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この世の果てで 6

 07, 2010 00:00
本当に書類が届いた・・・
採用通知は直接もらったものの、やはりあの状況は普通では信じられるものでは無かった。
数日後に届いた書類を見てやっと本当の事だったと思った。

でもどうして?
バイトと大学とアパート・・・この3つしか最近行っていない。
遊ぶ余裕など無かった。
寝る前の短い時間に集中して勉強をする。

高校の時から習慣になっている。
だから成績だけは良かった。
それ以外何の特技も、裕福な暮らしをさせてくれる親も居なかった。

母子家庭で育った拓海は、20歳の夏に入退院を繰り返していた母を亡くした。
最後まで拓海に詫びながら母は逝った。
「生んでくれてありがとう」
拓海の言葉にやっと微笑みを見せてくれた母だった。

母の入院費を稼ぐ為に一度だけ体を売った。
後悔するとかしないとかの問題では無かった。
そうせざるを得なかったのだ。

拓海は机の上に置いた革の財布を手に取った。
この財布が自分の人生を変えた・・・
この財布のお陰で、体を売ることを繰り返さなくて済んだ。

感謝してるのだろうか?
僕がこの財布の持ち主を探しているのは礼を述べる為ではない。
逢えてどうするのか?と聞かれても答えられない。

ただ言えるのは、探そうとする気持ちが僕を生かしてくれた。
それだけだった・・・

あの日以来この財布をずっと使い続けている。
持っていると気持ちが何故だか落ち着くのだった。
金もいつでも返せるように必死で貯めてあった。

あの会社に入社できれば、何時かは会えるような気がしていた。




「本当に彼を採用するつもりですか?」
「悪いか?俺の勘は外れた事などないぞ」
「どんな勘だか・・・・」
つい狭山が愚痴のような言葉を溜息混じりに吐いた。

だがあの日以来、瀬田の機嫌がすこぶる良いのだけは助かった。
瀬田がこんなに機嫌良く仕事をこなしてくれるのならば
それだけでもあの286番を入社させる意義がありそうなものだ・・・

心の中で狭山がほくそ笑んだ。
「狭山・・機嫌良いな?」
何も知らずに、自分を揶揄する瀬田に苦笑してしまう。


「入社したら勿論秘書課ですか?」
「そうだ、俺が預かる」
「社長がですか?」流石に驚いた声を狭山は上げた。

まさかそこまでとは考えもしなかった。
だが瀬田が預かって一体何を教えようというのだろうか?

「結局自分の傍に置いておきたいって事ですか?」

瀬田は狭山の問い掛けには答える事なく、ただ外の景色を眺めていた。







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