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愛しい人へ 26

 19, 2010 12:18
少しだけ素直になって甘えてみよう・・・・麗は思った。
この同居人という立場が何時まで続くのか判らなかったから
今この一緒に居られる今を大事にしよう。
思い出だけでも生きていけるぐらいに。

夕方帰宅した杉浦は「ピザのデリバリーでいいか?」と尋ねる。
「はい」麗は素直に頷いた。
寿司といいピザといい、利き手では無くても不自由なく食べられる物だった。
口調は乱暴でも杉浦は優しい。

出逢った時から優しかったじゃないか、今更ながらに思い起こした。
見ず知らずの僕を病院に担ぎ込み、手厚い治療が受けられるようにもしてくれた。
そして、酷い親戚から身を守ってくれた。
『僕はそれだけでも充分幸せだという事を忘れていた』

人の欲はどんどんと高まる。
今よりもっと、そしてそれは繰り返される。
僕は大事なものを見失う前に気づけて良かった・・・・

「あの・・・後で髪洗ってもらえませんか?」勇気を出した一言だった。
「・・・いいのか?」そんな麗の言葉に杉浦の方が戸惑っていた。
「お願いします」
「判った」ぶっきら棒に放つ言葉に優しさを見た気がした。

いつか僕がこの人の役に立てる男になれた時に言おう
「僕は貴方が好きでした」と、過去形で・・・・

杉浦は麗に疎まれてしまったのでは?と不安に思っていたが
「髪を洗って」の言葉に喜びを隠せなかった。
ピザを注文した足で、浴室に行って掃除をする杉浦に驚き、止めようかとも思ったが
麗は黙って浴室の扉の所に立って、掃除する杉浦を見つめていた。

視線に気づき「ん?」て顔をされたので
「いえ・・・杉浦さんも掃除なんかするんだ?と思って」
「馬鹿にするなよ、俺だって大学時代は札幌で一人暮らしだ、
飯だって作れるし、掃除だって出来るさ」
少し自慢化に言う杉浦を黙って見つめたまま、微笑んだ。

麗が俺を見て微笑んでいる、それだけなのに何か嬉しくて
浴槽を洗う手に力が入ってしまう。
『俺は結構単純な人間だったんだなぁ・・』

「でも、どうしてこっちの人なのに、わざわざ札幌の大学に行ったんですか?」
今まで疑問に思っていた事を聞いてみた。
「俺は、小学校の時初めて家族旅行で北海道に行ったんだよ
その時、なんか魅入られてな・・・・だから大学だけでもと思ったんだよ」

それからは毎年家族か一人かで北海道に行ってたそうだ。
「僕も北海道好きです・・・」
好きと言いながらも、麗の声には憂いがあった。
楽しい想い出ばかりじゃない・・・
今でも目を閉じると、優しかった両親の姿が浮かぶ。

そんな麗に労わりの目を向けた時、
「でも貴方と逢えたから・・・」
「そうだな・・・お前と逢えた・・・」
あの日札幌に、そしてあの公園の前を通らなければ永遠に逢う事は無かっただろう。

杉浦は何故か麗を通りすがりの縁だけで終わらせたくなかった。
『死神を待っている』と言った麗が本当は
『貴方を待っていた』と言っているように感じた。

「人の縁は面白いな」独り言のように言う杉浦に麗も黙って頷く。

ピザが届いたのだろう、インターホンが鳴る。

「こんなに誰が食べるの?」思わず麗が声を上げる。
ピザにサラダにチキン、ケーキまである。
最近のピザ屋ってこんな物まで?と目を丸くした。

でも二人で食べる物は何でも美味しかった。
「沢山食ってもう少し太れ」言う言葉は相変わらずだが
「でもこっちに来てから、随分肉が付いたんですよ」と麗も恥ずかしそうに言う。

「・・・後でちゃんとチェックしてやるから」
言ってしまってから『しまった、又セクハラか?』と自責の念に駆られたが
麗は少し頬を染めただけで嫌がるような素振りは見せなかった。

麗は自分が少しづつ成長する様を見てて貰おうと思った。
楽しい事も苦しい事も全部見てて貰おう。



麗は浴槽の中で立っていた。
その麗のほっそりとした体を杉浦がじっと見ている。
そこには、あの肋骨が浮き出て痣もある体は無かった。
程よく骨が隠れ、キメ細かいシミひとつない綺麗な肌が・・・・

眩しい物を見るように杉浦の目が細められた。
「綺麗だな・・・」
杉浦の前には、今まで見て来たどの女よりも綺麗な肌の麗が居た。
「綺麗だ・・・」もう一度呟き
「麗・・その肌に触れてもいいか?」

その言葉に体中の血管が騒ぎ出す・・・
麗は小さな声で「・・はい」と答えた。




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