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この温もりを知ればいい・前編(観潮楼参加SS)

 07, 2011 03:00
頭ではこの腕を振り解かなければならないと思っているのに・・・


「行くな廉也・・行くな」
「うっううっ・・諒先輩・・離して」
抗う言葉とは裏腹に、この心が・・・その腕に縋りついてしまう。
廉也の溢れる思いは嗚咽となりボロボロと零れ落ち諒の背広の袖までも濡らしている。

本当は立っているのでさえやっとだった。
昨夜の痴態は・・・最後だと思っていたから、最後にしようと思っていたから
あんなに乱れながらも貪欲に、諒を求める事が出来たのだ。

2011-1-6-ueki-2.jpg
        イラストの著作権は植木屋様に属します。無断転写・転載は固くお断り致します。
               イラスト 「UEKI-YA!」 植木屋様の「君だけが・・・」



宇都宮諒(うつのみやりょう)28歳
加納廉也(かのうれんや)25歳


二人は大学の先輩後輩で、廉也が社会人になったと同時にシェアを始めた。
『別々に7・8万のワンルーム借りるよりも、二人で10万の2DKを
借りた方がお互いに得だろう?』
と諒に言われ、諒を慕っていた廉也は天にも昇る思いだった。
だが可愛い後輩として声を掛けてくれた諒に対して、自分の気持ちを隠していた最初の1年は
廉也にとって結構辛いものがあった。

そしてとうとう諒を避けるような時間帯での生活を始めたのだ。
帰りも時間をひとり潰し遅く帰り、あまり諒と顔を合わせないようにした。
そんな生活をひと月続けた頃に廉也は精神的にも肉体的にも限界が来て、結果倒れた。

「顔も見たくないほど俺の事が嫌いか?」
「彼女でも出来たのかと思って知らん顔をしていたが、
そんなぼろぼろになって一体お前は何をやってる?」
「そんなに俺と一緒に住むのが嫌なのか?」

たて続けに問い詰められ、廉也は今のように泣きながら、諒に自分の気持ちを告げた。
こんな苦しい思いをするのなら、いっその事嫌われてもいい。
その方がすっきりするかもしれない・・・・
そう思いながら胸の中のどろどろした塊を吐き出した。

「体調良くなったら、僕・・ここを出て行きますから」
最後にそう言葉を続けた時に突然諒に抱き締められた。
「えっ?」
「ふざけるな、俺が今まで・・どんだけ我慢してきたと思うんだ?」
「だって先輩・・先輩は女の人が・・・僕が大学で知り合った時には彼女いたし・・・」
「そうだ廉也・・お前と会ってから俺は変わってしまったんだ」
「先輩?」
「俺はお前が好きだ、いや俺もって言ってもいいか?」
覗き込む諒の目に照れと、そして熱情を感じた。

あの日から2年、廉也は幸せだった。
だけど・・・諒に持ち上がった専務の娘との結婚の噂話。
廉也も知ってる相手だ、諒と同期で仕事も出来その上美人だ。
親の威を借るような事はなく、とても素敵な人だと思う。
きっとあの人と一緒になったら、専務の娘って事じゃなくても諒は幸せになれるだろう。
諒は自分と違い女性も愛せるはずだから・・・

28歳の健康なサラリーマンが独身を貫き通すのも不自然なものがある。
1年前に同じ課に配属され喜ぶよりもヤキモキする日が多かったのは確かだった。
実際仕事も出来、容姿も性格も良い諒がモテない筈はなかった。
毎日のように女性社員に食事や飲みに誘われているのを横目で見ていた。
それでも諒は誘いに乗る事もなく適当な理由をつけては、そんな誘いを断っていた。

一方廉也は女性に誘われる事はあまりなく、どちらかといえば男性社員に誘われてしまう。
「構いたくなるよな廉也って」同期や先輩にそう弄られるキャラだった。
最近では後輩までが廉也に構ってくる。
その度に諒は先輩として仕事を頼みその場から引き離してくれるのだった。

「ねぇ加納君って宇都宮さんと同居してるんでしょう?変な関係じゃないわよね?」
一番聞かれたくない事を一番聞かれたくない人に聞かれた。
廉也が給湯室に珈琲カップを下げに行ったのを狙ったように追いかけてきたみたいだ。
そう聞いて来たのは専務の娘の柘植小夜子(つげさよこ)だった。
「えっ?ち・違います・・・その方がお互いに安上がりだから・・・」
「そう、宇都宮さんも同じ事言ってた」
誰に聞かれても同じ嘘で繕ってきた、だが諒もそう答えていた事が何気なく廉也にはショックでもあった。
少し安心したように小夜子は言葉を続ける。
「私ね・・・」
『いやだ、言わないで・・・聞きたくない』
「彼が好きなの」

