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この世の果てで 49

 18, 2010 00:04
『帰って来た・・・』この階の一番奥にあるこの病室まで長い。
だけどその足音が誰の足音なのか拓海には判る。
拓海は瀬田が座るであろう反対側を向いて眠った振りをした。
静かにドアが開いたが、拓海はピクリとも動かなかった。

一体どんな顔をして会えばいいんだろう?
拓海は答えが出ずに結局寝た振りをしたのだが
瀬田がベッドの横の椅子に座って、小さく声を掛けた。
「拓海・・・寝てるのか?」

返事をしない拓海の手を取ったかと思うと
両手で大事そうに包み込み拓海の手ごと自分の額に祈るように押し当て
「拓海・・・生きててくれてありがとう」と言っている。
「拓海・・・早く元気になれ・・」

その祈るような囁きを聞いて、拓海は不覚にも涙が零れてしまった。
「・・・くっ・・」
「拓海?どうした、痛むのか?」
顔を覗き込まれ、泣いていた事を気付かれてしまった。

自分がどれだけ瀬田に心配を掛けたのか、改めて身に沁みたのだった。

「俺・・・あの時夢みたいなのを見てた・・
母親がいて、そして父親も一緒だった。
辛いのなら頑張らなくていいって言われて俺は・・・
でも、誰かが俺の名前呼んでて、逝くなって呼んでて・・・」

そこで拓海は一息吐くと瀬田に向かった。
「拓海逝くなって・・だから俺は帰って来れた」
「そうか、俺の声が聞こえたか」
瀬田が嬉しそうに拓海の手を撫で回している。

それは大人が子供にするような愛撫だった。
とても心地良いが、違う意味寂しくもあった。
『俺はどうしたいんだ?どうされたいんだ?』
心の中の葛藤がとんでもない言葉となって口から飛び出した。

「キスして下さい・・」
一瞬驚いた顔をした瀬田が
「おやすみのキスか、それとも?」
「・・・おやすみのキスです」
土壇場で自分の心を踏み止まらせた。

揶揄するような目で瀬田の顔が近づいて来た。
拓海はどぎまぎしながら、ぎゅっと目を瞑る。

「チュッ」小さなキスは直ぐに唇から離れ、
目を開けようとした途端にもう一度それは下りてきた。
「あ・・っ」
優しいけど、深く拓海の唇を弄るように長いキスをされた。

その長いキスは拓海の踏み留めた決心を開放させてしまった。
「社長・・・俺は社長が好きです」
「拓海・・」
「でも今限り俺の思いは忘れて下さい」
「どうして忘れなくてはならない?」
瀬田の目も真剣だった。

「俺は・・資格が無いからです」
「人を好きになるのに資格が必要か?」
「必要な場合もあります。」
「何故資格が無いと決め付ける?」

「・・今はまだ・・退院したら話します」
「判った・・・」
瀬田は包んだ拓海の手を布団の中に入れて
「さあ、もう眠れ、そして早く退院しろ」
「はい・・」

瀬田は簡易ベッドで眠るようだ。
ベッドの支度をしてから、備え付けのシャワールームに消えて行った。
瀬田は頭からシャワーの湯を浴びながら、どうして拓海が
瀬田の気持ちを聞いて来ないのか判っているのに
自分からその事を言い出せない事を腹立たしくも思っていた。

拓海を雁字搦めにしてからで無いと言えない事だった。
今言えば拓海はきっと逃げ出すかもしれない。
それが怖かった。

だけど『好きです』と言った時の拓海を思い出すとニヤケテしまう自分も居た。
早く拓海を自分のものにしたいと体が訴えている。
そんな自分に苦笑しながらも、その時を待とうと思う。

『早く退院してくれ』心の叫びは冷たいシャワーで蓋をした。

そして翌日から瀬田はスケジュールを目一杯調整した。
拓海の退院とその後の自宅療養に付き合えるように、時間を作らなければならなかった。
病院は最悪自分は居なくても、医師も看護士も居る。
だが退院してからは、自分が面倒をみるしかなかった。
いや、自分が拓海を甘やかし面倒を見たかったのだ。

瀬田が顔を出せない時は秘書の狭山が着替えなど持って来てくれる。
狭山は瀬田のスケジュールが詰まっているから来れないと
拓海に説明したが、拓海は自分が避けられているようで辛かった。

拓海が入院している間に2度ほど刑事も顔を出し、
佐久間の取調べの捜査状況を説明して行く。
拓海はあの日の佐久間の姿を思い出すと、何とも言えない気持ちになってしまう。

あの時の佐久間の姿がそれまでの苦境を全て物語っていた。
刺された恨みよりもそっちの方が気がかりだったが
どちらにしろ禁固刑に処されるだろう。
だが今の佐久間にはその方が最低限の生活が保障される。

拓海は瀬田に会いたい思いを胸に秘めながら、
「出血が多かったですが、傷は思った以上に酷くはありませんでした
明後日には退院しても大丈夫でしょう」
そう言って退院後の生活の仕方を説明した。

