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この世の果てで 10

 10, 2010 00:00
「今日はご馳走様でした」
店の外で瀬田にお辞儀をする拓海に向かって
「送って行こう」と瀬田が声を掛けた。

「そ・そんな・・食事をご馳走してもらった上に、送ってもらうだなんて」
手を振って拓海が遠慮している。
「ついでだ」
「でも・・」
「それに話もある」
そう言われたらそれ以上遠慮は出来なかった。

だいたいの住所を教えると瀬田は車を走らせた。
「居酒屋とコンビニに掛け持ちじゃ大変じゃないか?」
「もう慣れました」
中学高校と新聞配達のアルバイトもした拓海にとっては、そう大変な事では無かった。

「尾崎君は本当に真面目で働き者だな」
「い・いえ・・そんな事ないです、普通です」
「そんなに忙しくしてたら彼女作る暇もないな」
「彼女なんて・・・僕には贅沢です」

「尾崎君の場合は彼女ってよりも彼氏って感じもするけど?」
揶揄するように言う瀬田の言葉に拓海の体が強張った。
「そ・それはどういう意味ですか?」
その顔は強張り、血の気が引いていった。

「あ、悪い悪い深い意味は無かったんだ・・本当にすまない」


「誘ってんの?」
あの時街をふらついていた時に何度か言われた言葉を思い出した。

「俺は・・誘ってなんかいません!」
つい拓海はそんな言葉を吐いてしまった。


瀬田が黙って車を路肩に停めた。
「尾崎君・・そんなに傷つけるつもりは無かったんだ・・」
拓海は5年前と今が重なってつい言われてもいない事に腹を立ててしまった自分に気づいた。

「あ・・・俺こそ・・ごめんなさい・・・」
だけど一度陥った錯覚を完全に取り去る事は出来なかった。

5年前のあの夜は辛い思いをしても泣けなかった。
自分が泣けば病気の母が悲しむ・・そんな気がして涙を堪えていた。

それなのに今頃になって涙が出てきてしまった。
5年の歳月を経た悲しみが今頃襲って来た。

黙って唇を噛み涙を零す拓海を瀬田は見ないように顔を逸らした。
今、尾崎の涙を見てしまったら、5年前に君を買ったのは自分だと
告白してしまいそうだったからだ。


あの日、瀬田は知人の見舞いに病院に行っていた。
帰り際会計の横を通る時に
「明日までに10万円用意して下さいね」と冷たく言う事務員の声が耳に飛び込んだ。
その事務員が言っている相手はまだ高校生くらいの少年だった。

肩を落とし、不安な顔をしているその少年の事が気になって瀬田は後をつけたのだった。
何故自分がそんな事までしたのかは、自分でもよく判らなかった。
危なっかしくて見ていられなかったのも本当だが、
もしこれが尾崎では無い少年だったら、そのまま見過ごしたかもしれない。

秋の夕暮れはあっと言う間に闇に変わってしまう。
一度鞄を置いて来たのだろうか、白いシャツにズボンだけの少年の姿は
夜の街に溶け込むことなく、その姿を浮き彫りにしていたようだった。

何人かの男に声を掛けられ、驚いたように場所を移動している。
瀬田は気づかれないように、その姿を見守った。

だがこれ以上闇が深くなると危険が及ぶかもしれない。
それほど、その時の尾崎は儚く、そして美しかった。

2時間しても尾崎がその場を離れる様子がなかったので
思い切って瀬田が声を掛けた。

「僕を買って下さい」その言葉に驚いたが
自分が拒めばどんな輩に身を投げるか判ったもんじゃない。

そして瀬田は尾崎をホテルに連れて行った。






お礼の意味も込めまして、9話10話と短い間隔での更新です。
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COMMENT - 2

-  2010, 10. 12 [Tue] 19:07

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kikyou  2010, 10. 13 [Wed] 03:12

おもしろいですと・・・

言って下さった方・・・ありがとうございます。

そして気付かなかった・・・
早速訂正いたしました。
本当に教えて下さってありがとうございました。

お恥ずかしい限りです^^;

これからも宜しくお願い致します。

コメントもありがとうございました!

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