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愛しい人へ 25

 18, 2010 10:25
「はい?」西条が珍しく尻上がりで素っ頓狂な声を上げた。
「そんな目で見ないでくれよ、俺だって反省してるんだから」
「で、社長は手を火傷した前原君を風呂に入れてあげて、
それから体の隅々まで洗ってあげた」って事ですよね?
「隅々じゃねえよ、前洗う前に出て行かれちまったし」

ふて腐れたように言う杉浦に
「同じ事でしょう!いえそれ以上ですよ・・・そんな・・お尻なんて・・・」
西条は麗にひどく同情してしまっている。

「仕方ないじゃないか、尻がツルンとしてて、つい・・」
「ついお尻の窪みまで洗ってしまった、って事ですよね?」
空いた口が塞がらないとはこの事だ、と西条は思った。

「自分がそんな事されたらどうですか?」
「死んでも嫌だろう・・イヤ殺す、でもなぁ麗のは本当に綺麗で・・」
と言いかけて、西条の冷たい視線に口を閉じる。

「可哀相に、伯母に虐待されて、今度は上司にセクハラですか」
「セクハラじゃない、ひとつの愛情表現だ」
「どんな愛情ですか?」
「・・・俺はあいつの親みたいなもんだ」
「普通親が18の男子の尻を洗いますか?」西条の言葉も珍しく乱暴気味になっている。

今日の西条は負けていなかった。
「それで前原君はどうしているんです?」
「俺が出る時にはまだ寝てたよ」
「・・・今頃荷物まとめているかもしれませんね」と西条は少し脅してみた。

一瞬目を見開いた杉浦からは、普段の雄雄しさは感じられなかった。
「俺ちょっと部屋に戻ってみる」行きかける杉浦を西条が止めた。
「私が様子見てきましょう、社長が行ったら又傷つけかねませんからね」

ここは西条に任せるしかない・・・
「頼む」杉浦は大人しく引き下がった。


その頃麗はベッドの中で悩んでいた。
自分はどうするべきなのか・・・と。
誰かが玄関のドアを開ける音がした
「帰って来た?」そう思い部屋のドアに背を向け寝返りを打つ。

コンコン   優しくノックされる。
杉浦はノックなどしない。
「・・・はい?」
「西条ですが、ちょっと宜しいですか?」
麗は慌ててベッドに座り「はい、どうぞ」と西条を招き入れた。
「昨日は災難でしたね、火傷大丈夫ですか?」
「はい・・・すぐ処置してもらいましたので・・まだ少し痛いですけど」
「結局火傷の本当の原因は何ですか?」

あの後、粕谷を捕まえて聞いたが、水野と何かあった程度しか彼も知らなかったようだ。
麗は話すべきか迷っていた。
すると突然西条が「前原君は杉浦が好きですか?」と聞いてきた。
どういう意味の好きかを尋ねているか判らずに
「色々良くしてもらってて・・・そりゃ好きじゃなければ、此処に居ません」
「うん・・・私が聞きたいのはそういう意味じゃなくて
、何て言うか・・・性愛的に好きかって聞いてるんです」

『この人も僕をそういう種類の男だと思っているのだろうか?』
麗は一縷の望みを絶たれたような気がした。
俯き何も答えないでいると、西条の口からとんでもない言葉が出て来た。

「前原君、実は私はゲイです、私の好きな相手は男性なんですよ」
西条の突然のカミングアウトに何を言っていいのか・・咽が渇く。
「ビックリしましたか?」
そう笑う顔はまるで、冗談だよと言葉が続きそうな雰囲気だった。

「私には中学校からずっと好きな人が居るんですよ」
「・・も・もしかして杉浦さん?」恐る恐る聞いて見ると
「いえ、杉浦とは大学に入ってからの知り合いです、私も札幌の人間ですからね」

麗は内心少しほっとしていた、この人が相手では僕なんか適わない・・・

「その人は西条さんの事を・・・」
「私の気持ちは知っていますよ、あちらに帰った時は優しく抱いてくれますから」
だがそう言った西条の顔は寂しげだった。
「離れていて寂しくないんですか?」
「私達は離れていた位が丁度良いんです・・・」

「私の好きになった人はいずれは結婚しなくてはならない人です。
厳しい縦社会で生きていますからね、私はそれでいいと思っています」
「杉浦さんは、この事を・・・」
「知っていると思いますよ、口に出された事はありませんけど、
だからこの前、前原君を迎えに行った時に私に自由になる時間を作ってくれました」

麗は退院した後、夜空港で会うまで西条がひとりで行動していた事を思い出した。

「杉浦はね、自分の事には全く疎いですけど、人の事には感が鋭いですからね」
「・・・でもどうして僕にそんな話をしてくれたのですか?」
麗は西条の真意が判らなくて尋ねた。
「さあ、どうしてでしょうね?誰かに知っていて欲しかったのかもしれません」

西条は内心麗がもし杉浦を好きになっても、自分が相談に乗ってやれる
という気持ちで話したのだが、それを今言う必要も時期でもないような気がしてた。
こればかりはお互いの気持ちが一致しなければならない事だし。

ただ、麗の心の逃げ道を作っておいてあげたかったのかもしれない。
誰にも相談できない恋は、悪い方へ自分を導いてしまう事がある。

「さあ、私は会社に戻りますよ、何か困った事があったら連絡して下さいよ」
そう声を掛けて西条は部屋を出て行った。

麗にはまだ西条の真意は判らないけど
西条の恋には未来が無い事だけは判った気がする。
上手く行く恋なんてそう沢山は無いだろうな・・・
障害が多過ぎると思った。
今一緒に住んでいられるだけでも僕は幸せなんだと思おう。

『僕は今まで何も欲しがらずに生きてきたじゃないか・・・・今更何を求める?』




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