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この世の果てで 12

 12, 2010 00:00


あの日から3日程過ぎた頃に狭山が瀬田に報告書を渡した。
「尾崎君の父親の件調べつきました」
「そうか、ありがとう」

瀬田はいつものように机に背を向けた状態で報告書に目を通した。
何か大事な事を考えたり決めたりする時にはいつもこの姿勢だ。

その様子を黙って狭山が見守る。
その報告書を読み終わっても瀬田が椅子を回転させるまでに
随分と時間がかかったようだった。

「何て運が悪い・・・」
尾崎の父親が刑務所に入所した経緯を知って瀬田が唸った。


13年前

その夜尾崎の父は同僚と2人で軽く飲んで地下鉄で帰宅する予定だった。
遅くに飲み始めた2人は軽く飲んで早々に切り上げた。
電車待ちをしているサラリーマンの多くがアルコールが入っている時間帯だったし
金曜日の夜ともなると、その比率がぐんと上がってしまう。

それは6・7人の団体とすれ違う時に、世間によくあるような
肩がぶつかった、ぶつからなかったの単純な事から始まった。
尾崎の父は2人、相手もサラリーマンだが人数が多かった。

人間は不思議な者で味方が多いとそれだけで強くなった気になる。
尾崎の父はそんな争いに巻き込まれ、掴まれた腕を振り払った時に
本当に運が悪いとしか言いようが無い・・・

ホームに電車が入って来て、その絡んだ相手が電車に轢かれた。


そして尾崎の父は1年の裁判の結果「障害致死傷罪」の有罪判決を下された。
「過失致死傷害罪」ではなく重い「傷害致死」
全く罪の重さが違う。


何故?どうして?尾崎を知る者は皆そう思った。

絡まれたのは尾崎達の方だった。
だが2人と6人では証言に食い違いがあった上。
被害者の仲間は皆喧嘩を売ってきたのは尾崎の方だと言い張る。

そして悪い事に相手は会社の顧問弁護士を出してきたのに対して
尾崎の方は国選弁護士だった。

駅でのホームの出来事は、他にも見ていた者がいるにも関わらず
他に証人が出て来なかった。
所詮酔っ払い同士の喧嘩など火の粉が掛かるのを恐れて近寄らない。

裁判は全面敗訴だった。


狭山は尾崎と一緒に居たという同僚に会って来たらしい。
その同僚の心にもその出来事は深い傷を作っていたようだった。
その同僚が一度だけ面会に行った事があるそうだ。

『俺はわざとじゃない・・・だけど
この振り払った腕の感覚が今でも鮮明に残ってるんだ・・・
俺が殺したんだ・・・』
飛び散った肉片が顔に付着したその感触は拭っても拭っても取れないんだ・・
そうも言ってたらしい。

真面目な尾崎はそんな事実に耐えられなかった。
家族に詫びながらも数ヶ月を獄中で過ごし、
そしてとうとう自ら命を絶った。


「何て事だ、被害者はどっちだ!」瀬田が呻いた。



あの時偽証・・・というか、もしかしたら揉め事の始まりを
ちゃんと確認してなかったのでは?と思ってしまう。
いつの間にかそれは始まり、そして瞬時に終わった。

たった数秒数分の事が多くの男たちの人生を変えてしまった。


そして尾崎拓海もその事故で人生を変えてしまった被害者の一人だ。



「俺は・・あいつに幸せをあげたい・・・狭山どうしたらいい?」
狭山から見たら瀬田は怖いもの知らずの俺様だったのに、
尾崎に関しては少し臆病になるようで、それが先輩とはいえ可愛らしかった。

「あなたでも私の意見を聞きたい時があるんですね?」

揶揄されてるのが判らないようで
「ああ」とだけ答えると、又考えるように窓の外を眺めだした。





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