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太陽が見えない 5(観潮楼参加SS)

 24, 2011 00:00
滝沢の部屋に入ると、そこは2年前の記憶と何ら変わらぬ佇まいだった。
まるで時が止まっているかのような部屋に馨は滝沢の哀しさを見た気がした。
「滝沢さんの言う通り僕の好きな人は今日会った長浜太陽だよ・・・」
隠しても勘づかれているだろうから、馨は正直に告白した。
「僕たち来週仕事がらみで旅行に行くんだ・・・その時僕は告白するよ」

「・・・そうか、いつまでも思いを引き摺っていても俺みたいになるから、
そうした方がいいかもしれないな」
「滝沢さんは・・もう駄目なんですか?告白は?」
「最初っから既婚者を好きになったんだ、告白する余地なんかないさ」
自嘲気味に言うが滝沢の苦しみは馨には想像できないものだろうと思った。
だって馨には友達としての立場だったが、太陽がいつも傍にいたから・・・
傍にいる事で、見なくていい事も、知らなくていい事も経験したけど、
それでも離れているよりはマシのような気がしていた。

「告白して駄目だったら、俺が慰めてやるよ」冗談で滝沢は言ったのだけど
馨は「その時はお願いするかもしれません・・」などと真面目な顔をした。
実際7年思い続けた太陽に拒絶されたら、自分ひとりでは立っていれないだろう、と馨は思っていた。
「いいよ、その時は誠心誠意慰めてやるよ」
馨の今の気持ちが痛い程滝沢には判る。

「だから、その・・・それまでは太陽に黙ってて欲しいんです」
「ふっ・・・今日の事?」滝沢は少し意地悪をした事に口元を緩めた。
「君が、あれからずっと連絡をくれなかったからな・・
先週一度君の会社に行った時に見掛けたんだよ、まさか担当になるとは思ってもいなかったけど、いつか会う機会があるだろうと思って携帯番号を書いた名刺はずっと用意してた」

「あれから誰かに抱かれた?」滝沢が話しをふってきた。
その問いかけに馨は黙って首を横に振った。
もうあんな後悔はしたくは無かった。
「僕駄目でもきちんと太陽と向き合おうと思っています、二度と太陽と友達に戻れなくても、何も始めないよりは後悔しないと思うから・・・」

「もしあの彼と上手く行かなかったら、俺と付き合う?」
滝沢の言葉にまた馨は首を横に振った。
「慰めてもらうのと、付き合うのは意味が違います、割り切った大人の付き合いならいいですけど」
本当はそんな付き合い方を自分が出来るとは思ってはいなかったが、馨はそう自分を貶めることで精神のバランスを取ろうとしていた。



***********************************


「なぁ、札幌のホテル何処にする?」
楽しそうにホテルのパンフレットを片手に太陽が話しかけてきた。
「安いツアーで使うホテルなんだよ、Bクラスのホテルじゃないと無理だよ」
「それはツアーの方だろう?俺らAクラスのホテルにしようぜ」
「ふぅ・・それじゃ下見の意味ないじゃない?」
「そんなつもりないもん俺」口端を上げて太陽はニヤッと笑った。

「これは、仕事の下見じゃなくて自腹で行く旅行だよ、ちゃんとした所に泊まろうぜ」
「だ・だって太陽・・・ツアーの下見って」
「それは又、もう少し暖かくなってからでいいだろう?ただ俺は北海道に行きたいんだよ」
馨と行きたいと言われているみたいで馨は嬉しかった。
「続きは仕事終わってからにしような」そう言って太陽はカタログ類をソフトケースに仕舞った。

「俺珈琲買ってくるわ、お前も飲む?」
「ううん、僕は今はいい・・・」そう断ると太陽はそうか、と頷いて一人部屋を出て行った。
太陽が出て行ってから暫くしてやっぱり自分も何か温かい物を飲もうと思い立って、馨も外に出た。
自販機の所まで行くと、太陽の背中が見えた『まだ買ってなかったのか・・』と失笑しながら近寄ると、太陽の大柄な体の影に隠れるように女性の姿がちらっと見えた。
ふたりとも馨にはまだ気付いていないようだった。

