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立夏とふたりの野獣 4

 13, 2011 00:00
 翌日の土曜日、大学も休みなので立夏は早めにバイトに向かった。
「立夏早かったな、今日はちょっと忙しくなりそうだけど、遅くなったら冬香さんが心配する?」
「いえ、大丈夫です」立夏は、その後に姉は泊まりだという言葉を続けられなかった。
 慶吾は、姉冬香の職場を立夏から聞き、一度だけ近くで冬香を見た事があった。慶吾は、見ただけで大まかなサイズが分かると言う。あとは仮縫いの時に微調整をするだけで良いと言うのだ。

 今回は、サプライズなので、形になるまでは冬香に知られる訳にはいかないのだ。立夏とよく似ているからイメージは掴みやすいと、慶吾は言っていた。流石にプロだ。

「今日店にドレスを一着届けてもらいたいんだけど」
「店にですか、分かりました」
 立夏は一度だけ、慶吾に店に連れて行かれた事があった。分かりにくい場所でも無いので、立夏一人でも充分に事は足りる。普段は、車で店の従業員が取りに来るのだが、今日はその暇が無かったそうだ。

「十二時までに届けて欲しいんだけど?」
 立夏が時計を見ると、まだ十時を過ぎたばかりだ。慶吾の店までは余裕で間に合う。四十分もあれば着いてしまう。
「はい分かりました」
 立夏が持たされたのは、出来たばかりのドレスが入った大きな箱だ。
「落すんじゃないよ」
 揶揄するように、慶吾に言われ立夏は口を尖らせた。
「子供じゃないんだし、それにこんなに大きな荷物を落すわけがないですよ」
「ふふふ、まあ気を付けて行って来て。店には電話を入れておくから」
「はい、では行って来ます」

 多少神経質で真面目な立夏は、時間に余裕を持って慶吾のマンションを出た。時給で働いている以上は、時間を無駄にする訳にもいかない。
「あ、立夏。帰りに若葉亭の和弁当を買って来てくれないか?立夏の分も買っていいから。お金持っている?じゃあ立て替えておいてくれるか?。領収書を貰っておいて」
「はーい、じゃあ行って来ます」
 
 外に出ると、朝は晴れていたのに、少しだけどんよりとした雲が広がっていた。気になったが、立夏はもう一度戻るのも面倒に思い、そのまま駅に向かった。


 渋谷の駅に着くと、そこからは十五分程徒歩だ。電車に乗っている間に、雲行きが更に怪しくなって来ていた。何とか店までは持つだろうと、立夏は大きな箱を抱えて足を速めた。

 土曜日ともなると、渋谷の街には若者が溢れている。遊んでいる同年代の子を見ても、立夏は羨ましいとは思わない。逆に今の自分の生活の方が充実している。大学で勉強をして、バイトをして小金も稼ぎ、姉の喜ぶ顔も近いうちに見られるのだ。

 そんな事を考えながら歩いていた立夏の口元は緩んでいた。
「おい、何笑っているんだよ」
 突然の声に、立夏はそれが自分へ向けられたものだとは気付かなかった。
「おい、何シカトしてるんだよ」
 今度は声と一緒に、立夏の前に二人の少年が立ち塞がった。
「え……っ僕?」
「そう、あんた」
 自分よりも年下にしか見えない少年に、あんた呼ばわりされて立夏も眉を顰めたが、ここで揉め事を起す訳にもいかないので、とりあえず足を止めた。

「えっと……君たちを笑ったんじゃないんだ、ちょっと思い出し笑いをしていて……気分を害したのなら謝るよ」
「思い出し笑いだって!厭らしいねお兄さん」
 下手に出た立夏に少年達は態度を増長させているようだ。こんな相手に構っている暇はない。
「僕、急ぐから」
 立夏が、少年の体をかわし歩き始めた時に、一人の少年に肩を掴まれた。顔だけ見ると少年だが、その態度はいっぱしのチンピラのようだった。

「離してくれない?君たちの相手をしている時間は僕には無いから……」
 喧嘩慣れしているような、二人の少年を前にして、立夏は怖くない訳では無かったが、本当に時間が惜しいと思っていた。




 慶吾の部屋では、苛々した様子で慶吾が受話器を置いていた。
「いったい何やっているのだろう立夏は……」
 もうとっくに店に着き、慶吾の元に戻って来てもいい時間なのに、店にも着いていないらしい。慶吾は駅に電話を掛け、電車の遅れは無いか確認をしてみたが、平常運転で何のトラブルも無いとの返事だった。

 慶吾は三十分おきくらいに店に電話を入れたが、まだ立夏は姿を見せていないと言う返事に、心配は募るばかりだった。
(あのバカ何やっているのだ……)
 腕時計を見ると、もう夕方の五時を過ぎてしまった。慶吾は我慢出来ずに、車の鍵をポケットに捩じ込み部屋を出た。入れ違いになったら困ると思い、部屋の鍵は開けたままの状態で、マンションのエントランスまで下りた。


「雨か……傘も持っていないはずなのに」ひとり呟いて道路に出てみた。結構な降りようにズボンのポケットから車の鍵を取り出した。
 ふと、先を見ると立夏らしい人影がゆっくりと、マンションに向かって歩いて来る。手には出た時と同じ大きな荷物を抱えていた。

「立夏!」待ちきれないで、慶吾は雨の中人影に走り寄った。
「せ、先生。ごめんなさい」
 濡れねずみになった立夏が、出かけた時とは違うボロボロの服装と、腫らした顔で立ち止まった。

「立夏!いったい何が?」
「先生、ごめんなさい」
 立夏は、箱を胸に抱え直してただ詫びの言葉を繰り返すばかりだった。

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◇すみません、連載中の話はもう少し待っていて下さいネ^^;
今はこの立夏のストックだけなのです。落ち着いたら再開致します!◇
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-  2011, 10. 18 [Tue] 01:26

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