置いてあるので、紫苑は普段は夕飯の買い物をするのに
困らない程度のお金しか持って歩かなかった。

「あの・・・幾ら引き出せばスーツ買えますか?」
紫苑の質問に苦笑しながら
「そうですね、とりあえず5万円程あれば・・・キャッシュで大丈夫ですか?
クレジットカードを持っているのなら、カード払いでも分割でも出来ますが?」
「カードは持ってますが・・まだ使った事は無いです・・・」
自分名義のカードはゴールドだが、今まで使う必要も機会もなかった。

「カード使ってみますか?」
「えっ、はい!」
紫苑は何となくクレジットカードを使う事が大人になったような気分でもあった。
「あ・・・やっぱりキャッシュにします・・・」
紫苑はこのカードが引き落とされる口座を知らない。
自分の給料が振り込まれる口座では無い事だけは、口座開設した時期を考えれば判る。

自分の給料から引き落とされないと、自分で買った事にはならないのだ。
「自分の給料で払います」
「そう、いいことですね」
沖田に褒められて嬉しそうな顔をする紫苑を見ながら
目尻を下げてしまう自分に沖田は少々戸惑った。

『そうか・・この笑顔が過保護の元凶か・・・』苦笑してしまう。

銀行の駐車場に停め「ここで待ってるから」と言う沖田に紫苑が困った顔を見せた。
「あの・・・」
「どうしました?」
「すみません・・銀行でお金を引き出した事が無いんです」
「え・・・・・」この言葉には流石の沖田も驚きの声を上げた。

櫻井紫苑から堂本紫苑への名義変更も全部南條弁護士が手続きしてくれた。
欲しい物は現金でもらう生活費で充分に買えたし、
紫龍と一緒に生活するようになって、今まで以上に紫苑は一般的な生活から離れて行っていた。

「もしかして銀行に来るのも初めてとか?」
「・・・はい」紫苑は自分が社会人として全く機能していない事が恥ずかしかった。
「じゃ給料もまだ使っていないんですか?」
「はい・・・」

その時ポケットの中の携帯が振動した。
一瞬躊躇う紫苑に「出ても良いですよ」と沖田が促した。
着信の液晶を見ると『紫龍』の名前が表示されている。

「・・もしもし」
「今どこだ?」
「えっと・・外です」
「何をしている?」
「えっと・・・・」

そんな紫苑に沖田が横から口を挟んだ。
「ちょっと変わりましょうか?貸して下さい」
紫苑は差し出された手に携帯を渡した。

「もしもし、沖田です」
「何でお前が紫苑と一緒にいる?」
「社会勉強ですよ、それに私は彼の上司ですからね」
「何でお前と社会勉強で外出しなくっちゃならない?」
「たまには無菌室から外に出る事も必要ですよ、じゃ失礼」
最後にきつい一言を残して沖田は紫苑の携帯の電源を切った。

「さて・・」と一言呟くとシートに凭れかかった。
無菌室から連れ出したはいいけど、想像以上の世間知らずにどうしたもんか、と考えていた。
そんな沖田に「僕、一人で行ってきます」
そう紫苑は言うと沖田の返事も聞かずにドアを開け車から降りて行った。

「あ・・、まっいいか・・検討を祈る」そう小さく呟いて紫苑が戻るのを待ってみた。
そしてこの『堂本紫苑』という青年に新たな興味を持った。
15分ほど待ったが帰って来ない紫苑の様子を見に行こうと思って
ドアに手を掛けた時に、向こうから小走りに掛けて来る紫苑の姿を見つけた。

「す・すみません遅くなって」
幾分かその声が弾んでいる事が判って内心ほっとしながら
「大丈夫でしかた?」と聞いてみた。
「はい!最初は少し戸惑いましたが、ちゃんとお金引き出せました」
その顔は緊張から開放され何とも言えない嬉しそうな顔だった。

