2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

天使が啼いた夜 堂本紫苑~10~

 14, 2010 00:00
二人が店内に入ると、さっと上から下へと視線を走らせた店長らしき男が寄って来た。
「いらっしゃいませ、本日はどのような物を?」
そう言いながら近くでスーツの質を観察しているようだった。
「この子に夏用のビジネススーツを」沖田がそう言うと
「畏まりました」と頭を下げ紫苑を案内したのは、オーダー生地のコーナーだった。

「いや、既製品で頼みます」と沖田の言葉を意外そうな顔でもう一度見てから
「こちらへどうぞ」と大量のスーツが掛けられたコーナーへと案内した。

流石プロだと思わせる対応で、紫苑の体に合いそうなサイズを出して
「これなどは如何でしょう?」と紫苑に当てている。
「イヤ、もう少し明るい色がいいでしょう」
沖田の言葉に濃紺から明るめの紺に色が変えられる。

その間、紫苑は珍しそうに店内を見回しているが
「試着してごらん」という沖田の言葉に
「あ、はい」と慌てて答え来ていた背広を脱いだ。
その背広を受け取りながらその店長らしき男は「ほぅ」という目をしたのを沖田は見逃さなかった。
しっかりと紫苑の脱いだ背広のチェックをしていた。

紫苑が試着を繰り返す間、沖田は近くの椅子に座りその様子を眺めていた。
そしていつの間にか脳内で音楽が流れている。
『私はリチャード・ギアか・・・』
苦笑するが脳内の『オー・プリティ・ウーマン』は止むことは無かった。

「これは?」と言う紫苑に首を振ると又試着室に消える。
そして何度目かの時に沖田はにっこり微笑んで「いいですね」と言葉を発した。
『私はリチャード・ギアじゃない・・・』もう一度一人で突っ込みを入れて立ち上がった。
そして自分がリチャード・ギアと全く反対の事をしている事に苦笑した。

「ウエストを詰めますか?」そう聞かれた紫苑は
「大丈夫です・・」生まれて初めてのツルシの服は少し違和感はあったが
それでも自分がやっと本当のサラリーマンになれたような気がして嬉しかった。
「素材が宜しいですから、何を着てもお似合いですね」
とって付けたように店員は言うが、一流のオーダー品に敵う筈もなかった。

「あの、シャツ見てもいいですか?時間大丈夫でしょうか?」
「いいですよ、ゆっくり見て来なさい」
紫苑は沖田がそう答えると嬉しそうな顔をしてシャツ売り場の方に歩いて行った。
そして何かを発見したように、その場から動かない。

「凄い・・・・」
紫苑が足を止め見入ったコーナーは形態安定加工したノンアイロンのシャツのコーナーだった。
「これって、アイロン要らないって事ですよね?」
「そうです」定員の声に「幾らですか?」と聞いた。
「3990円です」
驚いた顔が嬉しそうな顔に変わり店員も釣られて微笑んだ。
「あの、さっきのスーツは?」
「29500円です」

頭の中で紫苑がそろばんを弾いている。
そして紫苑はシャツを選び始めた。
沖田はそんな紫苑に何も言わずにただ眺めていた。
紫苑はシャツを3着選んでから
「あの・・僕のシャツのサイズって判りますか?」
紫苑の問いかけに流石に驚いた顔をした店員が、紫苑の首周りと裄丈を測っている。

『今手にしているシャツは何なんだ?』その言葉を沖田は飲み込んだ。
紫苑は自分のサイズを聞いてシャツを2着選んで
「では、これでお願いします」と定員に渡した。
「あの、こちらの3着はサイズが大きいかと思いますが?」
「あ、いいんです・・それは自分用ではありませんから」
少し照れたような顔で紫苑が答えていた。

「では、49450円になります」そう言われて紫苑は会計で5万円のお金を支払った。
そして帰りの車の中、沖田は気になっていた事を聞いた。
「あのシャツは誰のって聞かなくても判りますが、自分のサイズすら知らない貴方がどうしてそのシャツのサイズを知っているのですか?」
「え・・あぁ・・毎日見ているからですよ」そう微笑む紫苑。

「貴方が社長にシャツを着せているのですか?」
昔は亭主の靴下まで履かせる女房がいたらしいと聞いた事があった。
つい頭の中で、そんな紫苑を想像してしまった沖田だったが
「まさか、しりゅ・・・社長は自分でシャツを着れますよ」
その返答も少しおかしいと思いながらも「ではどうして?」

「アイロンです、毎日アイロン掛けしますから、でもこれで時々手抜きが出来ます」
「毎日って・・そもそもクリーニングには出さないんですか?」
「最初は出していたんですけど、糊加減が合わないみたいで・・・」
『な・なんて我侭な・・・』
それに何十枚も持ってるだろうに、毎日だなんて・・・

紫苑はもうすっかり社長が恋人だと認めているようなものだった・・・
「堂本社長の世話も大変ですね」
「は・・いえ・・・あっ・・・」
すっかり沖田の言葉に乗せられていた自分に気付くが遅かった。
「少し遅くなりましたが、昼食を食べましょう」
「はい」

沖田に連れて行かれたのは、ラフな雰囲気のイタリアンレストランだった。
内心沖田は迷ったのだ・・・
本当はサラリーマンの行くような蕎麦やか、安い値段の定食やか・・・
だけど今日だけは・・と思ってイタリアンに決めたのだ。
自分もかなり甘いかもしれない・・と思いながら。

