2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

SS 『pendulum』 2杯目(後編)

 26, 2011 01:34
その光輝の言葉には触れないで、「さあ早く脱いで、それとも僕が脱がしてあげようか?」
と聞いてきた。
だが光輝が答える前に千尋は光輝のネクタイをするっと解き、抜いた。
両手で胸板をさするようにしてから、肩に手を差し込み背広も脱がせる。

そんな千尋の好きなようにさせ、ただ光輝は仁王立ちしているだけだった。
千尋の綺麗な指が、ワイシャツのボタンを下から順に外していく。
シャツの上部は平気だが、ズボンの中に入っていたシャツの下の方もびっしょり濡れている。
焦らすようにゆっくりとした仕草に光輝は頭がくらくらして、一瞬今何処に居るのかを見失いそうになった。

ボタンを外しながら「よく凄まなかったね」と千尋が言った。
「素人の店でいちいち凄んでいたら俺の名が廃る」
「・・そう」千尋は素っ気無くそう言った。

千尋が月に一度程度買いに来る和菓子屋の近くに出来た喫茶店に行ってもいいか?
と聞いてきたのは、もう三月程前だった。
返事を濁し、その間に光輝はこの店の事を調べ上げた。
最近はヤクザのフロント企業として一般では判らないような店を出していたりするからだ。
この店『pendulum』は二人の男が脱サラして開業した、どの組とも何ら関係のない店だと直ぐに調べはついた。
だが、やはり千尋ひとりで自分の知らない店に行かせたくはない、これはパートナーとしての心配だった。

「子供じゃないのに・・・」と文句を言った千尋だったが、光輝の都合がつくのを辛抱強く待っていた。
無茶をして今後一切行くなと言われたくないからだ。
たかが喫茶店と言いたい所だけど、光輝の許可なく新規開拓は出来なかった。

珈琲一杯飲むのに何を千尋は拘っているのだろう、と光輝は思っていたが
その理由を光輝は店に入った途端肌で感じた。

何となく昭和の匂いのするこの店の空気が、ある家を思い出させた。
それは『彫雅』と彫られた看板のあった家だ・・・
その家で千尋は7歳から光輝と知り合うまで雅という男に育てられた。

「あの家の柱時計はもう止まってるかな?」光輝の言葉に
「そうだね、最近ネジ巻きに行ってないから・・」顔を上げる事なく千尋が答えた。
この店も表から見える位置に大きな柱時計が掛かっていた。
それは雅の家にあった本当に昭和の柱時計ではなく、
もう少しファッション性のあるアンティークな物だったが、
千尋はきっと表から眺めながらこの店の前を何度も通ったのだと思うと、千尋が可愛く思えて仕方なかった。

シャツのボタンが全部外され、光輝の肩からするりと足元に落ちた。

「あの、着替えが届きましたけど・・・」
ドアの外からさっきのボーイの声と共にドアの開く気配がした。
『ひっ』廉也は生で見る初めてのそれに一瞬動きが止まった。
「あ、ありがとうございます」そう言って千尋はクリーニングのビニールが掛かったスーツと紙袋を受け取った。

ドアが閉まると「あ、見られちゃったね・・背中」とさらりと千尋は言い捨てた。
「ていうか、どうして一番濡れてるズボンが最後なんだ?」
コップ1杯分を吸ったズボンは重くて冷たくて気持ち悪い。
「ふふふ・・お楽しみは最後にとっておいたんだ」
最近の千尋は、焦らしているのか煽っているのか分からないような事を時々する。
だがそれも一興と光輝は千尋の好きなようにさせていた。

千尋は膝立ちしバックルに手を掛けベルトを緩めるとするっとズボンから引き抜いた。
ゆっくりとズボンのジッパーを下げながら「あーあ下着までびっしょりだね」と楽しそうに言う。
つつっと指の平で下着の上から裏筋を撫で上げる千尋の頭を押さえそうになり、光輝は一度は宙に浮いた手を考え直してまた下に下ろした。
とうとう湿気を帯びた下着が千尋の手で足元まで下げられた。
「足上げて」まるで幼児が母親にされているように指示され光輝は千尋の肩に手を突いて片方づつ足を上げた。

