携帯電話を片手にネクタイを緩めながら、瀬田が姿を見せた。
「……どうし……て?」
「顔が少し赤いな、随分飲んだのか?」
拓海の問いには答えず、頬を指で触りながら瀬田が聞いてきた。
「あ、うん少し」
「そうか、同僚と飲むのはいい事だ」
瀬田は独占しているように見えても、拓海の自由を尊重してくれている。
学生時代に経験出来なかった事を、いっぱい経験すればいいと言ってくれているのだった。
「はい、楽しいお酒でした。でも今夜は帰って来られないんじゃ?」
「もう10日も拓海にちゃんと触れてない。そろそろ限界なんでな」
そう言って緩めたネクタイを、音を立てながら抜き取る姿に拓海は、一瞬見惚れた。
瀬田には到底敵わない大人の男としての色気がある。
「無理して帰って来て正解だな、拓海のリードってのもそそられそうだ……」
「あ……っ」
離れていたから言える事もあるのだ、それを分かっていて揶揄する瀬田を軽く睨む。
「おい、まだ誘うなよ。シャワー浴びて来るまで待っていて」
「さ・誘ってなんか……」
拓海の乾き切っていない髪をぐしゃっと掻き回してから、瀬田はシャワーを浴びて来ると言って、拓海の傍から離れた。
躰が火照る……アルコールと瀬田の男の色気に充てられたせいだろうか?そう思いながら拓海は、膝を抱えるようにソファに座り込んだ。
(参ったな……)
瀬田のあの調子じゃ、簡単に諦めてくれそうにない。
(誘うのは好きじゃない……)拓海の古傷がチクリと胸を刺す。
躰を売ろうとしていた自分を思い出してしまう。
ぼんやりしていた拓海は、瀬田が戻って来たのに気付かなかった。
難しい顔をしている拓海を斜め後ろから、じっと眺めていた。
「あぁさっぱりした」
瀬田はそう言って冷蔵庫から缶ビールを取り出し「お前も飲むか?」と聞いてきた。
拓海はゆっくりと首を横に振る。これ以上飲んだらもっと大変な事になりそうだ。
瀬田はごくごくと美味そうにビールを数口飲むと、拓海の隣に腰を下ろした。
「さっきの勢いはどうした?」
「あ・あれは……」帰って来ないと思ったから言えた言葉だ。
「でも、帰って来てくれて嬉しい」
素直な言葉を掛ける割には、拓海の体は微動だにしなかった。
「さあ、リードしてもらおうかな?」完全に揶揄されているのは分かっているが、拓海は指先ひとつも動かせないでいた。
そんな拓海の肩を抱きながら瀬田が囁いた。
「拓海、お前が誘うのは後にも先にも俺だけだ」
「何でも……お見通し?」
「当たり前だ、俺は拓海しか見ていないからな」
(狡い、狡い、狡い……)こんな事を言われたら、もっと好きになってしまう。
「来て……」拓海は覚悟を決めたように、瀬田の手を取り立たせた。
瀬田は、黙って拓海の手を握り返し立ち上る。
「寝室に行こう」拓海は、ベッドという直接的な言葉を使えなくてそう言った。
寝室に入り、ベッドに腰掛ける拓海の前に瀬田が立つ。
瀬田はただ口元を緩め拓海を見下ろしていた。
拓海は黙って、瀬田のバスローブの紐を解き、前を広げた。
目の前に見事な腹筋があり、視線を上げると逞しい胸板、そして男でも見惚れるような端正な顔がある。
「俺だけ脱がされるの?」瀬田に言われて拓海は、自分がまだしっかりとパジャマを着ている事に気づいた。
ベッドに腰掛けたまま、慌てて全てを剥ぎ取った。
くすりと頭の上で瀬田が失笑し、今度は脱ぎ過ぎた事に気づき顔が赤くなってしまった。
「潔いな」
ちょっとむっとした顔を見せて、拓海は立ち上り瀬田の肩からバスローブを落した。
「脱がされるのもいいものだな」
楽しそうな瀬田の顔が憎らしくて、その唇を拓海は自分から塞いだ。
拓海は塞がれたまま、仕掛けて来ない瀬田の唇を割って舌を差し込んだ。
もう数えきれない程交わしたキスでも、自分からこんなに積極的にした事は無かった。
瀬田の熱い昂ぶりが拓海の体に当たり、拓海は貪るように夢中になって瀬田の舌に絡めた。
どんどんと自分の息が上がり、気持ちが昂ぶって来る。
「あぁ……」甘い吐息を漏らしたのは拓海の方だ。
拓海の声に反応するように瀬田の躰も一層嵩を増したようだった。
だが、瀬田は自分からはまだ動かない。
触って欲しい……その言葉は恥ずかしくて言えないから呑み込み、瀬田の胸に手を這わせた。
「触って」自分が言いたかった言葉を瀬田に耳元で囁かれた。
拓海は、胸に這わせた手をゆっくりと下に下げた。
「あ……熱い」
拓海の手の中で、それは熱を持ちどくどくと息づいていた。
今までずっと瀬田のリードで繋がって来た拓海は、そうそう瀬田の躰に触れる機会が無かった。
機会というか、余裕が無かったのだ。
拓海は自分の目が潤んでいる事など気づかずに、瀬田に触れた手を動かすか迷った。
手の中の昂ぶりをどうすれば気持ちいいのか、同じ男なら判る。
いつもしてもらっている事を今夜は、自分がすれば……
拓海は瀬田の躰を押し、向きを変えベッドに座らせた。
そして、その前に跪く。
「拓海……?」瀬田は拓海がやろうとしている事にちょっと慌てて声を掛けた。
「うん、俺にさせて……」
拓海はそう言うと、瀬田の下半身に顔を寄せていった。
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