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愛しい人へ 22

 17, 2010 10:47
あれから麗は週4日バイトに行った。
初日の失敗を二度と繰り返さない為に注意し、努力もした。
粕谷が協力してくれたお陰で、仕事にも慣れ、人間関係も円滑にいっていた。
段々と仕事にも興味を覚え、楽しかった。

高校の頃は学校に行くのも億劫で、休みも多かったが
家に居てもやることが無いので、結局勉強していた。
お陰で、テストの成績は常に上位にあったし、私立だったため、出席の方も煩く言われなかった。

何故、ケチな伯母が私立に行かせたかと思って考えてみた事があった。
今思えば全部伯母の見栄だったのでは?と思う。
だからバイトもさせて貰えなかった。

両親が亡くなって伯父夫婦が自分の借りていた家を出て
麗たちが住んでいた札幌の家にやって来たのだから、近所の人は皆麗の事を知っていた。
色々詮索されるのが嫌だったのだろう。
多額の保険金が下りたをの後で噂で知ったが、もうどうでも良かった。
最初から何も無かったと思えば悔しくも辛くも無い。


僕はここで生きていくのだから・・・・


最初にあの公園で出逢った時から特別だった。
その特別な感情が何だったのかは、その時は判らなかった。

僕は杉浦さんが好きだ・・・・

あの男同士のDVDを見た時は良く判らなかったけど
粕谷さんや、他の男性社員と接しても何の変化も気持ちの動きもなかった。
だけど、杉浦は違った・・・
彼の言葉や眼差しに一喜一憂している自分が居たのだ。

だからこそ麗はこの気持ちを封印した。
この人の傍に居られる手段はそれしかない。


麗は勉強も頑張った。
粕谷から下げてもらった「宅地建物取引業者」の問題集を暇があれば開いていた。
そんな麗を見て杉浦は「頑張れよ」と頭を撫でてくれる。
それだけで満足しなくてはならない・・・・

あの夜からひと月が過ぎる頃
「そういえば、あのDVD全部見たのか?」と食事の後に聞かれ
麗はしどろもどろになりながら「あ・・はい」と曖昧な返事をした。
「何だ、面白くなかったのか?」
「・・・いえ・・」
麗はあの夜以来あのDVDは全部封印してしまっていたのだ。
自分の嗜好を隠すように・・・

「ちょっと持って来い」
「えっ?」
「あんまり見てないんだろう?一緒に見ようぜ」
麗の気持ちを知らないで杉浦は平然とそんな事を言うのだ。
「ぼ・僕見たくありません」
「俺だって30の健康な男だぜ、たまには見せろよ」
そう言われてしまえば、持って来ない訳には行かない。

麗は10枚のDVDを部屋から持って来て差し出す。
「どれが良かった?」
「・・・・」
「もしかして全然見て無いのか?」呆れたように言われ
「いえ・・少しだけ見ました」

杉浦はリビングのテレビの前に座り麗の手を引き寄せ隣に座らせた。
ランダムに再生しながら気の短い杉浦は
「うーん、女優の顔が好みじゃないなぁ」
と難癖付けて、どんどん次の物と入れ替えしている。

麗はわざと、あのDVDは一番下にくるように渡していた。
最後の1枚になる前に杉浦が飽きてくる事を願って。
「これは痩せすぎだ」とか「何だこれ子供みたいな子じゃないか!」
麗も見た事が無かった映像がどんどん流れ、そして変えられて行く。

「ぼ・僕もう部屋に戻りますから」と立ち上がるが手を引っ張られ
「こんなの一人でも見ても詰まらないだろ?わいわい言いながら見るから面白いんじゃないか」
今度は杉浦の体にぴったりくっ付いた形で座らされる。
「なんだ・・豊川の奴大したモン作ってないなぁ」と零している。

そしてその手はとうとう10枚目のDVDに手が掛かった。
「これで最後か・・・意外と詰まらないもんだな」
10枚目のDVDが再生され麗の記憶から消せなかった映像が映し出された。

麗は顔を上げる事が出来なかった。
そんな麗を揶揄するように、顎に手を掛け「ほら、ちゃんと見ろよ」
麗はこれだけを否定する訳に行かないので見る振りをした。

前の9枚は5分もしないで停めてたのに、今回のは長い
『もしかして、僕を試しているの?からかっているの?』
麗の頭の中は真っ白になりそうだった。
体が小刻みに震えてきた麗に気づき
「あ、悪かったな、やっぱり気持ち悪かったか?」

「気持ち悪かったか?」と聞かれた麗は、自分を否定されたようで
胃から激しく突き上げてくるものを感じた。
慌ててトイレに駆け込み嘔吐した・・・・

驚いた杉浦がドアの外から
「麗、ごめん悪かったな、無理やり見せちまって」杉浦にしては声が弱々しい。
吐き気が治まってドアを開けて出て行くと
心配そうな顔をして杉浦が立っていた。

「いえ、僕こそすみません、折角僕の為に用意してもらったのに・・・」
自分の顔が冷たいのを感じた。
「お前真っ青だ・・・大丈夫か」
「・・はい、大丈夫です。もう寝ますから、おやすみなさい・・」
杉浦に頭を下げ自分の部屋に入りベッドに潜り込んだ。

『僕が感じてしまった映像を見ても、杉浦さんは気持ち悪いと思うだけなんだ・・・』
自分がイヤで、悲しくてベッドの中で声を殺して泣いた。

リビングでは杉浦がさっきの映像を消音にして見ていた。
杉浦は『男同士もありなんだよなぁ・・』とぼーっと映像を眺めていた。
筋肉質な男の下で喘ぐ青年と麗が重なり、思わず頭を大きく振る。
『馬鹿な想像を・・・・麗は吐くほど気持ち悪がっていたのに・・』

それでも杉浦はそのDVDから何故か目が離せず、ずっと見ていたのだった。





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☆ 拍手コメからお知らせ下さってありがとうございます。
愛しし人(-_-;)恥ずかしい間違いしてしまいました。
タイトル訂正いたしました。お手数おかけしてすみません、ありがとうございました!
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