つい釣られて沖田も嬉しそうな顔になり、はっと我に返った。
『これか・・・』
紫苑が世間知らずで生きてこられた理由が判ったような気がした。

「じゃ行きますか?」
「はい」
そして紫苑が次に連れて行かれたのは、紳士服の量販店だった。
「あ・・・ここ」
そこは紫苑が以前一度だけ来た事があり、あまり良い思い出のない店だった。
「おや、来た事があるんですか?」
「え・・ちょっと以前に・・でも買うのに失敗しました」
「失敗ですか・・・」
何をやらかしたのか聞きたい気持ちを押さえて
「じゃ入りますか?」と紫苑を促して店内に入った。

「凄いですね、スーツ沢山・・」
紫苑は初めて来た時よりも冷静に店内を眺められる自分を感じていた。
そして以前憧れたツルシのスーツを今日買えるんだ、とうきうきしていた。
だからポケットの中の携帯の電源が落とされている事をすっかり忘れていた紫苑だった。

(以前のツルシの話はこちらです、思い出して貼ってみました)




拍手やコメントありがとうございます。
いつも嬉しく拝見させてもらっています^^

ランキングに参加しています。
ぽちっとして下されば嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村




関連記事

COMMENT - 16

k.k  2010, 11. 13 [Sat] 00:24

お話に いつも感謝!

こんばんは コチラでは未だ紅葉(晩秋)に至りませんが 風邪菌多々警報中ですわん!
そして お仕事関連話には ワクワクしますョ!
毎度ですが どうかご自愛を。 

Edit | Reply | 

kai  2010, 11. 13 [Sat] 00:34

せっかく無菌室の中で純粋培養してたのに~
紫龍をはじめとしてたくさんの保護者たちが大切に真綿でくるむように育てているものを・・・
沖田めー余計なことせんでよろしい!
たとえ社会性がなくても一般常識がなくてもいいの
ピュアで可愛い紫苑ちゃんでいいのさ~
と思っているワタシとか紫龍にとっては敵ですよ
でも、いつの日には紫龍の横に立つために
しっかりと自分の足で立つ紫苑ちゃんにならなくちゃいけないのね
過保護な保護者の一人としては
心を鬼にして涙をのんで見守りましょう

Edit | Reply | 

purple  2010, 11. 13 [Sat] 00:43

吊るし、あった!あった!懐かしい・・・
思わず読みにいってしまった。

Edit | Reply | 

jun  2010, 11. 13 [Sat] 05:35

お早うございます。
紫苑、銀行も行ったことなかったんですね。
いくら真綿で包れて育ったとしても。
これから沖田さんに本当に改造してもらわないと。
このままで何時か紫龍の嫁失格になるぞ。
大いに社会勉強してください。

健闘とあるべきところ、検討となってます。

Edit | Reply | 

ちこ  2010, 11. 13 [Sat] 06:01

無菌室って(笑)そうですよね~おばあさまが大切に無菌室で育て上げた純粋培養天然100%の天使・・・それが紫苑ちゃんですからねっヽ(´▽`)/さらにみんなして磨きを掛けて紫龍さんが仕上げの研磨中~(//∀//)なのに沖田さんの社会か見学は続くのだ!!銀行でお金引き出せてよかった~必殺技・天使の微笑みで銀行強盗も一撃です(笑)皆さん風邪菌に襲撃されているようですが、私の住む地方は今、何故か黄砂っ(笑)外に長くいると息苦しくなります。紫龍の車なんかだと一時間でフロントにハートマークとか書けちゃいます(笑)

Edit | Reply | 

tukiyo  2010, 11. 13 [Sat] 09:16

あ~~~たまりません。
紫苑ちゃん可愛すぎる~~ムギュムギュ。
紫苑ちゃんがあんまり急に大人になっちゃうと
紫龍が寂しがるよ~~。
紫龍の嫉妬も・・こりゃ大変だぁ。

Edit | Reply | 

かや  2010, 11. 13 [Sat] 10:31

吊るし事件ありました!紫龍さんが試着室に殴りこみかけたヤツね(笑)
読み返しに行ったら、そのままあちらに引っかかってました。止まらない~。かっぱえびせん状態(汗)
紫苑ちゃんの「初めて体験」は微笑ましくて、ニヤニヤしちゃいます♪
こんな可愛い子が来て困ったそぶり見せたら、案内係が素っ飛んで来ますよね~☆銀行員が来るまでもなく、おばちゃんに世話を焼かれそう。

