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俺、武藤駿平 20 (お知らせあり)

 30, 2011 00:14
「いつまでも死んだ男の形見なんか身に付けていないで、俺のもんになれって言っているだろう?」
「社長……冗談は顔だけにして下さい」
「いつまでもそんな安物の指輪なんかしているからだ」
剣持が冗談を言っているのではない事は、那月は良く分かっていた。
傲慢なように見えて、それでも那月の気持ちが傾くのをずっと待っている男だった。

「安物でもいいんです……それに死んでないし……」
もう別れて3年も経てば死んだと同じか?などと思い、つい皮肉な笑みが浮かんでしまう。

そう……駿平と別れて3年の歳月が流れた。
だが、未だに駿平から貰ったシルバーの指輪を外す勇気は、那月には無かった。
本当に形見のように肌身離さず持っていたのだ。
「おい、昼飯に行くぞ」
デザイン室にいる全員に声を掛けて、剣持が皆を促した。
喰える時に喰っておく、それほどに今の仕事は納期が迫り、皆寝食も忘れたように働いていた。

だからこうして、時々顔をだし皆に昼飯をご馳走したり、夜食を差し入れたりしてくれる剣持社長は、皆から慕われていた。
この部屋の一番のお気に入りが那月という事は、もう皆が認める所だった。

鰻やの座敷に10人程の面子が揃い、美味そうに鰻重を食べている。
「社長は、相変わらず那月さんに振られっぱなしなんですか?」
入社3年目で、まだ25歳の伊藤という男が遠慮の無い言葉で、剣持をからかっていた。
「そうだよ、君たちが気を利かせて那月と二人きりにしてくれたら、もう強引にでも押し倒すのに」
昼飯時に何て怖い事を、それも社員の前で言うのかと、驚いて剣持の顔を睨んだ。

「あははっ、駄目ですよ社長……那月さんは皆のアイドルなんだから、独り占めは無しっすよ」
若々しい伊藤の口調と物怖じしない態度を、那月は駿平と重ねた。
「アイドルだなんて……僕だってもう三十歳になるんだよ」
那月はそう言うと、厚みのある鰻を口に入れた。
「さ・三十歳……大丈夫ですよ。あの超人気アイドルグループのリーダーだって三十歳ですよ。全然大丈夫ですよ、まだまだアイドルですよ、那月さん!」
「はぁ……」
喜んでいいのか嘆くべきなのか分からないが、ここは喜んでおこうと思い「ありがとう、伊藤君」と微笑むと伊藤は残りの鰻重を全部掻き込み「社長!お代わりいいですかっ!」と又傍若無人ぶりを発揮している。

「ああ、食いだめが出来る奴は、何杯でも喰いだめしろ」
やけになったような社長の言葉に、何人かが「お代わり!」と手を上げた。
こういう風に、皆で楽しく摂る食事は美味い……
「那月は?」と誰かに聞かれたが「もう充分」と首を横に振った。
「もっと喰え、もっと体力付けないと俺の相手はキツイぞ」
「それ、セクハラですよっ社長!」
地獄耳の伊藤はすかさず、剣持に突っ込みを入れる。

もうそんな些細な事すら、那月は楽しく感じてしまう。
最近は部屋に戻り、一人で過ごす時間が少し辛く感じ始めていた。

2杯目を食べ始めた若い社員たちが、食事が終わるのを、のんびりお茶を飲みながら待った。
「那月さん、そんなに好きならどうして別れたんですか?」
伊藤が、那月の指輪を見ながらそう聞いてきた。
どうも暇があると無意識に指輪を弄っているらしい。それも最近言われた事だったのだが……。

「色々あるんだよ、大人には……」
まさか付き合っていたのが、6歳も年下の同性とは那月も言えなかった。
「俺だったら、那月さんにそんな寂しそうな顔はさせないのに……」
「えっ?伊藤君何言って……」
「那月さん隙だらけですよ、気を付けた方がいいですよ」
それだけ言うと、伊藤は鰻重を片手に別な仲間の所に移って行った。

その姿をぼんやり眺めていると、また剣持が隣に来て座った。
「生きていれば、伊藤と同じくらいか……」
「だから、死んでいませんって」
那月がきっと睨むと、剣持は少し寂しそうな目をして言った。
「もうそろそろ、胸ん中で殺してもいいんじゃないか?」
「そんなに僕……未練がましく見えますか?」那月がそう言うと
「ああ、未練の塊、煩悩の塊に見えるぞ」
「そんな……」あまりに酷い言われように、那月も返す言葉が無かった。

「那月は、あいつと別れてから誰ともやってないだろう?」
「そ……そんな事は社長には関係ありませんから」
恥かしいのと、見透かされてしまったので那月は顔を赤くして抗った。
「一度、遊びでもいいから、誰かとやってみな。案外吹っ切れるもんだぞ」
「あそ……遊びって……」
「まあ、一夜の遊び相手も見つからなかったら、その時は俺が抱いてやるよ。その代わり一夜じゃ済まないけどな」

本当に剣持の言葉は、本気か冗談か区別がつかない時があるのだ。
頭の中で剣持の言葉を反芻しながら、また那月は無意識に、左手のシルバーの指輪を回すように弄っていた。
(……駿平)
ほんの些細な出来事で、3年前に那月は駿平に別れを告げたのだった。


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COMMENT - 2

NK  2011, 05. 30 [Mon] 13:43

1話くらい読み飛ばしたのかと思っちゃいました。
別れて3年も経つなんて。
那月さんはまた過去を引きずる寂しい人になっちゃったのですね。
美貌なのに、、その愁いのあるところがまた魅力upなのかなぁ。
ちょっとそういう幸薄いのが似合う気も。。。(あ、他の読者さまからの冷たい視線を感じる。。。)

わんこ駿平くんはいないし、別れた原因も分からないから、
説教隊が活躍できる場がないです。。。

懲りずに迫り続ける社長さんに流されない那月さんは偉い。

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-  2011, 05. 30 [Mon] 21:24

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