天使の箱庭＜eternity＞

長浜太陽　２３歳　旅行会社勤務
沖本馨　　２３歳　同じく旅行会社勤務
滝沢洋介　２６歳　損保会社勤務

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意味ありげな滝沢の言い方にあからさまに嫌な顔をしたのは、馨ではなく太陽だった。
「そうですか、では本題に入りましょう」
馨の態度で、会いたくはない奴だと太陽は判断した。
馨とは昨日今日の付き合いではない、馨が再会を喜んでいないのは肌で感じる。

話し合いのパターンは殆ど決まっている。
単なる予算を組むための確認みたいなものだ、２０分もすれば殆どの打ち合わせは終わる。
だがその２０分が馨には苦痛でしかなかった。
「では、私はこれで失礼します」

滝沢が立ち上がった時に馨の口からは無意識に安堵の溜息が漏れた。
そんな馨に失笑しながら、滝沢は「名刺の裏にプライベートの携帯番号が書いてあります
電話待ってますよ」と馨の顔が引き攣るような言葉を残して、小会議室を出て行った。

馨と二人きりになると太陽は「掛けたくない相手に無理に電話する事は無い」
と不機嫌そうに言うが、馨には電話を掛けなくてはならない理由があった。
「何処で知り合ったんだ？」
「あ・ああ・・大学の時に居酒屋で・・・僕らの大学の先輩らしいよ」
言い訳のように聞こえるかもしれないが、それは事実だった。

「ふーん？なんこ上？」
「３つ・・・」
「それにしても大学の頃飲み屋で会っただけなのに、お互いに良く覚えてたな？」
「あぁ・・結構盛り上がったから・・・」

「馨、何で俺の方を見て答えないんだ？」
ずっと書類に目を通すふりをしていた馨を太陽は容赦なく責める。
「だって、この書類ちゃんと確認しておかないと・・あとで課長に聞かれるから」
「ふ～ん？で、北海道いつ行く？」
急に話題を北海道旅行に切り替えた太陽に少し安心しながらも、
切り替えの早い事に少し不安も感じてしまう。

「僕はいつでも大丈夫だよ、太陽と日程さえ合えば」
本当はもっと楽しいはずの旅行の打ち合わせが、馨は滝沢の出現で暗い気分になっている。
滝沢からもらった名刺を太陽に気付かれないように、そっと背広のポケットにしまった。
結局ふたりの休みや、仕事の都合上来週の金曜日から２泊で行く事に決まった。
「二人して１日は有給を使うのを課長に許可貰わなくっちゃな」
「うん・・・」

太陽と二人っきりで行く初めての旅行だ。
そして恐らく最後の旅行になるだろうと馨は思った。
旅行に行く話が持ち上がった時から馨は心に決めていた。
この旅行で告白しようと・・・・
７年にも及ぶ片思いにもそろそろ疲れて来た。

適当に遊んでいる太陽にはまだ決まった彼女は居なかった。
もし太陽が今度正式に誰かと付き合うような事になれば、それは結婚まで行く付き合いかもしれない。
今太陽がフリーだからと言って自分の思いが通じるとも思ってはいないが、
もし彼女がいたらその彼女に悪くて告白など出来ないだろうと思う。
自分の彼氏が男に告白などされたら、さぞ気持ち悪いだろうと馨は思っていた。

「札幌は外せないよな？あとは温泉だよな？何処がいい？」
「２泊だから限られてるし・・・インアウトは同じがいいよね？」
「そうだなぁ、この時期だからやっぱインもアウトも千歳が安全だな」
「ちょっと寂しいけど定山渓辺りにするか？」
「うん、小樽も行きたいし・・・」
「じゃ、それで組むか？」太陽が嬉しそうに言ったが馨は肝心な事を思い出した。

「でも太陽、それじゃ夏の企画の参考にはならないような気がするんだけど・・・」
「そんなの最初っから分かってるさ」
その意味を聞く前に太陽は書類を片手に立ち上がった。
「先ずは課長の説得だな」そう言うとニヤリと笑って「いい旅にしようぜ」と言った。
「・・・うん楽しみ」いつもとちょっと違う笑顔を太陽は気付かないふりをした。

その日の夕方数人で飯食いに行こうという誘いを用事があると断って馨は一人会社を出た。
駅に着く少し手前で背広のポケットから昼間滝沢から貰った名刺を取り出し、
プライベート用の携帯に電話を掛けた。

「待ってたよ」馨から電話が来るのを当たり前のように言う滝沢に馨は眉を顰めた。
「何処かで会えませんか？」嫌な事は旅行前に済ませておきたかった。
別に滝沢に嫌悪感を抱いている訳では無かった、ただあの日の記憶を消したかっただけだ。

馨は３０分後に待ち合わせのカフェに着いた。
少し遅れて来た滝沢は嬉しそうに馨の肩に腕を回し「出よう」と促した。
「何処に行くんですか？」
「俺の部屋、あんまり人には聞かれたくないだろう？」
そう言われればそうだし、誰か知ってる奴に見られて太陽の耳に入るのも都合が悪かった。

よく考えてみたら、このカフェはもし引越ししていなければ滝沢のマンションの近くなのだ。
「あの・・・僕はもう貴方とあんな関係を持つつもりはありませんから」
馨がそう言うと、滝沢は肩を竦めて「別に強要した事は無いけど？」
と馨の顔を覗きこむように言った。
言われてみたら、最後の一線は自分が望んだ事・・・・

「分かりました、滝沢さんの部屋に行きましょう」
並んで歩く道で「馨君の好きな奴って今日一緒にいた長浜って奴だろう？」と聞かれた。
「・・・・」
馨はどう答えていいか判らずに、逆に滝沢に聞いた。
「滝沢さんの好きな人は、ずっと変わってないんですか？」
「ああ・・・先月２人目の子供が生まれたよ・・もう俺も潮時だ」

『この人は僕なんかよりも、ずっと辛いんだ・・・』

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予定の５話で終わるのか・・・・？

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