瀬田が佐久間に近寄り、がつっと胸倉を掴まえた。
「お前は、家宅侵入罪と拉致監禁罪だな」
そんな瀬田に佐久間は鼻でふんと笑うように
「家宅侵入？証拠は？、それに拉致などしてないし」
「何だと？」瀬田の怒気にも怯える事なく
「こいつが具合悪そうにしてたから、面倒みてやっただけだ」
自分で何か薬を飲ませたくせに、しゃあしゃあとそう言った。
「いい年して甘えてるんじゃないぞ、何時まで被害者ヅラしてるんだ？」
「被害者だから被害者だよ」
瀬田の説教も何処吹く風だった。
「お前たちは、拓海の父親の生命保険までせしめてるんだろう？」
「え・・っ？」
その件は佐久間も初耳だったらしく、素に戻った声を上げた。
「何だお前知らなかったのか？」
瀬田の問いかけに呆然としたまま返事もせずに突っ立っている。
そして拓海もその事実を知らなかった一人だった。
「生命保険って？」
「お前の母親は、父親が亡くなった時に下りた保険金を全額
こいつの家族に渡したんだ」
拓海に向き直り、静かに瀬田は話した。
それは拓海にしても少なからずショックな事だった。
爪に火をともし砂を噛むような生活をしてきた。
だが今さら済んでしまった事にごたくを並べても仕方ないと思い口を噤んだ。
そして自分は苦労しても父の償いをした母を誇らしく思った。
「お前は拓海と母親がどんな生活をしてきたか判ってるのか？」
瀬田の攻めはまだ続いていた。
「金も無く、世間の冷たい視線に堪えながら・・ああっ？」
その言葉に佐久間は、ブランド物を買いあさり、
酒を飲み男遊びを続けた母親を思った。
人に誇れる母親では無かった・・・
「何時までも被害者の息子が通用すると思うな」
最後の言葉に佐久間が項垂れたが、それでも
「お前の母親が余計な金を寄越すから、だから・・
だからお袋は贅沢を覚えて・・チクショー！やっぱりお前っ！」
佐久間がそこまで怒鳴った時に瀬田のビンタが飛んだ。
「まだ言うか？そこから先はお前たちの責任だろう？」
瀬田に打たれた頬を手で押さえながら、佐久間は俯いて
「チクショー・・チクショー」と何時までも小さく呟いていた。
「拓海帰るぞ」
「・・・はい」
拓海は色々な事がありすぎて、自分が今どうしたら良いのか判らなかった。
５００万の借金があると言った佐久間も気になる。
そんな拓海の気持ちを読んだような瀬田が
「これ以上はお前が気にする事じゃない、
誰だって何があったって生きて行くしかないんだ」
それは暗にこれ以上佐久間に関わるなという事だった。
「こいつらどうします？」
今まで黙って見守っていた狭山の声に
「ああ、二度と拓海にちょっかい出せないように、よーく言い含めておけよ」
そして瀬田は拓海を助手席に乗せ自分でハンドルを握って車を発進させた。
ずっと黙っていた拓海が言いづらそうに瀬田に聞いた
「あの・・社長ってヤクザじゃないですよね？」と。
「はあ？何で俺が？」瀬田にしてみれば、
拓海の言葉は信じられないのだろうが
拓海はあの凄みを一般人が出せるのだろうか？と思っていた。
「俺は別にヤクザじゃないさ、だがなぁ拓海・・」
「はい？」
「誰だって大事な人を守る時には鬼にも蛇にもなれるもんだ」
「はぁ・・」
ヤクザじゃないという言葉に安心した拓海は
瀬田の告白ともとれる言葉を重要視していなかった。
「新山君に電話入れとけ、心配してたぞ」
瀬田の言葉にどうして新山を知ってるのか？と聞きたかったが
拓海から見たら瀬田はスーパーマンのような存在だった。
聞く必要は無いだろうと思い、黙ってズボンのポケットから
携帯を取り出し、開いた。
「あ・・っ」そういえば、瀬田からのメールを受信して
読む前に箱崎（佐久間）に声を掛けられ見ずに閉じたのだった。
そして車の中でそのメールを開くと、そこにはさっきまで居た
佐久間の画像が貼付してあった。
拓海はそれを黙って削除した。
新山に電話を掛け心配かけ済まないと言うと電話先の新山に
「良かった」と何度も言われ
初めて自分が本当に危ない所だった事を改めて感じた。
「社長・・助けに来てくれて・・ありがとうございました」
まだ礼を述べてない事に気付き、改めて言葉にした。
「ああ、気にするな」
そのいつもの言葉に安心した拓海は黙って目を瞑り
車の心地良い揺れに身を任せていた。
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