「ねぇ私も一緒に北海道に行きたいなぁ」
強請るような声の主は国内旅行部の2年先輩の女子社員のものだった。
「ああ、いいですよ、馨と一緒よりは楽しそうだ」

「えっ?」信じられないような太陽の返事に馨は手前にあるトイレの方に曲がって駆け込んだ。
『えっ?太陽今何て・・・?』
そうか・・・太陽はただ北海道に行きたいだけで、一緒に行く相手は僕じゃなくても良かったんだ。
『馬鹿みたい・・・一人で喜んじゃって・・・』
トイレの大きな鏡に映った自分の姿をじっと見つめた、何処からどう見ても自分は男だ・・・
さっきの女子社員のような可愛い声で強請る事など自分には出来ない。
「ははっ・・・・告白する前に玉砕?」


「わぁ嬉しい本当?」自販機の前ではまだ会話が続いていた。
「なーんて俺が言うとでも思ってるんですか?先輩」
「ええーっ、酷い冗談・・・まっ仕方ないか。君は北海道じゃなくて馨君と行くのが目的なんでしょう?」
それには答えずにやっと笑って「土産買ってきますよ、何がいいですか?」と太陽は聞いた。
「そうね、小樽で私の好きなグループのオルゴールでも買ってきて頂戴」
二人は珈琲片手にそんな話をしながら、部署に戻って行った。





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COMMENT - 20

-  2011, 01. 24 [Mon] 05:50

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-  2011, 01. 24 [Mon] 07:17

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ちこ  2011, 01. 24 [Mon] 07:39

免許皆伝頂きましたっ(笑)

いや~ん、kikyouさまから免許皆伝頂くとは!嬉しい(^^)v
うふふ(笑)
このまま指が止まらなくなれ~~~w(°0°)w
滝沢さん好い人でした~パクっとはいきませんでしたね~でも、ダメならおいでって(≧▼≦)キャッ!
馨くん、嫌な場面に居合わせてしまいましたね(涙)
人の話はちゃんと最後まで聞きましょうって小学校の朝礼で校長先生が言わなかったかな~(>_<)←今時、朝礼とかあるのかな?
太陽くんものすごくモーションかけてるような気がするんですけど?
先輩女子でさえ気付いてるようですよ~馨くん!!
楽しみにしていた二人旅どうなっちゃうの?!

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tukiyo  2011, 01. 24 [Mon] 08:48

ウッホホ~~イ

この馨ちゃんの精神的ドM感がたらんです。
萌えるぅ~~~~~ニマリン。

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けいったん  2011, 01. 24 [Mon] 11:34

話しは 最後まで

これで わたしは母と よく口喧嘩を するので 耳に痛い言葉ですね~。

ショックを受けた馨は 太陽との 旅行で 玉砕覚悟の告白を出来るのかなぁ~?
太陽に 旅行で 頑張ってもらわないと!
(●'д')bファイトです...byebye☆

P.S.滝沢の片恋の話しが 非常に気になるぅ。

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kai  2011, 01. 24 [Mon] 13:18

健気で一途な馨ちゃんがかわいそうで
無邪気な太陽が憎らしいくらい。
と思っていたら、冗談にもふざけてでも言っちゃいけないこと口にしちゃいましたね。
それもお話の半分だけ聞くという最悪の状態で。
玉砕覚悟での告白も取りやめて
最後の思い出作りに変更か…!?

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-  2011, 01. 24 [Mon] 15:56

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此花咲耶  2011, 01. 25 [Tue] 16:57

kikyouさま
≪トイレの大きな鏡に映った自分の姿をじっと見つめた、何処からどう見ても自分は男だ・・・≫

馨くんの、深い苦悩のすべてが、ここにあります。生物学的に「何も生まない」事実がこうして優しい青年を打ちのめしてしまっています。
もう少し、話を聞いてから立ち去ればよかったのでしょうけれど、耳に入った少しの言葉はそれだけ心をえぐってしまったんですね。
決して本心ではなかったのに。
先輩女子社員さんには、どうやら太陽くんの本心が透けているような気がするのですけれど・・・。
太陽くんも同じ気持ちでいてくれたらと思います。

たった一度の過去が馨くんの勇気を、萎えさせている気もします。
慰めてもらうのも、本気で付き合うのも悲しいです。
・・・太陽くんがどうか大人でありますように。
恋をすると視野は狹く欲は深くなりますけど、体の中心から温めて馨くんが見上げて笑ってくれたらと思います。
どこか寓話の「北風と太陽」に似ているかな…と思いました。
長くなってすみません。

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梨沙  2011, 01. 26 [Wed] 00:28

