天使の箱庭＜eternity＞

立夏は慶吾のマッサージが気持ち良くていつの間にか小さな寝息を立てていた。
「おやまぁ、これからっていうのにつまらない…」
慶吾は起きていれば悪戯を仕掛けようと思っていたのに、気持ち良さそうに寝ている立夏を見ると、さすがにそれは忍びない。

「おーい立夏珈琲…」
徹が自分のマゲカッブを片手に部屋に入って来た。
「しっ」
慶吾は唇に人差し指を立て静かにと目で合図を送る。

「何だ、お前の所じゃ寝るのがバイトか？」
「ふふ、マッサージしてやったら気持ち良さそうに寝てしまったよ」
「前立腺マッサージ？」
そう言った徹の頭をすかさず慶吾は殴った。
「ふざけるな」

「へえ？ど真ん中の割には随分と余裕だな？」
揶揄するように徹が言うと、慶吾も負けじと応戦する。
「徹こそ、ど真ん中だろう？線が細くて綺麗な子が……」
「慶吾こそ、健気で天然が……」


三か月前に、姉の花嫁衣裳を作ってくれと訪ねて来た立夏の話を聞いて、慶吾は立夏の健気さをいたく気に入り、バイトを条件に引き受けた。
そして数日後に徹と立夏を引き合わせた。見た目が徹の好みだと分かっていたが、この部屋に出入りする以上は徹にも面通ししておかないと後々都合が悪いし、慶吾と徹はある意味同志でもあった。

今まで同じ男を好きになった事は無かった。微妙に好みがズレているのと、出会いが外だった為にそれぞれの相手と会う機会も無かった。
「慶吾も、バイトだなんて姑息な手を使うよな……」
店には優秀なお針子さんを２名雇っていた。実際立夏がここでやる仕事など探しても少ししかない。慶吾はわざとこの部屋に用事を作り、立夏を働かせていた。


「俺に優先権があるんだからな、俺のいない所で立夏にちょっかいを出すなよ。今日みたいに」
「恋に優先順位なんか関係ないね」
慶吾の忠告に徹もそう言って主張する。

「ま、いいさ。立夏は俺の事を先生先生って慕っているからな。もう結果は見えたようなものだ」
「そんな事ないぞ。俺の事も結構気に入っているみたいだぞ」
立夏が男性を愛せるかどうか確認もしないうちから、大人の二人は熱く語り合っている。


「徹、これだけは言っておくけど解禁日はまだひと月先だからな」
「分かってるよ」
慶吾の言葉に徹は面倒臭そうに答えるが、徹だって立夏の姉の花嫁衣裳が完成するまで何かしようとは思ってはいなかった。


「それにしても可愛い寝顔を見せて……」
慶吾が口元を緩め立夏の寝顔を見ている。
立夏は自分を狙う男が直ぐ傍にいるのに、そんな事は全く気付いてはいない。


その頃立夏は夢を見ていた。
ドレスの件が余程気になっていたのだろう。
夢の中で、姉の冬香がドレスを着ていた。そんな綺麗な姉を立夏が見詰めるうちに、冬香のお腹がどんどん膨らんでくるのだ。
『立夏……お腹大きくなっちゃったから立夏の贈ってくれたドレス着れなくなったみたい』
『あぁだめ……ドレス破けてしまうよ』
『ごめんね、立夏。あぁ……っもう生まれるみたい……』
『姉ちゃん―――』

立夏は自分の上げた大きな声で目覚めた。
その声に驚いた慶吾と徹も心配そうな顔をして、ベッドに身を起した立夏に駆け寄った。
「どうした立夏？大丈夫か？」
「あ……赤ちゃんが生まれた……」
「「はいっ？」」
寝ぼけ眼の立夏の口から零れた言葉に、二人顔を見合わせて噴き出した。
「先生ごめんなさい。だから、姉ちゃんのドレス破けてしまいました」

夢現（ゆめうつつ）の立夏の頭に慶吾が手を置いて答えた。
「いいよ、破けても何度でも作ってあげるから」
「せ、先生……ありがとうございます。先生大好きです」

「心配しないで、もう少し寝ていなさい。俺も少し眠くなったから横に入っていい？」
「はい……どうぞ」
そんな立夏を見て徹は（こいつ完全に寝ぼけている）と笑い出したいのを堪えていた。
そんな寝ぼけた立夏を操るように、慶吾はとうとう同じベッドに潜り込んでしまう。

「少し一緒に寝ような。おやすみ」
「はい……先生おやすみなさい」

慶吾は徹に背中を向けたまま、追い払うように手で「しっし」という動作をする。
徹も、言った傍から立夏に何かするとは思えないので、黙って慶吾の部屋を後にした。

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すみません、11話で辻褄が合わない部分がありました。
ですので、11話を少々修正してラーメンも牛丼も無理に食べさせました(ﾟ∀ﾟ)

いつも教えて下さってありがとうございます～
大ドジですが、今後もひとつ宜しくお願い致します！！



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