「はい、これで濡れた所拭いて」乾いたタオルを渡された。
どうせなら拭くところまでやって欲しいと思いながらも、仕方なく自分で拭く事にした。
千尋は新しい下着をカサカサッと袋から取り出して光輝に渡した。
「もう履くのか?俺が自分で?」
「風邪引くから・・・それに・・こんな所で押し倒されても困るから」
そう言いながら千尋は育ちかけたイチモツをちらと見た。
「俺は構わないぞ」
「僕は構う」ちょっとむっとした顔で千尋が答えた。

千尋が新しい服を出す傍から光輝がさっさと身に着けていく。
ネクタイをきゅっと締め背広の袖に手を通し終えた光輝を満足そうな顔で千尋が見上げた。
「さあ、行くか?」
「うん」脱ぎ捨てた服を千尋がまとめて抱え上げそう頷きながら、ちゅっと唇をかすめてさっさと部屋を出て行った。
「ふっ」千尋の幸せそうな顔が好きだ・・と光輝は思いながら口端を上げた。

「本当に申し訳御座いませんでした、クリーニング代はこちらで出させて下さい」
出た途端に店の二人が頭を下げて来た。
「いいですよ、楽しかったから」
廉也が千尋の言葉に驚いて顔を上げたら後から来た光輝と思いっきり目が合った。
「すみませんっ」
「ああ、こいつが楽しかったって言うんだから気にしなくていい」

諒が新しい珈琲を淹れ直し廉也が運んで行った。
「ありがとうございます」
「仁?何でお前がちゃっかり座ってるんだ?」
「あ・いえ、すみませんっ!」
「いいじゃない、仁君も珈琲飲んで行こう?」
「ちっ」「えへへご馳走なりますっ」
『まぁいい、貸しは多ければ多い方がいい・・・』

「いい感じの喫茶店ですね」調子に乗った仁がそう言った。
「うん、又来てもいいよね?」
「好きにすればいい、俺も仁も最初で最後だからな」
「仁君は大丈夫だよ、光輝は駄目だけど」
千尋の言葉を受け、光輝が仁をマジマジと見た。
「ちっ・・まぁいいか、その代わり千尋に恥かかすなよ」
「はいっ!」嬉しそうに返事をする仁も服装次第では素人にしか見えないだろう。

「帰るぞ」3人のカップが空になったのを見計らって光輝が立ち上がった。
「うん、今日は連れて来てくれてありがとう」
「ああ、ほら仁、車取って来い」
仁は光輝の脱いだ服を持って一足先に店を出て行った。

「ご馳走様」千尋がカウンターに向かって声を掛けた。
「あの、本日は御代は結構で御座いますので、ご迷惑お掛け致しました。」
きちっと頭を下げる諒と廉也に「釣りはいらない」そう言うと光輝はさっさと店を出、千尋もその後を追った。
店を出るまさにその時店の中の柱時計がぼーんぼーんぼーんと3時を告げた。
振り返った千尋の顔が一瞬懐かしそうに、そして優しげな笑みを浮かべたのを廉也はぼんやりと見送った。


「何だか・・・・」廉也は、ほっとしたような、寂しいような気分だった。
「あのお客さん、ズボン濡らされた上1万円置いていった・・・」

お互い顔を見合わせ、ふっと溜息を漏らし「色々な人がいるね」と微笑み合う。
「だから面白いんだろう?」諒の言葉に廉也も頷いた。

「さぁそろそろ団体さん来るぞ」
3時過ぎた頃にやってくる近所の主婦のグループは最近廉也がお気に入りのようで
毎日のように来てくれる。
「有難い事だね、頑張ろうね」
カウンターを挟んで視線を絡ませる二人が吸い寄せられるように重なろうとした時に、来客を告げるドアベルが店内に響いた。




にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



ランキング参加中です、ポンと気前よく押して下されば嬉しいです(#^.^#)


すみません、予定より遅くなりました!