今度は、沖田さんが店内まで付いて来てくれるんですよね?
保護者がいれば、安心かなー?
(単語登録出来ないままです。もう、このままでいいです。下手にバージョンアップなんかすると、足りない容量が、ますます足りなくなりそう。新しいパソコン買ってやるー(T-T))

Edit | Reply | 

紫猫  2010, 11. 13 [Sat] 19:25

無菌室ってw
まぁ、確かにそうですね…そんな紫苑ちゃんが好きなんですけど!!
知らぬ間に沖田さんを微笑まさせてる紫苑ちゃんかあいい!!(>ω<)やっぱり誰でも紫苑にかかればそうなるんですかね~?

吊るし事件!( ̄Д ̄;)
沖田さんがついて来てくれていても、心配ですね…o(´^`)o
携帯は電源が切れられていて紫龍からの電話も届かないんですから!
無事を祈ります!!( ̄人 ̄)

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:23

k.kさま

こんばんは。
相変わらず遅いコメント返しですみません^^

風邪流行ってます。胃腸炎も(こっちが学校での流行りですが)

鼻風邪は時々ひきますが、風邪らしい風邪最近ひいてないです。
(あ、忘れているだけかもしれません^^;)

k.kさまも気をつけて下さいネ。

コメントいつもありがとうございます(*^。^*)

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:26

kaiさま

こんばんは。
お返事いつも遅くてすみません^^;

そうですね・・・紫苑はこのままでいいって思います。

でも、どんな風に見かけが変わっても紫苑は紫苑のまんまなのでしょうネ。

過保護な保護者・・・いえ超過保護かも?(笑)

心を鬼にして見守って下さい(#^.^#)

コメントいつもありがとうございます。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:28

purple さま

こんばんは。

ツルシ・・・深田と初めて言葉を交わしたシーンでもありますネ。

明日はツルシのスーツを着る事になるのでしょうか?(笑)

ってやっと書き上げたのですが、今回は3000文字です^^;

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:30

junさま

こんばんは。

そうなんですよ、銀行も行った事ない、っていうか行く必要が無かった。

本当に違う意味羨ましいですよ。
減らない預金・・・

羨ましい(笑)

検討・・・^^;スミマセン

コメントいつもありがとうございます。(^^♪

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:36

ちこさま

こんばんは、お返事遅くなりました。

(今日はオープンだぁ♪♪)

本当に何も知らない?子に育ってしまいました。
大事にされ過ぎたかも?
守られる側の立場・・・が似合う紫苑ですよね。

黄砂に吹かれて~♪♪
スミマセン歌っている場合じゃないですよね?
私の田舎は灰が降りますが^^;


コメントありがとうございました(●^o^●)

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:43

tukiyo さま

こんばんは。

ついふふふっと笑ったら対面の娘に変な顔をされてしまいました。
(あぁ早く寝ればいいのに^^;)

テンポの良いコメント楽しかったです。

紫龍の嫉妬・・・次の次ですねぇ。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:47

かやさま

こんばんは。
(抜けだしてリコメしています^^)

かっぱえびせん状態!読み返して下さってありがとうございます\(~o~)/

私も紫苑みたいな子が並んで戸惑っていたら、手取足取り教えてあげるよ。


沖田店内に着いて行きますよ。
ちょっと遊んでみました。


すみません、簡単なリコメで^^;

コメントありがとうございました(●^o^●)←これ気に入ってます。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 13 [Sat] 23:51

紫猫 さま

こんばんは。

周りの大人に大切にされてますからねぇ。
辛かった過去を知ってるから、余計に可愛いんでしょうネ。

店内では楽しく過ごしていますよ紫苑。
そして沖田も・・・
これはこれからの更新で楽しんで下さいネ。

電源!紫苑はいつ気付くのでしょうか?(笑)

コメントありがとうございました。ヽ(^o^)丿

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?