「退院しても職場復帰はまだ無理ですから、自宅で静養して下さい」
そう言われ、新入社員の自分がどんどん取り残されて行く不安も感じてしまう。
「焦っては駄目ですよ、今はきちんと治す事に専念して下さいね」
と念を押された。

「明後日退院・・・」





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COMMENT - 19

-  2010, 10. 18 [Mon] 00:26

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kikyou  2010, 10. 18 [Mon] 00:39

鍵コメ Yさま

退院までお待ち下さい(笑)
今はまだじっと我慢の二人です^^

プロフ画像・・見てた?って言う程感じ出てます^^;
うちも「もやし」から今日抜け出せました(笑)

コメントありがとうございました!

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お嬢  2010, 10. 18 [Mon] 01:43

そういや・・・

そうですね。P好きでしたんですね。出過ぎで裏大奥が出来るくらい。
あはは。でも出ない台だとああなるんでしょうか。プロフ画像で
そんな事思ってしまいました。
いや食い付くのはそこって思いましたが。一言残していく事に。
ああ。良い感じになってくるけど。自宅療養中に進歩ありになるのか。
先が楽しみでございます。ではでは。

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jun  2010, 10. 18 [Mon] 05:57

お早うございます。
拓海、少しだけ自分の気持打ち明けましたね。
でも、自分には、資格がないなんて。
やはり純情すぎるんですね。
あれがこだわりになってるんですね。
あれが瀬戸社長だったと知ったら拓海はどうするんでしょうか。
瀬戸はそれを見抜いてる。
瀬戸もだから打ち明けられない。
難しいですね。
退院後の生活、どうなるんでしょうかネ。
瀬戸、本当に介護できるのかナ?

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-  2010, 10. 18 [Mon] 06:19

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-  2010, 10. 18 [Mon] 07:02

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-  2010, 10. 18 [Mon] 09:58

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此花咲耶  2010, 10. 18 [Mon] 11:10

kikyouさま

早く、拓海の胸の重石をとってあげて欲しいですけど、苦労してきて余裕のない精神にはきっと大切なものを「失くす」ことへの恐怖が大きすぎるのかもしれません。失ってばかりの拓海が、与えられて戸惑いながらも本心を吐露できる日が一日も早く来ますように。
驚愕のあまり、脱兎になりそうな気がします。
逃げ出さないように部屋に鍵掛けて、うんと優しくしてあげてください。幸せになって欲しいです。

Edit | Reply | 

梨沙  2010, 10. 18 [Mon] 20:58

あら~

こんばんわ
所用で家にいなかった為にまとめて読みました。
拓海ちゃん 自分の気持ちに気づいた様ですね(*^.^*)良い事なのに
昔のことが傷になってますね…(ーー;) 
瀬田さんは分かっているのに タイミングはかってるし…
・・・( ̄  ̄;) うーんじれったいですね。でも 瀬田さん逃げられないように用意周到に手を回してから暴露するんでしょうねε- ( ̄、 ̄A) フゥー 拓海ちゃんの眠れぬ夜は暫く続きそう!?

Edit | Reply | 

tukiyo  2010, 10. 18 [Mon] 22:52

え~~

kikyouさんってこんな感じ~?
私の中の気高くも美しい燐としたkikyouさまのお姿が~
ガラガラガラ~~~wって嘘ですー。

ジレジレジレッターーーイ。
でもこのジレジレ感が好きー。
退院した後の社長の看護ぶりが楽しみですぅ^m^

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紫猫  2010, 10. 18 [Mon] 23:18

こんばんは。

ホントにじれったいですね~
社長も知っているから早くしたいのに、ちゃんと拓海君に合わせて「その時を待とう」ってかっこいいです!
どこまでも拓海君には優しいですねw
私はそんな社長が好きですよw

そして、昔の事をどのように拓海君は話すのでしょうか…
気になります!!

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:16

お嬢さま

こんばんは、相変わらずの亀レスで申し訳ございません^^;

> そうですね。P好きでしたんですね。出過ぎで裏大奥が出来るくらい。

> あはは。でも出ない台だとああなるんでしょうか。プロフ画像で
> そんな事思ってしまいました。

あはっ!しっかり読まれてしまってましたか・・・
次の話もその辺からヒントが・・・



> いや食い付くのはそこって思いましたが。一言残していく事に。

恥ずかしながら、好きですP・・

> ああ。良い感じになってくるけど。自宅療養中に進歩ありになるのか。
> 先が楽しみでございます。ではでは。

早くBLにしたいです!
書いてる本人が一番驚いている展開で・・
もう50話も近いというのに・・

コメントありがとうございました!

