拓海はゴミ袋を貰い、片っ端から袋に詰め込んで行った。
「手際いいな・・」
ソファに追い立てられた瀬田が感心したように言うが
「これくらい普通です」
機嫌の悪い拓海は取り付く島が無かった。
ゴミの多くは缶ビールの缶や、数誌取ってるだろう新聞紙だった。
生ゴミが無い事に拓海は驚いて
「社長、食事はどうしてるんですか？」
「殆ど外食だ」
実際毎日外で食事はしてたが、その殆どがバーで食べるツマミ類だった。
「栄養管理はきちんとした方がいいですよ」
「ああ・・・カミサンみたいだな」
嬉しそうに揶揄する瀬田をちらっと見て、その言葉は無視し
「洗濯機は何処ですか？」と聞いた。
瀬田に案内されて、洗濯機が配置してある所に行くと
其処には拓海が見た事も使った事もない、最新のドラム式の洗濯機があった。
「・・・取扱説明書ありますか？」
「ああ、この部屋の何処かにはある筈だが・・・」
「もういいです」呆れて言う拓海に
「使えそうか？」
「基本は一緒でしょうから、大丈夫だと思いますけど・・・」
自信があった訳では無いが、仕方ない、引き受けた以上はやるしかない。
とにかく３０畳ほどあるリビングは何とか片付いて、洗濯機も回せた。
「一休みしよう」
何も手を出さずにソファに座っていただけの瀬田が冷蔵庫から缶ビールを出して来た。
空調の効いた部屋の中とはいえ、動き回った拓海には
そのビールの喉越しが最高に気持ち良かった。
「あ、これ契約書だ、サインしておいてくれ」
「契約書？」
一応会社経営者だ・・・と内心思いながら
疲れた体は文字を読む事を拒否してしまい、きちんと読まずにサインした。
「さ、引越しはいつにしょうか？」
「え？社長引越しされるんですか？」
この部屋の何が不満なのだろう？そう思いながら訪ねると
「引越しするのは尾崎君の方だよ」
「え？俺はそんな予定はありませんけど？」
古い１DKの部屋に満足しているとは世辞にも言えないが
今時、狭いながらも風呂も付いてて５万円は拓海に出せる最高額だった。
「契約書ちゃんと読まなかったのか？住み込みの家政夫となってるだろう？」
そう言われて慌てて契約書を確認したが、確かに住み込みとなっていた。
「そ・そんな・・・俺此処に住むんですか？」
「その方がお互いに都合が良いと思うが？」
「住み込みで月給１５万？」
「そうだ、休みは不定期・・・俺の出張もあるし
尾崎君だって試験だって色々あるだろう？」
「それに、君が今まで支払ってた家賃も光熱費もこれからは浮いてくる、
悪い話じゃないと思うが？」
そう言われても直ぐにはピンと来なかった。
考えてみれば、ライフラインに掛かる金額は拓海の収入の６割を占めていた。
お陰で欲しい本も買えずに辛抱してきたのだ。
「こんな美味い話････何か裏があるとか？」
拓海が恐る恐る聞くと、大きな声で楽しそうに笑った瀬田に
「別に俺が君を騙して何か得な事でもあると思うのか？」
そう言われてみれば、財産も家族もない拓海を騙したとて何の得にもならない。
「いいんですか？俺がここに住んでも？」
「勿論・・・奥に１部屋使ってない部屋があるから、そこを使うといい」
「は・・あ・・ありがとうございます」
「こっちだ、案内しよう」
そう言って瀬田が案内してくれた部屋は２０畳ほどもある
信じられないほど広い（拓海基準）部屋だった。
「さあ、引越しはいつがいい？」
何が嬉しいのかとても楽しそうに拓海の引越しの日を
嬉しそうな顔で決めようとしている瀬田だった。
なかなか進みの悪い話ですみません。
瀬田社長は色々手を回し、やっと拓海と一緒に住めるようになりそうです。
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