「そ・そうなんですか?」動揺を悟られないように廉也は乾いた声で答えた。
「最近父が結婚結婚って煩いから、好きな人がいるって言ってしまったのよ」
男顔負けの颯爽とした仕事をする小夜子が恥らう姿は、廉也から見ても可愛いかった。
「上手くいくといいですね」作り笑いは上手に出来ただろうか?
「本当?加納君が応援してくれたら百人力だわ」
『あぁこの笑顔はきっと諒を幸せにしてくれる・・・』悲しいけれどそう思った。
「ごめんなさいね、変な事聞いて・・宇都宮さんがあまりにも加納君を大事にしてるから・・
ちょっと変な想像しちゃった」
最後はそう言って照れたような、すまなそうな顔をして小夜子が去って行った。

小夜子が居なくなった給湯室で廉也は必要以上に時間をかけて珈琲カップを洗った。
ぽたぽたと零るる涙も一緒にシンクの中で泡となり流れていく。
何時かはこんな日が来るのは判っていた、そしてその何時かがずっと来なければいいと願っていた。

「廉也―――」背後から掛かる甘く自分の名前を呼ぶ声、振り向かなくても判る。
「珈琲のシミがなかなか落ちなくって」聞かれもしない言い訳をしてしまう。
「そう・・・今夜少し遅くなる、だから晩飯悪いけど一人で食って?」
「う・うん、適当に済ますからいいよ」有りもしないカップのシミはなかなか取れない。
「なるべく早く帰るようにするから」
そう手短に告げると諒は忙しそうに給湯室を後にした。

きっと小夜子と逢うのだろう・・・
聡明で美人・・彼女は諒が大学の時に付き合っていた女性に似ている。
嫌いなタイプではない事は廉也が見ても判っていた。
『どんな顔で、どんな声で彼女を抱くのだろう?』
まだそんな関係でない事は判っているのに、つい想像してしまう。




―――ベッドが広い

翌日の土曜日の朝、廉也は携帯電話を握り締めたまま眠っていたらしい。
一人で眠ったベッドは広い『帰って来なかった・・・』
「あはっ・・結構キツイや」
きっと一人暮らしを始めたらこんな独り言が多くなるんだろうな、
と苦笑しながら携帯をテーブルに置いた。
何の履歴も無いことは、色を変えぬ電話を見れば判る。、





BL・KANCHOROU冬の企画参加一覧


BL・KANCHOROU冬の企画に二次参加させてもらいました。

お借りしたイラストは皆様ご存知の「植木屋様」のイラストでございます^^
ひと目で魅入られてしまいました。
私の話を読みにきて下さってる方なら「kikyouさん好きそう」って思って下さってたと思います。

本当はもう文章要らないだろう?と・・・
皆さんの脳内で充分に妄想できるだろう!と思う程の切なくて温かいイラストです。

イラストの雰囲気と、皆様の期待を裏切らない話が書けたかは判りませんが
前後編としてアップ致します。

イラストを使わせてくださり、ありがとうございました。
そして植木屋様のつけられた「君だけが・・・」というタイトルもリレーさせてもらいました。
「君だけが・・・この温もりを知ればいい」と繋げて感じて下さいね。



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COMMENT - 15

-  2011, 01. 07 [Fri] 04:35

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植木屋  2011, 01. 07 [Fri] 05:08

おはようございます!
お声かけてくださいましてどうもありがとうございました♪
拙いイラストですが気に入っていただいて、しかも使っていただいて嬉しいです!

ラブラブ♪~とほっとしたのもつかの間、
なんだか切ない展開に!
諒くん…朝帰りですかっ!?
どきどきしつつ後編をお待ちしたいと思います。(・_・;)

それから、タイトルのリレーって素敵ですね!
「君だけが・・・」
「この温もりを知ればいい」
それぞれのタイトルを見た後にこの前編を読んで、
そして最後にこのタイトルにたどり着きました。
「君だけが・・・この温もりを知ればいい」
何かひとつの謎が解けたみたいな気分でした。(^^♪
タイトルでもコラボさせていただけて幸せ倍増です。ww

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けいったん  2011, 01. 07 [Fri] 12:03

植木屋さま独特の 柔らかく優しく描かれているのに 刹那い雰囲気が 漂って 素敵です(*´ェ`*)ポッ

kikyouさまの作品と どんな風に融合され 昇華されるのか 後編を楽しみにしてま~す♪
(^^)ゞbyebye☆

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梨沙  2011, 01. 07 [Fri] 12:34

(* ̄。 ̄*)ウットリ

もう 初めからグッと来るようなお話で~
切ないですね… でも こういうお話は良いですよね(*^.^*)
後編 楽しみにしてます(゚ー゚☆キラッ

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-  2011, 01. 07 [Fri] 16:05

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びび  2011, 01. 07 [Fri] 17:45

ジュルジュルッ、、あっ、思わずよだれが~。

切なくて、妄想スイッチ押されまくりのイラストに、
これまで切ないお話で、私の涙腺を幾度も決壊させて来た、
kikyou様の世界。
確かにドンはまりですぅ~!(萌える~、ハァハァ。)

すみません、引かないで下さいね(^_^;)

どうして朝帰りなの?誰と居たの?