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:20

junさま

> お早うございます。

おはようございます。

> 拓海、少しだけ自分の気持打ち明けましたね。
> でも、自分には、資格がないなんて。
> やはり純情すぎるんですね。

真面目な分自分を追い詰めてしまいそうですネ。
でもそんな拓海だから瀬田も愛しく思っているんですが^^


> あれがこだわりになってるんですね。
> あれが瀬戸社長だったと知ったら拓海はどうするんでしょうか。

すんなりとは受け入れられないでしょうね拓海。

> 瀬戸はそれを見抜いてる。
> 瀬戸もだから打ち明けられない。
> 難しいですね。

お互いを思う気持ちが今はネックになっていますが
それが取り除かれたら、違う意味大変かもしれません(笑)


> 退院後の生活、どうなるんでしょうかネ。
> 瀬田、本当に介護できるのかナ?
> 、
瀬田も一生懸命に面倒みるはずですよ。
それこそ見なくていい所まで^^

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:22

鍵コメ Cさま


おお!朝からありがとうございます。

そろそろ私も本腰を入れてBL路線に戻して行かねば・・
早く拓海を幸せにしてあげましょうネ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:36

鍵コメ NKさま

病院で17歳の拓海を初めて見た時から、それは始まったのですよね。
やっと形が見えてきたような気がします。
どうやって拓海の負担を軽くしていくか・・・
これが今後の私の課題です^^

コメントありがとうございました。
(私も小さな呟きでした・笑)

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:51

此花さま

こんばんは。

> 早く、拓海の胸の重石をとってあげて欲しいですけど、苦労してきて余裕のない精神にはきっと大切なものを「失くす」ことへの恐怖が大きすぎるのかもしれません。失ってばかりの拓海が、与えられて戸惑いながらも本心を吐露できる日が一日も早く来ますように。

大切なものを失くす恐怖・・・そうですよね。
手にしなければ知らなかった温もりを知ってしまったら、
その手を離したくは無いですよね、本心は。

離したく無い、離さなくてはならない・・・
その狭間で揺れ動く拓海です。


> 驚愕のあまり、脱兎になりそうな気がします。
> 逃げ出さないように部屋に鍵掛けて、うんと優しくしてあげてください。幸せになって欲しいです。

私もこんなに幸せまで時間が掛かるとは思ってなかったです(笑)
さてどんな手で拓海を落としましょうかね?
まだ思案中ですが、私の場合は考えて出てくるわけでもないので・・
この指しか知りませんって感じです。

コメントありがとうございました。


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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 00:59

梨沙 さま

> こんばんわ

こんばんはー(亀レスです^^;)

> 所用で家にいなかった為にまとめて読みました。

い・家出じゃないですよね?(笑)

> 拓海ちゃん 自分の気持ちに気づいた様ですね(*^.^*)良い事なのに
> 昔のことが傷になってますね…(ーー;) 

どうしてこんなに拓海が拘るのか?って思ってしまう部分も私の中にあるんですが
拓海の人となりを書いてきたら、こんな子になっていました^


> 瀬田さんは分かっているのに タイミングはかってるし…
> ・・・( ̄  ̄;) うーんじれったいですね。でも 瀬田さん逃げられないように用意周到に手を回してから暴露するんでしょうねε- ( ̄、 ̄A) フゥー 拓海ちゃんの眠れぬ夜は暫く続きそう!?

瀬田も慎重ですねぇ。
失くしたくないから、石橋を叩いて渡るが如く慎重です。
早く何とかしてやりたいんですが・・・

はぁ・・早くBL書きたい!(kikyou心の叫びでした!)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 01:42

tukiyo さま

> kikyouさんってこんな感じ~?
> 私の中の気高くも美しい燐としたkikyouさまのお姿が~
> ガラガラガラ~~~wって嘘ですー。

あはは・・・これはpioさん所のオリキャラの龍くんです。
中身は似たようなものかもしれません^^;
喋らなければ・・・と若い頃言われた事も数多く・・(笑)


>
> ジレジレジレッターーーイ。
> でもこのジレジレ感が好きー。
> 退院した後の社長の看護ぶりが楽しみですぅ^m^

書いている私が一番ジレッタイ!
50話も書いて、まだ進歩ないですねぇ
自分でもどうしてだか判りません。
ってもう本当に50話です!

箱庭を飛び出して・・・時間が経つのって早いですね。


いつもコメントありがとうございます♪

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kikyou  2010, 10. 19 [Tue] 01:45

紫猫さま

> こんばんは。

こんばんはー。
>
> ホントにじれったいですね~
> 社長も知っているから早くしたいのに、ちゃんと拓海君に合わせて「その時を待とう」ってかっこいいです!
> どこまでも拓海君には優しいですねw
> 私はそんな社長が好きですよw

ありがとうございます。
本当に何故こんなに話が進まないのか自分でも判らないです^^;
もう50話ですよ!(ってひと事のようですが・・)

>
> そして、昔の事をどのように拓海君は話すのでしょうか…
> 気になります!!

そうなんですよね・・・・
どうやって切り出すか・・
どっちから切り出すか。とっても問題なんです^^;

コメントありがとうございました(テヘヘ・・遅くなりましたが)

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