2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼方から 29

 19, 2011 23:59
夜の仕事の仙波の朝は遅い、目が覚めた時にはもう兼介の姿はなかった。昨夜浴室で兼介に貫かれ我を忘れてしまった仙波はひとりのベッドで小さな溜息を吐いた。
だるい体を引き摺りながらダイニングに行くとテーブルの上に白いメモが乗っていた。
『仕事あるから行く。たまにはゆっくり寝ておけ。』
まだ30分も経ってないのだろうコーヒーメーカーからは香ばしい珈琲の匂いが漂っていた。仙波は兼介の淹れておいてくれた珈琲をカップに注いで口に含んだ。
良い香りだが少し苦味が強い珈琲は兼介のような味だと思いながら、カップを片手にソファに身を沈めた。


そしてその夜―――秀人の家のリビングには初めて訪問して緊張した顔で蓮が座っていた。
「僕が前に渋谷で気分悪くなった時に助けてくれた人を招待したい」
と秀人が父親に言った事に始まった。
「相手の都合が良ければ今夜にでも」と言われ早々に蓮を自宅に呼んだのだった。

「モデルだと聞いていたけど想像以上に良い男だな」と父に言われ恐縮している蓮を見ているのも楽しかった。だが秀人の父は蓮の顔をじっと見て首を傾げていた。
「何処かで見た顔だな……小野田蓮君って言ったか?」そう改めて聞く父は白衣を着ていなければ到底医者には見えないタイプの精悍な男だ。

「はい、帰国してからはモデルをしていますが、今の事務所との契約が終了したら製薬会社の研究所に入ります」
「そうだっ!」父が手の平をぽんと叩いて立ち上り部屋を出て行った。
暫くして戻った父の手には一冊の医療関係の雑誌が握られていた。
「2年前にこの本で紹介されていたんだ……」やっとすっきりした顔で蓮を正面から見てそう言う。
「あ、はい俺です」

「そうか、いやぁ優秀な子がいるもんだと思って読んでいたんだよ、だけど何故モデルなんかを?あ、なんかって言ったら失礼だな」
苦笑いする父に向かって「ちょっと人探ししていたもので、自由な時間が欲しかったんです……」
「そうか、その探していた人とは会えたのか?」
「はい……」
「それは良かった」
何も知らずに笑顔を見せる秀人の父親の顔を複雑な気持ちで秀人も蓮も見ていた。

「蓮さんって貴重な本を沢山持っているんだよ」と秀人は話題を変えた。
そこからは同じ趣味を持つ仲間のように医学や薬学について語り合った。
「大学院の研究所には行かないのか?」
「それも考えましたが会社の方が研究費が多くて」苦笑して答える蓮に笑顔を見せてから秀人に向き直り「本当はお前も薬学に進みたかったんだろう?」「え……?知ってたんだ……」

「こいつはね、小学3年までは俺が教えていた少年サッカーチームにいたんだよ、これでも」
と蓮に向かって思い出話を始めた。
「サッカーですか?先生はイメージ出来るけど秀人はちょっと……」蓮もおかしそうに笑ってから「あ、だからシュートなんですね?」「お父さん単純だからそんな名前を付けたらサッカーが好きになるって思ってたみたい」

「だけどこの子は、ボールを取りに行って草叢でも見つけたら1時間は帰ってこない子で……気が付くと泥まみれじゃなくて、草の汁まみれだったんだよ」そう言って秀人の父は豪快に笑った。
「見たかったな……秀人のユニフォーム姿」
「見る?僕に部屋に行こう」
そんな話の最中に電話を受けていた母に呼ばれた。
「あなた、佐藤さん所のおばあちゃまが捻挫されたって電話なんですが……」
「はぁっ又階段を踏み外したな?あのばぁさん、いいよ今行くって言っておいてくれ」