<(゚ロ゚;)>ノォオオオオオ!!

~~~~~((((((ノ゚⊿゚)ノあぁ なんというすれ違いですか…
何処までも 自分が不利なように受け取る馨ちゃん!!
太陽なんとかしないとやばいですよ(^^;)
本当に大事なものを失ってしまいますよエッ? (;゚⊿゚)ノ マジ?
馨ちゃんはもっと自分に自信を!! ネガティブに考えるだけでは良いことはすべて指から零れていってしまうよ(´ヘ`;) う~ん・・・

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:20

鍵コメ Mさま

こんにちは。

あぁ、やってしまいました。
教えて下さってありがとうございます^^

良いシーンを間違った(-"-)

読んで下さってありがとうございます。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:21

鍵コメ Cさま

こんにちは。

あはは・・・・ありがとうございます。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:23

ちこさま 免許皆伝頂きましたっ(笑)

こんにちは。

分けて下さってありがとう。
でもオープンでもいいんですよ。

それよりも魔法で何とかなりませんでしたか?(笑)

滝沢・・・本当はぱくっとイカせるつもりだったんですが。
そうしたら、もっと拗れてしまうので、今回はとりあえず良い人でした^^

でも、馨の出方次第では・・どうなるか判らないですねぇ。
とチャンスは残しておきます。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:26

tukiyoさま  ウッホホ~~イ

こんにちは。

あぁぁ・・・精神的ドMだったのか!

作者すら気付いてなかった^^;


最近はタイトルが雄叫びが多いですネ(笑)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:29

けいったんさま  話しは 最後まで

こんにちは。

そういえば、私も最後まで聞かないで動くタイプでした^^;

玉砕覚悟で告白よりも、今は旅行に一緒に行くのか?
で迷っています。
あぁ・・・待ち合わせの場所に馨は現れるのでしょうか?


滝沢の片恋かぁ・・・・こっちもどこかで、引導を渡してあげなくては、ですね。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:33

kai さま

こんにちは。

馨健気ですね^^

最後まで話を聞かない・・・よくあるパターンにしてしまいました^^;

旅行に行くまで、もうひと悶着ありそうです。

出したピースをこれから、上手く組み合わせて行きたいですね。

コメントありがとうございました。
(夜、メールします)

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:39

鍵コメLさま 晴れかけたのに…

こんにちは。

太陽がまた厚い雲の向こうに・・・

素敵な表現にうっとりです。

>つまり「最初から幸せでない恋」は『天使の箱庭』では必然ということに。

おお!そうだ!と他人事のように呟いてしまいました(笑)

自分でも幸せで始まり終わる話は書けないような気がする・・
一度挑戦してみようかな?

あ、お知らせもありがとうございました。
直すまでに3人もの方に教えて頂きまして、慌ててそこだけ直しました。
お恥ずかしい限りです^^;

コメントいつもありがとうございます。
(夜メールしますネ)

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 12:47

此花さま

こんにちは。

> ≪トイレの大きな鏡に映った自分の姿をじっと見つめた、何処からどう見ても自分は男だ・・・≫

本当にここぞ、という所をいつも突いて下さる。

先に思いに気付いた方がどうしても弱くなってしまいますね。
考えてみれば、私って受け君視点から書く事が多いですね。
これが攻め君視点の片思いだったら、もっと強気でガンガン行くんでしょうね。

太陽も、自分の気持ちは自覚していないのに、馨の事が気になってる模様。

さて、これから旅行に向けてどう変わっていくのやら?

コメントいつもありがとうございます。

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kikyou  2011, 01. 26 [Wed] 23:44

梨沙さま  <(゚ロ゚;)>ノォオオオオオ!!

こんばんは。

みなさん、顔文字が面白い♪♪

よくあるすれ違いですねぇ・・・
ドラマでこういうのがあるとイライラするから嫌いなのに・・
あぁ自分で使ってしまった^^;

そう、幸せが指から零れてしまわないように、馨がんばれ!!

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jun  2011, 01. 29 [Sat] 10:26

滝沢さんとは何にもなかったようですね。
それにしてもキキョウさん意地悪なんだから。
馨をあんなに驚かすなんて。
でも太陽、馨と旅行したかったの先輩女性社員には見抜かれているなんて。
次回楽しみ。
これから読みます。

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kikyou  2011, 01. 31 [Mon] 15:23

junさま

こんにちは。

あはっ、意地悪ですか?(笑)
よく言われます(爆)

女性の目は鋭いですからね、侮ってはいけませんよ^^

コメントありがとうございました。

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