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この世の果てで 50

 19, 2010 00:01
午前中に退院の手続きを済ませたのは秘書の狭山だった。
特別室に10日入院した費用など聞くのも怖かったが、
「あの・・幾らですか?」拓海は思い切って聞いたみた。
「心配しなくても良いですよ、社長のポケットマネーから出てますから」
教えてくれそうも無い狭山に頭を下げながら心の中で
『借金になっちゃった・・・』とそう思った。

母の病院代に苦労した拓海はまさか自分も同じになるとは、と思いながら
「あの社長は?」と聞いた。
もう直ぐ病院を出なくてはならない時間なのに、
瀬田の顔が見えないのは少し不安だ。

「社長は、どうしても外せない仕事があって、直接マンションに帰るそうです」
「そうですか・・」
最近は特に忙しいらしくて、ゆっくり顔も見ていない気がした。
手術の翌日までは、下の世話までしてもらったが、その翌日からは
室内にあるトイレに行っていい許可が下り、瀬田の手を煩わせる事は無くなった。

「さあ、帰りましょう、忘れ物は無いですか?」
狭山に促され、部屋を出る時にもう一度室内を振り返り眺めた。
3日目から簡易ベッドが使われる事はなかったが
拓海が寝ている間に来た足跡は必ず瀬田は残していっていた。
それが本だったり、甘い物だったり、新しい着替えだったり・・

拓海が病院を去る時には、特別室の患者の退院らしく
担当の医師と数人の看護士に囲まれ退院祝いの花束を貰い
見送ってくれた皆に礼を述べ、狭山の運転する車でマンションに向かった。

マンションに着くと、一つのボストンバッグと2つの紙袋を持ち
部屋の前まで狭山が送ってくれた。
以前ここに移って来た時と同じような量の荷物だ・・
10日も居るうちに、瀬田の差し入れで一杯になった荷物だった。

「では私は此処で」
狭山の言葉にちょっと驚いたが、考えてみればそれは当たり前だった。
病院に迎えに来てくれただけで有難いと思わないとバチが当たる。
「お仕事中わざわざ有難う御座いました」
深く頭を下げる拓海に「きっちり養生して下さいよ、無理はしないように」
そう言い残して狭山はエレベーターに向かって歩いて行った。

ドアの前に置かれた荷物を持ち、ひとりドアを開けた。
今まで、ずっと一人だったのに最近人の温もりに触れる機会が多くて
一人が寂しい事に気付いたが、その寂しさを払拭するように
重たく感じるドアを開けた。

玄関に入り、2mほど歩き左に曲がると広いリビングがある。
本が入っている荷物が重くて、拓海は花束だけを持ってリビングに向かった。

「!・・・」
無人と思っていたリビングのソファに普段着姿の瀬田が座っていた。
そして拓海の顔を見ると立ち上がり
「お帰り、退院おめでとう」
そう言いながらゆっくりと拓海に向かって歩いてくる。

呆然とする拓海を緩く抱き締める。
腕の中に包まれてもまだ信じられない気分で
「どうして居るんですか?」などと聞いてしまった。
「俺もやっと休みを取れた、日曜日まではゆっくり出来る」
その言葉に拓海は子供のように指を折りながら
「水・木・金・土・日」と言葉にした。

そんな拓海に失笑しながら「そうだ5日間は一緒だ」
拓海は最近瀬田がゆっくり自分の所に来ない理由を知った。
きっとこの5日を確保する為にスケジュールを調整したのだと・・
「俺・・喜んでもいいんですか?」
「ああ、喜んでもらわないと俺も頑張った甲斐が無い」

瀬田は壊れ物を扱うように拓海をソファに導いた。
「俺もう大丈夫ですから・・・」
「駄目だぞ、ちゃんと安静にしておかないと」
「はい・・」

「ほら、昼飯・・腹減っただろう?」
言われて気付きダイニングテーブルを見ると、そこには
どこかの店からデリバリーしたのか?と思う程の料理が並んでいた。
「え・・これどうしたんですか?」
「俺が作った!・・・と言いたい所だがホテルのシェフに頼んだ」

今は一流ホテルや高級料理店もそういうデリバリーをしていると聞いた事はあったが、
まさか自分がそういう待遇を受けるとは思ってもいなかった。
「なんか凄いですね・・・」
それは豪華な料理というよりも、自分がされている事に対して言った言葉だった。

「さあ冷めないうちに食べよう」
「社長・・色々有難う御座いました」
自分がどんなに良くしてもらっているのか
どうしてこんなに良くしてくれるのか?

そして拓海は瀬田に自分の気持ちを告白した事を後悔した。
あの時言ってしまわなければ、この良い主従関係でも続けて行けたのに・・
退院したら話すと約束した事を反故にしたい気分だった。
あの話を聞いたらもうこういう雰囲気も維持できないかもしれない。

「どうした?食べないのか?」
拓海の内心をよそに瀬田は始終機嫌良く嬉しそうだ。
「社長、嬉しそうですね」そんな瀬田につい言ってしまった。
「お前は嬉しくないのか?無事退院出来て、また二人で生活できるんだ」

『そうか俺死にかかったんだ・・・』

「嬉しいです・・凄く嬉しいです」
言葉に出した途端に今の自分の幸せを噛み締めた。
『嬉しい・・・一緒に居られて嬉しい・・』
思った途端にツンと鼻が痛くなり目頭が熱くなった。




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COMMENT - 14

-  2010, 10. 19 [Tue] 00:14

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 01:47

鍵コメ Yさま

あはは・・アドさん憑依事件
無事解決したようです^^;

でも肝心の事が解決しませんねぇ・・・

でも、そろそろ舞台が整ったって所でしょうか?

