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この世の果てで 14

 14, 2010 00:00
拓海は蕎麦屋を出ると公衆電話を探した。
最近では公衆電話もその気で探さないとなかなか見当たらない。
「何処に行くんだ?」
呑気な瀬田の声に苛立ちを覚えるが無視して
やっと見つけた公衆電話にコインを入れた。

掛けた先は勿論バイト先のコンビニだった。

「あ、もしもしバイトの尾崎ですが」
「あー拓海君?」
電話に出たのはオーナーの奥さんだった。
拓海が話そうとする前に

「拓海君、良い就職先が見つかって良かったわねぇ
急だったから驚いたけど、あんな大きな会社だったら将来が安心だわ。
あ、それとあんな高価な牛肉頂いて・・ご馳走様って伝えておいてね」

「牛肉?」

「松阪牛なんて本当に久しぶりで」
オーナーの奥さんはまだその余韻を味わってるように語った。
暫くその美味さの感想を黙って聞いていたが、
「でも、本当に良かった・・・拓海君幸せを掴んでね」

高校生の頃からバイトしている拓海は奥さんにも良くしてもらった。
詳しくは語ってはいないが、その当時母が入退院を繰り返してたのも知っていた。
そして亡くなった時にも色々世話をやいてくれた。

「何もしてあげれなかったけど、仕事上手くいかない時は
いつでも戻って来ていいからね」
「そんな、充分に良くして頂きました。」
「幸せは平等に来るんだから、今まで苦労した分絶対幸せになってよ」
奥さんは声を詰まらせながらそう言ってくれた。
「はい、ありがとうございます・・・お世話になりました」


辞めないと電話をしたつもりが、何故だか最後の挨拶になってしまった。
受話器を置いて唖然としている拓海の背に
「電話終わった?」とまたも能天気な声が聞こえてきた。

「・・・・・・」
だが返事をする事なく、もう1つのバイト先の居酒屋に電話を掛けた。
ここは母が亡くなってから勤めたから、まだ2年足らずであった。
今なら店長が居る時間だ・・・

そして幾つかの会話の後、拓海はやはり同じように礼を述べ電話を切った。

「さっ、行こうか?」

2つのバイト先が突然無くなった・・・
それは拓海にとって死活問題である。
瀬田の掌の上で簡単に転がされてしまった、自分もバイト先のオーナー達も。

そして拓海はタクシーに乗り込む瀬田の後にしぶしぶ従った。

着いた先のマンションは全てがカードキーで操作される
近代的なマンションだった。
エントランスに並ぶ2人の女性に「お帰りなさいませ」と迎え入れられる。

拓海にしてみれば、それは生活空間というよりも
異次元のように思えた。
そして瀬田の部屋に足を踏み入れた途端に違う異次元を見た。

「!」
「散らかってて悪いな・・」
瀬田が少し照れたように拓海に言葉を掛けた。

「しゃ・・・社長・・・・散らかってるって・・・・
何処を歩けばいいんですかっ!」
流石の拓海も呆れて大きな声が出てしまった。

とても広い部屋・・・なんだろうが、其処はまるで泥棒でも
入ったかと思うくらいに、物が散乱していたのだ。

「だから・・・バイトしてくれれば助かる・・」
本当はこの有様に瀬田もお手上げだったのだ。
『社長、とにかく散らかすだけ散らかして』
そう狭山に入れ知恵されたのは1週間前だった。

それから1週間、瀬田とて我慢して使いっ放しにしてきたのだ。


「・・・・時給は幾らですか?」
拓海が観念したように、おずおずと対価を尋ねてきた。

そんな拓海に内心にやりとしながら
「こんな仕事だ、時給よりも月給でやってもらいたい」
「月給・・?」
「そうだ、月15万でどうだ?やってくれないか?」

それは拓海の2箇所合わせたバイト代よりも少し多い額だった。

「お・俺の仕事は・・・?」
「掃除洗濯、後は晩飯を作ってもらえれば」

それで月15万は拓海にとって、とても美味しい話だった。
拓海は額にも釣られたが、先ずこんな部屋に
自分が今後お世話になるだろう社長が
暮らしている事が我慢出来ないような気がした。

「今から片付け始めてもいいですか?」
「それはOKって事かな?」
「・・・はい、宜しくお願いします」

拓海は改めて瀬田に頭を下げた。
そんな拓海を嬉しそうな顔で見守る瀬田だった。







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