てか、こういう話が思った以上に難しい事に今更気付きました。
結局1つの話の中で2つの話をまとめ上げなくてはならない・・・・・
前半はスラスラ書けたものの、後半の締めの難しさに、時間を食ってしまいました。


関連記事

COMMENT - 16

びび  2011, 01. 26 [Wed] 06:59

ふぅ~、美味しかった(*^_^*)
マスター、もう一杯おかわり( ^ ^ )/□
とすぐにでも言いたくなりましたが、またゆっくりと美味しいコーヒーが落ちるのを良い子にして待ってまーすo(^▽^)o

光輝と千尋の甘々ぶりも見れて楽しかったですo(^▽^)o

雅さん…。この名前だけで私の涙腺崩壊スイッチが入ります。
。・゜・(ノД`)・゜・。

廉也くん、怖い思いしたけどきっと千尋はまた来てくれるから目の保養が出来ますよ(*^_^*)
(キスの寸どめ、ジラシ過ぎです~!イジワル!)

Edit | Reply | 

ちこ  2011, 01. 26 [Wed] 07:44

いつの間にか清純な千尋ちゃんが(*/ω\*)小悪魔キャラに~~~(//∀//)
大変身を遂げたそのワケは・・・ウキャッ(//∀//)幸せオーラ満載なのに、焦らしですかっ、光輝さんのほうが余裕なんですけど、チラッと見せるドキッと感が・・・いやん(≧▼≦)
きっと、帰ったら倍返しにしてやる~と悪~い顔でニヤリとしている光輝さん(笑)
え~~~~っ、またまた続きはwebで♪ですかっ(笑)←とりあえず書いておけっ(笑)
昭和の薫りのする喫茶店って最近は作り込まれた感じのするお店しかないですね~自然に懐かしい感じがする所は少なくなりましたね。
二人のお店は、のんびり落ち着くノスタルジックな素敵なお店なんだな~千尋ちゃんが惹かれたのが、例のアンティークの柱時計だったんですね~。
おばちゃまの中に私もいますよ・・・(笑)

Edit | Reply | 

NK  2011, 01. 26 [Wed] 09:48

いつか3杯目を

とっても とっても素敵でした。
後味が甘~くてそし清々しい。Kiyouさんらしい味わい。

今回は千尋くんにちょっと驚かされっぱなし。
光輝さんの言葉にも動じない、見かけと違い腹の据わったところに脱帽。
廉也くんは相当怖い思いをしたでしょうね。刺青までみちゃったし。。
2カップルの特長が出ててすごーい相乗効果だったと思います。
喫茶店の雰囲気は、雅さんの住まいを感じる昭和の香り、、なるぼど。
いいなぁ、行ってみたい。

満喫しました。いつか3杯目を。。

Edit | Reply | 

けいったん  2011, 01. 26 [Wed] 14:28

美味しい珈琲ですね☆彡

千尋が 確実に 強くなってません?
やはり 家庭では ”嫁”が ダンナを 操縦するくらいに 強い方が 夫婦間は 上手くいくのでしょうねー。

読者の私は 勝手に 書いて~書いて~♪ と、お気楽に お願いするだけで ごめんなさい<m(__)m>
それなのに kikyou様は 敏速に作品を アップして下さって 嬉し涙がぁーー(T▽T)
千尋と光輝のCPは 私が kikyou様宅に訪問するキッカケの作品なので 第一号の お客様に選んでくれて すっごく 嬉しかったです!
本当に ありがとう♪ ゚+。゚感謝★☆(´∀`人)☆★感激゚。+゚byebye☆

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 23:47

びびさま

こんばんは。

おかわりですか!?
ありがとうございます(^^♪

光輝と千尋は相変わらず、というか・・・
最近は千尋強いですねぇ。
でもきっと千尋を強気でいさせるのは、光輝の策略のような気がするけど・・

もっと色々なお客さんが訪れる予定です。
ボチボチですが・・・待ってて下されば嬉しいです。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 23:58

ちこさま

こんばんは。

なんとなく、小悪魔な千尋になってしまってます^^;
気の強い千尋ですからねぇ、光輝にもはっきりものを言えてしまうし。
小悪魔になる要素大です。

きっと夜になったら、光輝の方が強いでしょうから(笑)
あんなことやこんな事・・・・

惹かれる空間と、人たち。

こんな空間が近くにあればいいと思いながら、
作り上げていきたいと思っています。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

-  2011, 01. 27 [Thu] 00:16

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 27 [Thu] 00:18

NKさま  いつか3杯目を

こんばんは。

読んで下さってありがとうございます。

後味が私らしいと言って下さって嬉しいです。

千尋もだんだんと強くなってきました。
というか、元々芯は強かったんですよね、本領発揮かもしれません^^;

