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俺、武藤駿平 21

 31, 2011 00:26
結局この日も終わったのは、夜の10時過ぎてからだった。
独り暮らしの気楽さで何時になろうと、気を使う相手も心配してくれる相手もいない。
「那月さん、俺ら飲みに行くけど少しだけ一緒しませんか?」
伊藤の後ろで4人の同僚が、にやにやしながら待っていた。
今まで那月は、伊藤の誘いに良い返事をした事が無かったからだ。
「いいよ、少しだけ……」那月がそう返事をすると伊藤が破顔し、後ろの連中が指笛を鳴らした。
「何を大袈裟な?」那月はそう言うと自然に笑みを零した。
「すげぇ!俺幸せ~~」伊藤も大袈裟に騒ぎ立て、結局6人で一緒に部署を出て飲み屋に向かった。

どこにでもある居酒屋は金曜日の夜ともなると、座る席も無い程に混み合っていた。
4人掛けのテーブルが多い中、6人という人数は結構大所帯になり、奥の座敷に通された。
テーブルと違い、背中には別のグループが居る。
それでもその席を蹴ると、席が空くまで待たねばならないのだ。
「那月さん、座敷でもいいですか?」伊藤の言葉に他の連中が「何で俺らに聞かないんだよ」と伊藤の頭を突くが、それでも伊藤は嬉しそうな顔を見せる。

「全く、今日の伊藤に何を言っても無駄みたいだな?」
「そうだな、憧れの那月と一緒に飲めるんだからな」などと口ぐちに冷やかされる。
「先輩たちが居なくて二人っきりなら、もっと嬉しいんですけどね?帰ってくれません?」
「ふざけんな」と呆れられながらも、しっかりと那月の隣をキープする伊藤に皆から苦笑が漏れる。
伊藤の天真爛漫さは、仕事で荒れた心に笑いをもたらしてくれるのだ。
「伊藤こそ皆のアイドルだね」と那月が言うと、すかさず「俺は那月さんだけのアイドルでいいですっ」と切り替えされた。

騒いでいるうちに1杯目の生ビールがそれぞれの前に置かれ、一斉に乾杯とグラスを合わせた。
そんな時那月は、ふと隣の席から視線を感じた。
隣のグループもどこかのサラリーマン風だったが、ちらと見た中に知っている顔は無かった。

飲み始めて30分もすると、自然と2人ずつに分かれ、仕事や恋人家族の話に花を咲かせていた。
「那月さん、ほらこれも食べて」ちゃっかりと、他の同僚が頼んだ皿も那月の前に置く。
「てめぇ伊藤」と怒られてもどこ吹く風だ。
(駿平に似ている……)

ぼんやりしていると、後ろから肩をトントンと小さく叩かれた。
「那月さんですよね?」
「えっと?何処かで逢ったかな?」
那月の名前はここに来てから伊藤が何度も叫ぶように呼んでいた。
隣の席の人間にもそれは聞こえているのは、充分理解出来た。

「僕の事判りませんか?」
「…………?」
那月は人の顔を覚えるのが苦手な訳ではないが、この青年の顔に見覚えはなかった。
「あの、人違いじゃ?」那月がやんわりとそう言うと、その青年の目が急に険しくなった。
「駿平を捨てたくせに、また若い男ですか?」
「え…………っ?」
突然出て来た駿平の名前に、那月は目を見開きその青年の顔を見詰めた。

「あ……っ」那月はその顔を思い出した。
忘れてしまいたい顔は駿平と別れた時に封印した。
那月とその青年のやり取りに、両方の席の連中が静かになった。
「ちょっと外いいですか?」
青年の提案に、那月も頷き立ち上った。
「那月さん!」伊藤が慌てて那月の手を引くが、那月は「大丈夫」と小さく呟いてその青年の後を追った。

「よく僕の顔覚えていたね?」
一度すれ違う程度にしか会っていないのだ、3年ぶりに居酒屋で会って判るものだろうか?とその青年の記憶力に感心もした。
「はっ、駿平の携帯の待受け見たことなかったの?那月さんの顔だよ。それも何種類も……」
「待受け……?」
どこぞの恋人同士のように、携帯のチェックなどする筈もなかった。

