2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

この世の果てで 38

 07, 2010 00:00
拓海が目を覚ましたのは広いベッドの上だった。
「あれ・・・俺?」
ゆっくり頭を整理しても自分の記憶は瀬田の運転する車までだった。
そんな自分がどうしてベッドの上で寝てる?

「あっ!」勢いよく体を起こした事で少し眩暈がして又背中をベッドに沈めた。
「起きたのか?」
閉じた目で聞こえる瀬田の低音が鼓膜を擽った。
「・・・俺どうして此処で寝てるんですか?」
「車の中で気持良さそうに寝てたからな」
「じゃ社長がおぶって此処まで?すみません・・」
申し訳なくて瀬田に謝罪すると、瀬田は少し口角を上げながら

「イヤおぶってなんかいないぞ、お姫様抱っこだ」
「ええーっ!お・おひめ・・・って」
「そんな事よりも、もう少し太れ」
「そんな事じゃない・・・」

自分が抱き抱えられているのを想像すると顔から火が出そうだった。
「別に恥ずかしがる事じゃないだろう?」
「・・恥ずかしいですから」
「ふ・・ん?それより晩飯何がいい?」
「あ、俺作ります」
「いい、お前はもう少し休んでろ」

ぶっきら棒な瀬田の言葉に温もりを感じて拓海は胸が熱くなった。
こんなに甘やかされて使用人としては最悪だな・・
そう思う一方、佐久間が今までどんな生活を送って来たのだろうか?
などと、さっきまでの仕打ちを忘れて考えてしまった。

自分は・・・大学に通い、就職も決まった。
そして今は恵まれ過ぎた環境でバイトもやっている。
佐久間は今どうしているのだろうか?
仕事に就いているのだろうか?
500万の借金は本当だろうか?
次から次へと疑問が頭を過ぎってくる。

「拓海、今のお前の環境はお前が努力して得たものだ、
誰に遠慮する事も無い、余計な事は考えるな。」
ぼっと考えていた拓海の顔の直ぐ近くで瀬田がそう言った。
「・・・はい」
少しだけ笑みを浮かべ返事をした拓海の頭を撫でながら
「そう、それで良い」と瀬田が言うのに
「まるで親父みたいですね・・・」
まだ33歳の瀬田に今の言葉は失礼だったかな?と思った瞬間に
瀬田の唇がすっと寄ってきて、拓海の唇を掠めた。

「え・・・?」
一瞬の出来事に拓海がフリーズしていると
「親父はキスなぞしない」
瀬田はそう言い残すと、大股で寝室から出て行った。

『え・・?今俺キスされた?』
まだ状況が掴めないような拓海は、そっと唇に指で触れてみた。
「あ・・」唇の端がさっき叩かれた事で少し切れていた。
「ああぁ」その傷を指で撫で頷きながら、ひとり納得していた拓海だった。

「なんだ・・お袋みたいじゃん」
瀬田の行動は幼い頃傷を作ると、舐めてくれていた母親を思い出させた。


ガッシャーン!その時キッチンで大きな音がして拓海は慌ててベッドから下りた。
「社長、大丈夫ですか?」
「おお、悪い悪い」
そう笑う瀬田の手には鍋の蓋、足元にはその本体の鍋が転がっていた。
「社長、やっぱり俺やります、もう体大丈夫ですから」
瀬田の手から鍋の蓋を取り上げ、落ちた鍋を拾い上げた。

「そうか?いや~なかなか難しいもんだなぁ」
料理などした事など無いだろう瀬田は
予想以上に重かった圧力鍋を忌々しそうに見ながら吐いた。
そんな瀬田に笑みを浮かべた。

「料理は任せた、その代わり風呂掃除は俺がやろう」
まだ何かするつもりの瀬田に向かって
「いいですよ、俺の仕事だし・・社長はじっとしてて下さい」
「いや、風呂掃除ぐらいは俺だって出来るさ、
それに今夜はお前の背中も流してやろう」

「い・いいですよ・・」
「遠慮するな、何なら前も俺が綺麗にしてやる」
瀬田の言葉に拓海の心臓がコトッと跳ねた。
「お断りします!」
拓海はわざとらしく大袈裟にギブするように手を上げた。

「拓海・・」
上げた手も下げぬうちに瀬田が拓海の体を抱き締めてきた。
「しゃ・・?」
「・・良かった・・無事で、あまり心配させるな」

突然の瀬田の行動に驚きながらも、
拓海は瀬田が本当に心配してくれたのが判って何だか嬉しかった。
それなのに拓海は
「社長・・その抱きつく癖止めた方がいいですよ、
女性だったら誤解しますから・・」照れ隠しのような言葉を吐いた。

「ん?女性だったら誤解するのか?」
抱き締めた手を緩めずに瀬田は聞いてきた。
「は・はい・・多分・・」
「お前は誤解しないのか?」
「俺は慣れましたから・・・」
朝晩ハグされ、何かあると又抱き締められる・・慣れてもおかしくは無かった。

「そうか・・慣れたか」
そう言いながら、瀬田は抱き締める腕を解いたが内心
『慣れたのか・・』とがっかりもし、
少し作戦を練り直す必要を感じてしまっていた。





ご覧頂きありがとうございます。

ランキングに参加しています。
ぽちっとして下されば嬉しいです。

1話から拍手して下さった方がいらっしゃいました・・ありがとうございます。
毎日たくさんの拍手やポチ頂いて、本当に嬉しいです。
ありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村


関連記事

COMMENT - 0

WHAT'S NEW?