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番外2弾 ひとつの旅立ち 前編

 15, 2011 00:00
「おい拓海、昼飯何処にする?」
一度外回りから戻った拓海にそう聞いてきたのは同期で一番気が合う鹿嶋雄太だった。

「鹿嶋午後は?」
「俺の午後のアポは2時」
時間に余裕がある事が嬉しいのか、雄太がにぱっと笑う。
「あ、俺もそんなもん」
拓海も雄太に向けて同じような笑みを投げた。お互いに慌てて駅前の立ち食い蕎麦をかきこまなくてもいいことに安堵する。

「たまには洒落た所に行かね?給料も出たばっかだしさ」
入社一年目が考える洒落た所とはせいぜいカフェか小さな洋食屋だ。
「あ、俺オムライス食べたい…」
少々値は張るが、あのとろーり卵のオムライスが急に食べたくなった。

「いいね。たまには贅沢しようか?」
「うん」
「でもさ、俺ら可愛いな」
雄太の言葉に拓海はぷっと吹き出した。雄太の外見は可愛いとはほど遠い逞しいものだった。学生時代ラクビーで鍛えた身体は未だ健在である。その逞しい体躯からは想像出来ないような柔和な瞳で雄太は笑う。学生時代はさぞもてただろうと、聞かなくても想像がつく。自分とは違う環境で育ち陰の部分などひとつもないだろう。

「ん、拓海どうした?」
「いや、雄太は明るいな。悩みなんか何も無いって顔をしている」
「ああ、ひでぇなぁ、俺だって悩みの一つや二つ……無いな」
雄太の言葉に拓海は思わず吹き出してしまった。雄太と一緒にいると自分までが普通の人間のように思えて幸せになる。

「拓海こそ、悩みなんかないって顔してるけど?学生時代随分もてただろう?」
「その言葉はそっくり雄太に返すよ」
そんな軽口をたたきながら目指す洋食屋に到着して、二人掛けのテーブルに着いた。
注文を終え暫く冗談を言い合っているうちに、美味しそうなオムライスがテーブルに置かれた。
「卵ってさ、何だか幸せの色していると思わない?」
拓海の言葉に雄太が吹き出した。
「拓海って、子供みたいだな。そんなにオムライスが好きなのか?」
「俺の一番は、エビチリだ。二番目はエビフライ」
「あははは、やっぱり子供みたいだ。見た目は随分と色気あるのにな」
雄太が美味そうに同じオムライスを頬張りながら拓海を揶揄する。
「何だよそれ……色気なんかないから俺」
「自分が気づいていないだけだよ」
ちょっとだけ真面目な顔の雄太に言われ拓海は、それ以上言葉を繋げなかった。


拓海には愛する人がいる。それは雄太にも告白できない相手だ。自分が勤める会社の社長である瀬田との最初の出会いは最悪だった。そして5年後、二度目の出会いで拓海は瀬田に身も心も捕まえられてしまった。今はとても幸せな生活を送っている。

「なあ拓海は学生時代に彼女いなかったのか?」
「いないよ。遊んでいる暇もなかったし……」
嘘ではない、彼女は本当にいないのだ。
「へえ……遊ぶ暇なかったんだ。拓海って真面目そうだもんな」
「そうじゃなくて、真面目なの」
拓海は努めて明るく言い放った。辛かった過去を振り返るつもりも、予定も無いのだ。自分は瀬田と共に歩くと決めた。依存ではないが自分の幸せは瀬田の隣にあると思っている。

「美味いな」
雄太が話を変えるようにオムライスに舌鼓を打っている。その時拓海の背広の内ポケットの携帯が着信を知らせる。拓海は携帯電話を取出しその画面を確認した。瀬田からの電話は雄太の前では出られない。
「ちょっと失礼」
拓海は雄太に断って携帯を手に店の外に出た。

「今どこだ?」
「同僚と食事中です」
「ああ、悪かったな。帰ってからでも良かったんだけど……」
「あの何か?」
「次の裁判の日取りが決まったと弁護士から連絡があってな」
「あ……」
拓海の腹を刺した佐久間の二度目の裁判の日が決まったらしい。そのことに拓海は一気に過去に引き戻されてしまう。
「拓海、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。詳しいことは帰ってから聞かせて下さい」
「そうだな、悪かったなせっかくの食事中に。ちなみに誰と一緒なんだ?」
拓海は瀬田の最後の一言に思わず口元が緩んだ。瀬田の声は責めているのではなく、何だか拗ねているように聞こえたからだ。
「営業の、鹿嶋雄太です」
「ああ、あいつか……」
「じゃあ切りますよ?」
「浮気はするなよ」
「な、何バカな事言って……浮気なんかしませんよ」
「ふふ、知っているよ。拓海は俺じゃないと満足させられないからな」
「昼間っからバカな事言っていないで下さい」
拓海は誰も聞いていないと知りつつも、携帯を耳に当てたまま周りを見回した。
「わっ!」振り向いた後ろに雄太がニヤニヤして立っていて拓海は思わず声を上げた。そしてそのまま通話を切断した。

「たくみ~~何だか怪しい会話してなかったか?」
雄太が人懐っこい笑みを浮かべながら近づいてくる。
「もう、びっくりするだろう。食事は?」
「もうとっくに食い終わった。食後の飲み物は珈琲でいいかって聞きに来たら、なんとまぁ拓海の色っぽい顔を見ちゃった」
「い、色っぽくなんかない!」
拓海は、口ごもりながら、それでも平静を保ちながら言った。雄太の出現で少し陰った心が浮上した気分だった。今まで誰かとこんなに親しくなったことは無かった。初めて出来た親友が雄太なのだ、瀬田とは違う意味で大事にしたいと拓海は口元を緩めた。



◇まだまだリハビリ中です。いや……リハビリという名の逃避ですが……


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COMMENT - 1

鷹屋  2011, 11. 16 [Wed] 20:20

ニヤけが止まりませんっ(≧∀≦)キャー

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