天使の箱庭＜eternity＞

「秀人の小さい頃って可愛いなぁ……」蓮がアルバムを捲りながらそう言うと「でも僕両親のどっちにも似ていなくて、小さい頃結構悩んだんだ」それは今の秀人を見ても似ていない親子だなと蓮も思った事だった。
「俺も両親に似てないよ……」その言葉に秀人は安心したように次のページを捲った。

ふっと蓮と指先が触れた……その手に蓮がそっと手を重ねると秀人は恥ずかしそうに俯いた。
「まだ会って日も浅いのにどうして僕はこんなに好きになったんだろう？」
「生まれる前から決まっていたからだよ」
普通だったら気障と笑い飛ばす所だが、自分と蓮に関してはその通りだと思った。
「僕たちは生まれ変わったの？」
「さあどうなんだろう？よく判らないけど秀人とは本当に運命の結びつきだと思っているから。もし違う形で出会っても必ず秀人を好きになったと思う」
「僕も……あのポスターを始めて見た時に胸が苦しくなった」

「どこまで思い出した？」
「あの山の家で貴方と暮らして……そして貴方が死んだ……」
「その前は？」
「その前？僕たちは最初っからずっとあそこに住んでいたんじゃないの？」
「……じゃ兼介さんの事は？」
「良く判らないけど、何故か昔から僕を大事にしてくれていたような気がして……」

大奥での事は何も覚えていないらしい秀人に安心と同時に不安も覚えた。これ以上は何も思いだしては欲しくない。
兼介は上様だと蓮は確信している。その事を兼介と秀人が気づいてしまったら……？そんな事は考えたくはなかった。

コンコンとドアがノックされた。
「秀ちゃん、お布団こっちに運ぶから手伝って」
「あ、俺自分でやります」蓮が立ち上がると「そう？お客様に申し訳ないけど秀人よりは力がありそうだから頼もうかしら？」実年齢よりもずっと若く見られる母はやはりモデルの蓮を実際に見ると何か嬉しそうだった。蓮が手土産に持って来た化粧品の詰め合わせも凄く喜んでいたのだ。

母と部屋を出た蓮が布団を抱えて戻って来て秀人のベッドの下に敷いた。
「何か緊張するね」蓮は照れたようにそんな事を言っている。
階下に降りかかけた母が「お風呂一緒に入れば？」などと能天気な事を言って来た。
「え……っ？一緒ですか……？」蓮が驚いた顔を見せると「うちのお風呂は凄く広いのよ、サッカーチームの子供だちを練習後にお風呂に入れる為に改造したのよ」
その言葉に蓮は秀人の顔を見た「まっ……広い事は確かだけど……どうする？一緒に入る？」
「じゃ、一緒に入ろうか？」あまり拘って変な勘繰りをされるのも都合が悪い。

「じゃ着替えに主人のジャージ出しておくわねぇ」機嫌よく階下に降りる母の足音を聞きながら秀人と蓮は見つめ合って微笑んだ。
「でも一緒だなんて……俺にはちょっと拷問だな」秀人をからかうように蓮はそう言った。
「じ・じゃ……し・下だからお風呂……」秀人はそう言いながらも顔を真っ赤に染めていた。

浴室に入ると蓮は本当に驚いた顔で「本当に広いなぁ……プチ銭湯みたいだね。大人でも３・４人は楽に入れそうだ」と呟いた。「早く上がらないと父さん帰って来たら絶対に乱入しそうだから…」秀人は蓮の体を見ないようにそう言った。
「秀人、おいで背中流してあげるから」
「い・いいよ」
だが「遠慮するなよ」と蓮は秀人の腕を引き自分の前の椅子に座らせた。
「は・恥ずかしい……」「何を今更」と蓮は笑うが明るい浴室で見られる裸はベッドの中とは意味が違うし、それだってまだ１回きりの事なのだから……と秀人は内心思っていた。

優しく背中を撫でるように洗う蓮の手に体が強張ってしまう。
「この傷……ごめんね助けてあげられなくて」
「蓮のせいじゃない……」
二人は過去と現実の狭間を行き来しながら体を洗い合った。まるで友達や兄弟のように敢えて振る舞った。そうでないと体が反応してしまいそうだから……

「これでうちに泊まる口実が出来たね」蓮が湯船に浸かりながらそんな事を言った。
「えっ？あ……」秀人は泊まっていけという父の提案に蓮が簡単に頷いた理由が今やっと判った。
「ご両親を騙しているようで悪いと思うけど……簡単に理解してもらえるとは思えないから……」
「う……ん」
「今度の週末泊まりに来れる？」
「……う・うん」薬草の本を見せてもらうと言えば許可は下りそうだ。
それ以前に秀人は成人した大学生だ、そうそう親も厳しくはない。
蓮の部屋に泊まりに行ったらそこで何が起こるかなどは簡単に想像出来た。
そして週末を思い描いた秀人の体がずくんと疼いた……



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