可哀相だからあんまり泣かせてほしくないけど、
泣き顔も可愛いし、
せめてセクスィー場面で泣かせてやって下さい(^_-)-☆

後半も楽しみにしてます。

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-  2011, 01. 07 [Fri] 19:32

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:23

Re: 本年も最初からこんな傑作を読ませて下さってありがとうございます


鍵コメ Lさま


こんばんは。

お年玉なんて照れてしまいます^^

植木屋さまのイラスト温かくていつも他所で眺めていました。
今回企画参加という事で、本当に願ってもいなかったチャンスに恵まれ気合入りました(笑)

私の一番好きなシュチュ「後ろからぎゅっ!」ですねぇ。
私の枯れかかった萌えの泉があっという間に溢れそうでした。

後編が待ちきれない!本当に書き手冥利に尽きる言葉です。
読んで下さって本当にありがとうございます。

そして廉也の苦悩と愛をくみとって読んで頂き、嬉しいです。

コメントありがとうございました。


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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:32

植木屋さま

こんばんは。

今回は本当にありがとうございました。

いつも眺めて萌えていたイラストを使う機会に恵まれて本当に嬉しかったです。

植木屋さまの独特な温かみのあるイラスト。
本当に癒されるし、見ている側が幸せな気分になります。

今回は涙ありのバージョンで、テンション上がりっぱなしです。
一番最初に無意識にあの冒頭の数行が生まれ、あとはそれにそって肉付けして書いて行きました。

こういう話の構成の仕方が一番好きなんです。
何かひとつ台詞とかタイトルのイメージとかから始めるのが私流の書き方でして。
今回は先にこのイラストに萌えと切なさを感じ、そして植木屋さま独特のセピア色の温もり。

前後編1万文字近い話になるとは私も思っていませんでした。
筆が進む、というか妄想が止まらない感じでした。

最近更新もままならない日が続いている中、植木屋さまのおかげで
少し浮上できたような気がします。

今回は本当に素晴らしい作品を使わせてくださり心から感謝しています。
ありがとうございました!(*^_^*)

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:35

けいったんさま

こんばんは。

本当にほっとする温かいイラストですよね。
でも今回は泣かせちゃってるから(笑)
私の大好きな切ないお話がバリバリと書けてしまいました。

読んで下さってありがとうございます。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:37

Re: (* ̄。 ̄*)ウットリ


梨沙さま

こんばんは。

えへへ、うっとり嬉しいです(u_u*)ホ゜ッ 

掴みは良かったでしょうか?(笑)
私も凄く自分らしい言葉で書けて楽しかったです。

読んで下さってありがとうございます。
やっぱ嬉しいです^^
コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:39

Re: 77777がぁ~


鍵コメ NKさま


こんばんは。
そうなんです!カウンターが他のブロガーさんのも長い時間表示されてなくて
自分だけじゃなかった、とほっとしたのもつかの間・・・
数字が減ってる。
全くどうなってるんでしょう?

7万は行ってたような気がするのに(笑)
そのうち修正あるのか?とりあえずそのままにしておきます・*:.。. (ノ´ω`・。)・*:.。. クスン

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:43

Re: 77777がぁ~

鍵コメ NKさま


あぁぁ途中で送信してしまった^^;

55555!そうなのかっ!(笑)

そのうち突然数字が戻っているのを願ってます(爆)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 21:48

びびさま

こんばんは。

前回はど真ん中と言って下さって嬉しかったです。

そして今回も楽しんで下さってるみたいで嬉しいです。

この植木屋さまのイラストも私のど真ん中です。

切ないですねぇ。・゚・(*ノД`*)・゚・。
大好きです、温かくて切ない・・・
ガンガン萌えてしまいますね。

後半のセクスィー場面(笑)は多少端折ってしまいましたが・・・
あのままシーンを継続させたら後編だけで1万超えてしまいそうな勢いでしたので

でもびび様に喜んで頂いて安心しました。
読んで下さってありがとうございます。
コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 01. 08 [Sat] 22:05

鍵コメ koさま

こんばんは。

>「上手くいくといいですね」作り笑いは上手に出来ただろうか?

嬉しいです、いつも私のツボを判ってくださる!

実はお借りに伺った時に公開が重なってしまうから、と迷ったのですが
お得意の切ない系ではなく、コメディだと聞いて
安心してこちらも公開に踏み切りました。

なんて凄い発想なんでしょう(笑)
奇抜な発想には脱帽です、でもやっぱその中にも切なさが・・・

1枚のイラストから感じるものは、書き手の数だけあります。
お互いに素敵なイラストでお話を書く機会に恵まれた事は
本当に幸せですよね。

読んで下さってありがとうございました。
コメントも嬉しいです、ありがとうございます。

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