「これから往診ですか?」今時まだこんな医者が居たのかと蓮は驚いた。
「病院嫌いなばぁさんでな……小野田君悪いな出かけるけどゆっくりしててくれ。何なら泊まって行けばいい」父の言葉に母も「そうなさい、朝は日本の朝食を振る舞うわ」と楽しそうに腕捲りをしてみせた。

秀人の部屋に行ってから蓮は「良いご両親だね」と心底そう思い言葉にした。
「うん……」
暫しの沈黙はお互いの罪悪感からだろうか?両親の前では明るい笑顔を見せていた秀人の顔に憂いの色が浮かんだ。
「ごめんな……俺が引きずり込んだ」
「ううん、今思うと僕もずっと自分に違和感あったから……」

「アルバム見せて」そう言う蓮に秀人は笑顔を見せてアルバムを引っ張り出した。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
キャッ秀麗!ポチっと押して下されば嬉しいです


FC2のランキングにも参加中です^^

関連記事

COMMENT - 4

NK  2011, 04. 20 [Wed] 08:45

飼い殺しにはしない、自由にしてて良い…と、兼兄上さまに独占されたいと願っている仙波さんに残酷なことを言いながら、仙波さんが他の人に惹かれたら心穏やかではいられない、妨害するとは、なんと身勝手。さらに秀人への執着も。流石 上様なのでしょうか。
想い人の去った朝の仙波さんの切なさが。。。

秀人は体育会系の父に育てられたのですね。ちょっと意外。

Edit | Reply | 

梨沙  2011, 04. 20 [Wed] 20:58

o(*^▽^*)o~♪

仙波さん 切ないですね~(ToT) 兼にぃさんとこの先どんな風な関係になるんですかね…
切ないと言えば蓮もちょっと罪悪感感じてるみたいだし… 秀人のご両親と対面して幸せな雰囲気を目の当たりにしたらそうなるのも致し方ないのかな!? でも 2人には幸せになって欲しいです!! 悩まないで~
あっ kikyouさん体調大丈夫ですか? 私は…です(^^;; 1~3月に何回も風邪を引いたのがいけないのか!?体重が激減してしまってヽ(TдT)ノアーウ…  元になかなか戻らなくて体力的にちょっと厳しくて(;_;)
長い目でみるつもりです(^.^)焦ってもどうにもならないので

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 04. 20 [Wed] 21:21

NKさま

こんばんは。

自由にさせているつもりだけど、本当は仙波の羽は兼介がもいでいる……
ハーレムで生きた上様だったら、現代でも多少はやんちゃだろうな?って感じで設定しています^^;

仙波……まだまだ可哀想ですね・゚゚・.(/□\*).・゚゚・
でも仙波も幸せにしてあげます……どんな形かは未定だけど(笑)

そうですぅ、秀人パパは赤ひげ先生みたいで、スポーツマンなんです。
秀人と逆のイメージで設定しましたぁ(゚∀゚)

今散らばった言葉の欠片を拾い集めています。
でもなかなか結末が見えないです^^;

コメントいつもありがとうございますo(*'▽'*)/☆゚’

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 04. 20 [Wed] 21:26

梨沙さま  o(*^▽^*)o~♪

こんばんは。

仙波……一番書きやすいタイプです!
もっと泣かせたいと指がうずうずしているんだけど……(゚∀゚)

ハピエンに向かっているんですけど、なかなか拗れてしまっています。
次の作品は絶対シンプルなのを書くぞ!!

風邪大丈夫ですか?
痩せたの…………ゴメン羨ましいですΣ (゚Д゚;)
最近太って太って、本当に困っています。
1人前食べなかった私が食べるようになってしまいました。
妊娠6か月くらいの腹肉になってしまい、マジ困っています。
風邪ひいても痩せなかった……

でも梨沙さんは頑張って食べて下さいね。
あ……よければ私の肉を貰って下さい!!


コメントいつもありがとうございますo(*'▽'*)/☆゚’

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?