まだまだ、後が控えていますから、
少しづつ書いて行こうと思っています。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 27 [Thu] 00:50

けいったんさま  美味しい珈琲ですね☆彡

こんばんは。

あはっ、やっぱ千尋強かったですか?(笑)

すぱっと背中に色をつけ、光輝と一緒の墓に入る事を望んだ千尋ですからね。
思った以上に芯の強い子です。

私も好きで書いてて、それを喜んでくださる。
すっごい幸せな事なんです。
これからも、ボチボチ書いていきますから。

その時はまた楽しんで下さいネ。

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 27 [Thu] 02:13

鍵コメさま 誇り高き二人

こんばんは。

読んで下さりありがとうございます。

ひょんな短編から生まれた話です^^

本当はあの企画のままで終わらせた方が良かったかな?などと思ったりしました。
でも、つい書いてしまったら・・・・
「ご来店シリーズ」になりそうです(笑)

ただ、記事の呟きに書きましたが。
1話の中で2つのドラマを書く事の難しさもあります。

でも楽しみにして下さる方がいらっしゃるのが凄い励みになりますので
これからも書いて行こうと思っています。

コメントありがとうございました(^^♪

Edit | Reply | 

此花咲耶  2011, 01. 27 [Thu] 02:16

kikyouさま

(´/ω;`)うっ・・・うれしい・・・。
わたしも千尋くんと光輝さまには、特別な思い入れがあります。kikyouさまのお宅にお邪魔するようになったきっかけの作品でした。
密かに健気な可愛い千尋くんは、内面s属性だと思っていました。なのにいろいろな目にあって歯を食いしばっているところや、落ちてゆくところ、いつか自分を見つめ認めるところ、好きなところがいっぱいあります。綺麗な千尋くん、傍でじっと眺めていたいです。

めいわく~・・・(´・ω・`)

Edit | Reply | 

kai  2011, 01. 27 [Thu] 08:56

小悪魔千尋

押し倒されても困ると言いながら、お着替えの最後にあんな煽るようなことして大胆になりましたね、千尋ちゃん

光輝さんにとって、ズボン濡らされた上1万円払ってもいいくらいにいろんな意味でおいしかったんでしょうね

きっといつか千尋ちゃんが支払うことになる貸し
あんなことやこんなことさせられて
もうムリ・・・許して・・・なんてことになる(かならないか知りませんが)場面もいつか見せて欲しいです

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 27 [Thu] 23:38

此花さま

こんばんは。

「僕の背・・」から読み始めて下さったブロガー様って多いんですよ。
先に上がった「天使の・・」の紫苑とは違うキャラにしようと苦労しました。

私にとっても千尋には格別な思いがあります。
もうすこしじっくり書いてみたいと思いつつも、その思いは日々の喧騒の中流れてしまって
はっとして引き戻すのですが、なかなか追いつかないでいます^^

めいわく・・・なんて
一緒に眺めましょう(^^♪出来る事ならば、色が染まる様子も眺めたいです(笑)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 01. 27 [Thu] 23:42

kaiさま  小悪魔千尋

こんばんは。

千尋、本当に強くなりました。
光輝の操縦方法をしっかりと判っているようです。

千尋も色々経験してきたので、強くなった、というかならざるを得なかった、って感じです。

これから日数を掛けて「僕の背に口付けを」の修正に入ります。
以前書いたものを読み返すという事がなかなか出来なくて、
それに過去作品って読み返すと本当に恥ずかしいんですよね^^:
でも頑張らなくては!

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

紫猫  2011, 01. 31 [Mon] 20:50

光輝さんと千尋
千尋君はちょっと見ないうちにずいぶんおとなっぽくなりましたねw
色っぽいと言うか・・・
仁君も相変わらずぱしられてますねw

おもしろかったです!!
次はどんな人が来るのか楽しみにしています!

Edit | Reply | 

kikyou  2011, 02. 02 [Wed] 14:54

紫猫 さま

こんにちは。

やはり光輝と千尋の話は書いてて楽しいです。
千尋おとなっぽくなりましたよね?
嬉しいです、そう感じて下さって。

次はどの子で楽しんでもらいましょうか?(笑)

コメントありがとうございました。

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?