「駿平と那月さんの事は仲間内じゃ有名だったんだよ。那月さん那月さんって、煩くて仕方なかったよ」
この青年はいったい何が言いたいのだろう?那月はぼんやりとそんな事を考えていた。
「そんな駿平を僕は好きになった。貴方から盗ろうと色々モーション掛けたけど、駄目だった」
そんな過去の自分をあざ笑うかのように、青年は自嘲気味な笑顔を見せた。

「でも、あの時部屋で……」
「具合悪いって言って部屋に上げてもらったよ。そんなの相手を口説くための常套手段だよ?」
青年は、そんな事も分からないのか?という目で那月を睨み付ける。
あの日予定よりも早く帰宅した那月は、バツの悪そうな顔をして、手の甲で唇を軽く拭った駿平を目撃しているのだ。

「キスはしてもらった……抱けないのなら、せめてそれで諦めさせてくれって強請ったんだ……」
「キス……だけ?}
「そうだよ、駿平の奴、俺は、一生那月さん以外は抱かないからって……」
「駿平……」
「そう言われたら泣いて諦めるしかないじゃん?」
そう、あの時この青年は泣いていた。それもショックだったのを思い出した。

「それなのに、あの後直ぐ別れちゃうし、駿平はアメリカ行くし……」
「駿平がアメリカ?」
「はぁ?そんな事も知らなかったの?」
従兄弟の康二すら、そんな事を言ってなかった。
いや尋ねようとしなかった。
「もういいよ……過去の事だから」そう那月は自身に言い聞かせた。
一番その過去を引き摺っているのは自分なのに。
何だか体中の力が抜けるようだった、大して飲んでいない酒も急に血管を巡り始めた。


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COMMENT - 4

梨沙  2011, 05. 31 [Tue] 11:05

なんとまぁ…

何かお互い タイミングが悪い中で鉢合わせして そのまま別れ話になったのでしょうか!?
(ー。ー)フゥ 難しいですね(^^;; 那月さん なんって言ってしまったんでしょうねポリポリ (・・*)ゞ

Edit | Reply | 

けいったん  2011, 05. 31 [Tue] 11:13

ラブラブな駿平と那月が どうして別れたのか 気になっていたのですが、こんな事があったとは!Σヽ(゚Д゚○)ノ

”あの”駿平が 那月と離れるなんて おかしいと思ってましたよ~(´。・ω・。`)シクシク
誤解のままだなんて 何故 話し合わなかったのでしょうね。

これは 説教隊で 未練たらたらなのに 頑なになってる那月に ひとつ言わなくちゃ!
「「「自分の心に素直になりなよ!!!」」」ヽ(`・ω・´(`・ω・´)`・ω・´)ノ...byebye☆

Edit | Reply | 

NK  2011, 05. 31 [Tue] 15:59

あっ、けいったん隊員に呼ばれている!

那月さんは愁いが似合う。。と、うっとりしている場合じゃなかった。(汗)
ミッションだ!
いつもと違って相手は那月さん!?

「那月さん、未練いっぱいでシルバーの指輪を弄んでいる位なら、勇気出して駿平君に謝らなくては。
貴方は年上なのだから、大人の余裕で許してあげるくらいじゃなくてどうするのです!
年下の彼のプライドを立てて折れてあげる位になりなさい!!
駿平君は甘やかしてつけ上がるような子じゃないですよ。」

久々の説教だから、なんかクドクドしいな。。。
こんなんで大丈夫ですか?

Edit | Reply | 

ちこ  2011, 05. 31 [Tue] 19:20

けいったん隊長の呼び声が~~~~~♪

おうっ!
説教隊集合の呼び声が~~~♪
急がねば!!
そうだ、そうだ一度無くしたものを取り返すのは大変なんだぞ~しかも例の社長は両手を上げてキャッチのタイミングを計ってるじゃあないかっ!!
痴漢に狙われ、社長に狙われ←あっ、でも好い人っぽい、咬ませ犬(笑)
こ~んなに魅力満点なのに自覚なさすぎるぞ~~~誰か鏡、でっかい奴プレゼントしてあげてっ(≧▼≦)
駿平も、遠いアメリカで金髪のお姉さんの誘惑に負けずに頑張ってるはずだ!!那月さん、素直になって~~~~~(≧▼≦)

はあはあ、こんなもんで、よろしゅうございますか?けいったん隊長(^_-)ゞビシッ

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