+は+だよ(笑)

コメントありがとうございました!

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jun  2010, 10. 19 [Tue] 05:31

キキョウさん、お早うございます。
拓海、退院しましたね。
瀬戸のうれしさ、目に見えてきます。
6日間も休暇取ったり、ホテルから料理取ったり。
拓海も瀬田といられることは嬉しいけど、
約束が重荷に。
これからどうするのですか?
白紙にすることはできないですものネ。

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-  2010, 10. 19 [Tue] 10:23

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お嬢  2010, 10. 19 [Tue] 10:32

祝♪退院

無事の退院取り敢えずおめでとう。
でも拓海・・・どうすればいいか戸惑ってますね。
約束。どうするのかな~瀬田の暮らしが心地良いとは思ってる見たいですね。
そういや。天使の紫苑も強引な同棲でしたねぇ。
こっちの二人も同じ感じで・・・紫龍のように手取り足取りやさしくしてあげて下さい(笑)
こちらも随分何かがたまっておられるようなので・・・

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-  2010, 10. 19 [Tue] 11:00

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 16:00

junさま

> キキョウさん、お早うございます。

こんにちは(今日はちょっと早いです^^)

> 拓海、退院しましたね。
> 瀬戸のうれしさ、目に見えてきます。
> 6日間も休暇取ったり、ホテルから料理取ったり。

この日の為に頑張って仕事してきた瀬田ですね。
じっくりと拓海を料理するつもりだったのかも?(笑)


> 拓海も瀬田といられることは嬉しいけど、
> 約束が重荷に。
> これからどうするのですか?
> 白紙にすることはできないですものネ。

白紙に戻せない過去を引き摺ったままの拓海が幸せになれる道が
どこかにあるはずなんだけど・・・
次話では、進展ありますからお楽しみにしてて下さいね。

コメントいつも有難う御座います!


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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 16:01

鍵コメ Cさま

こんにちは。

いつも読んで下さってありがとうございます。
次は少し進展します。
瀬田の優しさ、拓海の思い・・・お楽しみに♪

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かや  2010, 10. 19 [Tue] 16:07

休みもばっちり取って、拓海くんを逃がさない体勢を整えてからタネを明かそうとする瀬田さん。ズルイ大人全開ですね~。
拓海くんが、罠にかけられたウサギに見えるのは、気のせいでしょうか・・・?

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 16:07

お嬢さま

> 無事の退院取り敢えずおめでとう。

ありがとうございます!

> でも拓海・・・どうすればいいか戸惑ってますね。
> 約束。どうするのかな~瀬田の暮らしが心地良いとは思ってる見たいですね。

黙ったまま、その心地良い暮らしを続ける事が出来ない拓海ですからねぇ。

> そういや。天使の紫苑も強引な同棲でしたねぇ。
> こっちの二人も同じ感じで・・・紫龍のように手取り足取りやさしくしてあげて下さい(笑)

紫苑・・・紫苑の場合は「後ろめたさ」というのが無く
対等な環境にありましたからねぇ・・
その点拓海の場合は、キツイですね。

> こちらも随分何かがたまっておられるようなので・・・

この場合のあちら側ってAさん所の二人かしら?(笑)

コメントありがとうございました

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 16:10

鍵コメ Mさま

こんにちは。

不要との事でしたが、一言お礼を・・ありがとうございました!

テヘヘ^^;毎度です(笑)
それと、こちらのコメントはメールのお知らせで全部読めるんですよねぇ
あっちのブログは「コメントがありまし」のお知らせメールだけで
内容はログインして確認するまで判らないんですよ。

やっぱりこっちの機能いいですね♪

ありがとうございました。

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 16:13

かやさま

> 休みもばっちり取って、拓海くんを逃がさない体勢を整えてからタネを明かそうとする瀬田さん。ズルイ大人全開ですね~。
> 拓海くんが、罠にかけられたウサギに見えるのは、気のせいでしょうか・・・?


かやさんこんにちは・・・
もう次の話を書き終えました。
私にしたら珍しいです^^

あまり多くを語ると・・・お口チャックしておきます。

ウサギの行方を楽しみにしてて下さいネ。

コメントありがとうございました!

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紫猫  2010, 10. 19 [Tue] 20:55

拓海君退院おめでとう!なのですが、
う~ん…
やっぱりあの約束が負担になってしまいましたね…

そして、次の話がもう書きあがっているとは!!
どうなるのでしょうか、楽しみにしています♪

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 21:03

紫猫さま

> 拓海君退院おめでとう!なのですが、

ありがとうございます!無事退院しました♪

> う~ん…
> やっぱりあの約束が負担になってしまいましたね…

そうですよね・・・どう打ち明けるか
どっちが打ち明けるか?
それが問題ですよね


>
> そして、次の話がもう書きあがっているとは!!
> どうなるのでしょうか、楽しみにしています♪

私にしては珍しく書き上げました^^
早くアプしたい気持ちなのですが、
そうすると明日がキツくなるので^^;

零時お楽しみにして下さいネ。

コメントありがとうございました。


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