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(10万hitキリリク)何処までも果てしなく 2

 06, 2011 00:00
午後の仕事を無難に終わらせた拓海と野村は、会社を出る支度をしていた。
拓海は個人携帯がメールを受信した事に気づき、野村に気づかれないように開いた。
『お疲れ。やはり今夜は無理そうだ』たったそれだけの文面なのに、拓海は口元が緩んでしまう。
『はい、僕は先輩と少しだけ飲んでから帰宅します』
拓海は、正直に打ち込んでメールを送信してから、背広のポケットに携帯を仕舞った。

「おい、行くぞ」「はい」
そして行った先は、拓海のたっての希望であった焼鳥屋。
「本当に信じられない奴だな……」
野村が呆れるが、拓海は今まで一度もこういう店に来たことがなかったから、嬉しかった。
「俺、初めてなんです……」
「スーツに焼き鳥の臭いが浸みるぞ」
「明日休みだし、ちゃんと手入れすれば大丈夫です」

「だから坊ちゃんは……」
野村は焼鳥屋に来たかった拓海の思いをそういうふうに捕えていた。
「あの……野村さん、激しく誤解されていますよ?」
「うん?」野村はネギまと鳥皮を注文しながら、拓海を振り向いた。
「俺がこういう店が初めてなのは、苦学生だったからそんな余裕がなかっただけなんです」
「え……?尾崎が苦学生?」
「はい」
拓海は野村には、少しくらいは話しておいた方がいいだろうと思い言う事にした。

「俺は、もう両親いなくて奨学金で大学も卒業したし……だからそんな金持ちとかの息子じゃないですから」
想像もしなかった事を聞いた野村は、一瞬戸惑った表情をしたが、直ぐに何時もの顔に戻った。
「そうか……からかって悪かったな。やっぱ今夜は俺の奢りだ、一杯食えよ」
「……はい、ご馳走になります」
拓海も意地を張っても仕方ないと思って、甘える事にした。

拓海は学生時代バイトの行き帰りに、胃袋を刺激する焼き鳥の匂いに誘われても、店に入る事は一度も無かった。
「だが……」焼き鳥を頬張りながら野村が言葉を発した。
「尾崎みたいなのは、損なのか得なのか分からないな……とても苦労していそうには見えない」
今度は明らかにからかうような言い方だった。
拓海も苦笑して「そうですか?」と相槌を打った。

初めて飲んだホッピーも美味かった。
瀬田と飲む事はあっても、小洒落たバーやホテルのラウンジだ。
こういう素朴な店は気取らなくていい。拓海は普段より飲む量も多くなった。

「何か俺、野村さんの下に付いて仕事が出来て嬉しいです」
拓海は思っていた事を野村に言葉にして表し感謝した。
「俺もだよ、尾崎は真面目だし、要領が悪いから気に入っている」
「凄い所で気に入られているんですね」と拓海は苦笑したが、嫌な気分では無かった。
こういう風に仕事が終わった後に、同僚と飲む酒が美味い事を初めて知った。
(生きていて良かった……)
大袈裟かもしれないが、拓海は心の中でそう呟いた。

自分を生かしてくれたのも瀬田だし、今こうしているのも瀬田のお陰だ。
そう思うと急に瀬田の事が恋しくなってきた。

2時間程度焼き鳥を食べながら、仕事の話や学生時代の話をして時を過ごした。
「そろそろ帰るか?それとも、もう1件行くか?」
「いえ、帰ります。今夜は本当にご馳走様でした」
「そうか、又飲もうな」
「はい、今度は給料日後に、俺にご馳走させて下さいね」
「おう、期待しているよ」
そう言って笑う野村と駅で別れた。
酒豪の野村はもう1件寄ってから帰るそうだ、流石に拓海はそこまで酒に強くはなかった。
それどころか、普段よりも酒量が多かったから、これ以上飲んだら帰るのにタクシーを使う破目になりかねない。

拓海は誰も居ない部屋の扉を開けた。
「ふぅ……」
やはり調子に乗って少し飲み過ぎたみたいだ。ソファに深く沈むと小さな溜め息が出てしまう。
酔いと焼き鳥の臭いを消す為にシャワーを浴びて、ペットボトルの水を飲む。
アルコールのせいか、タレの濃い味のせいか喉が渇いて仕方なかった。

「はぁ……」
瀬田が出張する事はあったが、泊りはなるべく避けていたせいか一人の夜には慣れていない。
ただでさえ広い部屋が、余計に広く見えて何だか寂しく感じてしまう。
拓海は携帯を取り出し、着信メールを確認したが瀬田からのは入っていなかった。
おやすみのメールをしようか悩んでいる時に、携帯が鳴った。

「もしもし!」
「お、随分と早いな」
ワンコールで電話に出た拓海を、揶揄するような瀬田の声が聞こえたが、それでも良かった。
メールで我慢しようと思っていたのに、声が聞けたのだ、それだけでも嬉しかった。
「凄い歓迎されている?」瀬田は言葉を続けた。
「はい……」
アルコールのせいか拓海は素直に自分の気持ちを言えそうだ。
「会いたい……」
一人がこんなに寂しいと感じた事は今まで無かった。
「拓海……?」
「あ、ごめん。俺ちょっと飲んだから」

「飲んだから?」
「……だから、素直みたい」
拓海も自分の言葉に苦笑しながらそう言った。
「奇遇だな、俺も会いたいよ」瀬田もそう返す。
「それなら……来て、帰って来て」
拓海は、子供のような我儘も言ってみたりする。
「何?帰ったら何か良い事でもあるのか?拓海がリードしてくれるとか?」
「いいよ、俺だってそのくらい出来るから……」
酒の勢いとは怖いものである。

―――ガタッ

誰も居ないはずの玄関で物音がした。



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COMMENT - 3

龍  2011, 06. 06 [Mon] 00:12

うひゃぁー///来たぁー///

私もこんな彼氏探します←ぇ

Edit | Reply | 

ちこ  2011, 06. 06 [Mon] 00:41

うわ~い(≧▼≦)

わ~い、誘い受けっ、誘い受けっ♪
囃立ててみる(笑)→うるさいっと叱られそうなので退散してみる→むふふっ(//∀//)エヘッ→拓海くん、欲望の海へダイブ(*/ω\*)
あっ、届きましたよ~~~ありがとうございました~~~o(^∇^o)(o^∇^)o日曜日につき、まだ、開封出来ずに大切に大切に、「私が死んだら、このまま開封せずに捨てて下さい箱」へ保管しました(笑)
ああ、誰にも見せられない秘密の箱・・・(//∀//)

Edit | Reply | 

梨沙  2011, 06. 06 [Mon] 12:20

(⌒~⌒)ニンマリ

拓海は上手にお誘いできるのかしらw
続きを楽しみにしてまーす(*^^*)ポッ

Edit | Reply | 

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