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愛しい人へ 23

 18, 2010 10:08
「最近の前原君何か憂いありますね」と突然西条に言われ
「憂い?」
「憂いって言うか儚げな雰囲気で、あれじゃちょっと危ないんじゃないですか?
あまり放って置くと変な虫が寄って来ますよ」
「まだ若いんだ、彼女の一人や二人出来ても可笑しくないさ」
「彼女だったら良いんですがね・・・・」何か含みのある西条の言葉だった。


その頃麗は自販機の前で珈琲が抽入されるのを待っていた。
「そんな顔してたら、又キスしちゃうよ」と背後から声を掛けられた。
「あ・・あなたは・・・」
そこには以前麗の唇を奪った男が立っていた。

「相変わらず綺麗な顔をしているね」
そう言って、麗に詰め寄り頬を撫でる。
「止めて下さい!」
「ほう、そういう目もいいねぇ」舌なめずりする男を無視するように
出来上がった珈琲の紙コップを取り出した。

「君は女を愛するより、男に愛されるタイプの人間だよ」
「どういう意味ですか?」
「言葉の通りさ、見る人が見れば判るよ」
「・・・・・」
持った珈琲の紙コップに力が入る。
『見る人が見れば判る・・・・』その言葉がショックだった。

「ッツ・・・」熱い珈琲が手に溢れる。
麗は手の熱さよりも、頭が痺れるような感覚に陥っていた。
「前原!何やってんだよ!」
一足遅れてやって来た粕谷が驚きの声を上げたのでハッと我に返った。

「水野さん!前原に何したんですか?」
強い口調で水野を睨むが
「僕は別に何もしないよ・・・ねえ前原君?」
麗はその無責任で媚を売るような口調に鳥肌が立った。

「ほら!早く冷やせよ、来い!」
粕谷に強く腕を引っ張られ洗面所に連れて行かれる。
その間も麗の思考は止まったままで痛みすら感じなかった。

水道の冷たい水を大量に手に浴びせられ
「痛っ・・」初めて掌に火傷を負った事に気づいた。
「泣くほど痛いのか?」と聞かれ自分の頬を涙が伝っている事に気づいて
「あっ・・・いえ・・」慌てて涙を拭った。

「駄目だなこれ、医務室で薬塗らないと痕になるぞ」
そう言って麗を医務室に連れて行こうとするが
「大丈夫です・・・ひとりで行けますから・・・」遠慮する麗に向かい
「いいから、ほら早く治療しないと」と手を引いてどんどん歩いて行く。

引かれるまま黙って着いて行くしかない・・・
社長室のある4階にはあまり行きたくない
医務室の行く手前で「麗!どうした?」と声を掛けられた。
『何か逢いそうな気がして嫌だったんだ・・・・』

「熱い珈琲零して・・・」粕谷が代わりに説明する
麗は火傷した手を背中に隠すように
「大丈夫です、大した事ありませんから・・・」と言うがその手をがしっと掴まれた
「酷いな・・・来い!」
「あ、大丈夫です、粕谷さんが・・・」
粕谷を振り向くと自分の出番は無いといった感じで
「あ、じゃ俺仕事戻りますんで・・」
「ああ悪かったな」
そういう会話が成立し、粕谷は歩き出した。

医務室に入ると、火傷用の冷却スプレーで冷やされ軟膏を塗られた。
白い麗の手の平と甲は赤く腫れていた。
「痕が残らなければいいがな・・・」
「大丈夫ですよ、直ぐに水で冷やしたのが良かったのか見た目程酷くないですよ」
元看護師だったという医務室の女性に言われ少しほっとした杉浦はそれでも
「病院に行った方がいいかな?」と不安そうに尋ねる。

「社長って案外心配性なんですね」と揶揄され
「こいつの体に傷ひとつ残す訳にはいかないんだ」と言い返す。
「大丈夫ですよ、でも今日明日はお湯がかかると痛みますからお風呂とか気をつけてね」
軟膏と冷却スプレーを渡され、寝る前にもう一度薬塗るように言われ医務室を後にした。

「火傷が治るまで、暫く家の事はやらなくてもいいぞ」
「でも・・・」言いかけて睨まれてしまったので口を噤んだ。
「・・・はい・・・すみません」
「風呂も今日から俺が帰るまで待つんだな」
「・・・・」

最近麗は、杉浦が帰宅する前にシャワーを済ませていた。
何か避けられているような気がして気になっていた所だった。
「手が治るまで、暫くは夕飯も外でいい、今日は7時には帰れるから部屋で安静にしておけ」
そう言われ麗は頷くしかなかった。

麗は早退させられ部屋に戻った。
片手で出来る事もあったが、それを杉浦は許さなかった。
「半端な事をされたんじゃ、他の奴に迷惑がかかる」
それが杉浦の思いやりだとは麗は気づく筈もない。

ベッドに腰掛け、さっきの水野の言葉を反芻していた。
水野の言葉は麗を追い詰めた。
もしかして、此処に居られるのもそう長くはないかもしれない・・・・
軽蔑されてまで杉浦の傍に居たくは無かった。

『僕は何処へ行こう・・・・・』麗に行く当てなど何処にもない。
住み込みで働ける所を探そう。
保証人が無くても探せば何処かあるはずだ。
どうせ2・3日は仕事させてもらえないのだから、探してみようと考えていた。

何時の間にか眠っていたのだろう、玄関の物音で目が覚めた。
「麗・・・寝てたのか?」
「すみません・・うとうとしてたみたいで・・・」
「飯は何がいい?」
「・・・何でも・・杉浦さんの食べたい物でいいです」
「そうか、まぁ俺とお前は食事の好みも一緒だからな」

入院している時にお互い銀杏が嫌いだと判った、麗が食事の仕度をするようになって
とりあえず、自分の嫌いな物は避けた。
杉浦は残さずに全部食べてくれる事に密かに安堵していた。
翌日はおでんを作った、ちくわぶと餅巾着が残された。
「俺は嫌いだからお前が食べろ」と言われたが「僕も嫌いです」と答えると
「自分の嫌いなモン出すな」と怒られてしまった。
『やっぱり同じ物がキライなんだ・・』と少し嬉しくなった事もあった。

「利き腕はそれじゃなぁ・・・寿司にするか?」
それなら左手でも食べれそうだ「はい」と返事をすると
「ヒカリモノは好きか?」と聞かれ首を横に振ると
杉浦は満足そうな顔で「俺もだ」と笑みを浮かべる。


この後、とんでも無い事が麗の身の上に降りかかる事をまだ麗は知らなかった。





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