食事をしながら「今度食べに来る時は蕎麦か何かにしましょうね」そう言うと
紫苑が目を輝かせて「お蕎麦!はい、勉強になります」
どうして蕎麦が勉強になるのか沖田が聞くと
「僕、蕎麦自分で打つんです」はにかみながら紫苑は答えた。
「おや意外ですね、そんな事も出来るんですか・・」
内心全く意外では無いとも思った、毎日ワイシャツにアイロンを掛けて
蕎麦まで打って・・・いったいこの子は?自分の知らない紫苑がまだまだ居る。
もしかして、自分が紫苑を普通のサラリーマンのように変えて行こうとしているのは間違っているのではないか?と思う程だった。

食事が終わると「さあ、あとは本屋に寄って帰りましょう」
本屋に寄ると二人で専門書や関連の本を読み漁った。
凛とした横顔は、さっきまでのふあふあっとした優しい顔では無く真剣で厳しい顔だった。
『この子は良いカウンセラーになる』沖田が確信した瞬間でもあった。

購入する本選びは楽しかった、経費で落ちるからと言う沖田に安心して
紫苑は本選びに専念した。
好きな事をしている時間はあっという間に過ぎる。
随分と長い時間を本屋で過ごしたようだった。

「堂本君、もう5時過ぎてしまいました。」沖田が失敗したという顔で紫苑に声を掛けた。
「え、もう?」
「君はこのまま帰ってもいいですよ」そう言ってから紫苑の荷物を考えて
「荷物が多いですから、私が送りましょう」と沖田が言った。
「いえ、大丈夫です」遠慮する紫苑に
「今回だけですから」と沖田は肩を竦め笑った。

釣られた紫苑も笑顔で「すみません、ではお願いします」と答える。
実際ここからなら車で帰った方が断然早い。
そして紫苑を送っていく途中で沖田が口を開いた。

「そろそろ、携帯の電源を入れておいた方がいいですよ」と。
「え・・っ?」電源が落としてある事など知らない紫苑の顔がみるみる青褪める。
昼までにメールを返信してと言われていたのも忘れてた上に
電源も入ってなかったとなると・・・

『どうしよう・・・怒ってるかな?』紫苑がそう思っている頃に
5時になっても会社に戻って来ない、連絡も取れない紫苑を心配しながらも怒っていた紫龍が「堪忍袋の緒が切れた」と繋がらない携帯を憎らしそうに睨んで呟いた。

「沖田部長代理には電話されたんですか?」浅田の冷静な言葉に
「あ・・・」と情けない声を漏らした紫龍だった。




3016文字・・・何だか日々長くなってくるような気がする^^
そのうち長すぎる!って苦情が来るかもしれない(笑)


拍手やコメントありがとうございます。
いつも嬉しく拝見させてもらっています^^

ランキングに参加しています。
ぽちっとして下されば嬉しいです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村










関連記事

COMMENT - 12

-  2010, 11. 14 [Sun] 05:33

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

jun  2010, 11. 14 [Sun] 05:38

お早うございます。
さすが紫苑、自分のシャツのサイズも知らないのに、
紫龍のはちゃんとわかってる。
今日はスーツにワイシャツ、さらに本と多くの買い物しましたね。
でも、紫龍との連絡忘れてた。
ヤキモチ妬きの紫龍の苛立ち、いや怒り、
紫苑どうする?

Edit | Reply | 

-  2010, 11. 14 [Sun] 07:35

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

-  2010, 11. 14 [Sun] 07:47

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

此花咲耶  2010, 11. 14 [Sun] 09:16

kikyouさま

どこか、マイフェアレディの逆バージョンかなぁと思ってました。
プリティウーマン、こちらは現実的で、確かに眺める優しい視線はリチャードギアが合う気がします。ここは、自分のサイズも知らないくせに、あなたのサイズはご存知だったんですよと一言言ってあげてください。
愛される理由になってしまった気がします。(*^ー^)ノ←楽しみです~♪

Edit | Reply | 

紫猫  2010, 11. 14 [Sun] 20:02

可愛いですねw
紫龍のサイズだけはちゃんと把握してるだなんて~
思わず口元が綻んでしまいました~!

連絡を忘れて買い物をしてしまった紫苑…
心配で心配で怒ってる紫龍…
どんな行動をとるのでしょうか?!

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:08

鍵コメ NKさま

こんばんは。
一番コメントありがとうございましたヽ(^o^)丿

救出部隊?狙撃部隊?(笑)

紫苑だと身を呈して庇いそうなので止めましょう^^

今日の社会勉強が本当に役立ってくれる事を願います。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:10

junさま

おはようございます!

シャツのサイズ・・そう自分のは知らなくても紫龍のなら知ってる。
紫苑らしいですよね^^

初めての経験を沢山して、紫龍へのメールも忘れてました。

でも紫苑にとっては素敵な1日だったと思います^^

コメントいつもありがとうございます。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:12

鍵コメ Cさま

こんばんは。

皆さんの言葉を参考に逆プリティウーマンごっこをさせました(#^.^#)

お手ごろ価格のスーツで紫苑の仕事が始まります。
どういう悩みにどう答えて行くんだろう?
何だか私も楽しみです。

(事故^^;でしたか)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:14

鍵コメ Yさま

こんばんは。

長くなかったですか?良かったです。
区切りで書くと結構長くなっちゃう時がありますね。

書き慣れたキャラは本当に書きやすいですよね。

Yさん所も面白くなってきましたネ。

あとで伺いますネ。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:17

此花さま

こんばんはー!

プリティ・ウーマンって好きなんですよね私。
あの軽快なリズムでお着替えシーンも好きです。

愛される理由・・・素敵な言葉ですね。
「これも・・愛?」ですか(笑)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2010, 11. 15 [Mon] 00:22

紫猫 さま

こんばんは。

なんだか紫苑らしいミスでこっちは微笑ましいですが
当事者の紫龍は大変な1日だったと思います。

焦らすのもひとつの手でして(笑)

もう更新されてしまいましたが^^;
楽しんで下されば嬉しいです!

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?