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この世の果てで 9

 09, 2010 22:30
瀬田社長に連れて行かれた中華料理の店で拓海は
瀬田と二人で円卓に着いた。
「あの・・秘書の方は一緒ではないのですか?」
「ああ、あいつはまだやる事が残ってるらしい」

瀬田は狭山に拓海の父親の件を調べるように指示していた。

「さぁ、若いんだから好きなだけ食べて」
「はい、頂きます」
定番だが拓海はエビチリがとても好きだった。
だが本格的な中華料理を早々食べる機会など無かった。
母が元気な頃はよく食卓に出たりはしたが、それも素人の作る物だ
こんな豪華な海老など普通家庭では使わない。

エビチリを美味そうに食べる拓海に微笑みながら
「好きなのか?」と瀬田が聞いてきた。
「えっ?」一瞬何の事なのか判らなくてぼうっと瀬田の顔を眺めてしまった。
「エビチリ好きなのか?」
もう一度聞かれ、何故か急に恥ずかしくなって
「あ・・はい、好きです」と答えたが、自分の顔が赤くなってないか心配だった。

「俺の母が・・あ、私の母が元気な頃によく作ってくれました」
「俺でいいよ。そう・・お母さんは君を愛していたんだろうね」
「はい・・・大事にしてくれました」

父のことでいつも自分に詫びていた母だった。
『拓海の人生を狂わせてしまったね、ごめんなさいね』
病院に見舞いに行く度にそう言って目頭を押さえていた母だった。

「尾崎君はモテるだろう?」
暗くなりそうな拓海に話を変えるように瀬田が話しかけた。
「全然もてませんよ」
気の利いた言葉も言えないつまらない自分など好きになってくれる子など居なかった。
「君は自分を卑下し過ぎだ」
「そんな事は無いです、自分の事は自分が一番知っていますから」

瀬田は目の前の青年の端整な顔を見ながら
「君は磨けば光る逸材だよ」と言う。
「あの・・やはりこういう仕事だと・・もう少し身なりに気を付けた方が良いですよね?」
拓海は普段から全く流行に左右されないような格好をしていた。
そういう物が嫌いな訳では無かったが衣服費は最小限に抑えておきたかっただけだ。

「君はもっと濃い色の方が似合いそうだな」さりげなく瀬田が言うと
「濃い色は褪せやすくて・・・・あは・・貧乏性ですね」
自分で言ってて拓海は恥ずかしかった。
「いや、物を大事にする事は良いことだよ」

今まで自分の周りにそんな拓海を笑う者は大勢いたが
誉められた事などなかった。
「そういえば、うちの会社の財布を持ってたよな?もう一度見せてくれるか?」

上着のポケットから財布を取り出し、瀬田に渡した。
「本当に大事に使っているんだな・・・」
よく手入れさてた革だった。
程よく使い込まれ革の持ち味が出ている。

「これは君が自分で買ったのか?」
「・・・いえ、これは預かり物でいつかお返ししないといけないので・・」
「そうか大切な物なんだな」
「はい、大げさかもしれませんが、これがあるから俺は生きてこられた」


瀬田はあの日に自分の下で苦痛に顔を歪めながらも
受け入れた拓海の顔を思い出していた。
父親の件で本当に頼る親類縁者も居なかったのだろう・・
拓海が眠っている間にズボンのポケットから学生証を探し素性を調べさせた。

だがその時は父親の死因まで調べる事はしていなかった。





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