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僕の背に口付けを 序章「-雅-」4

 10, 2011 08:13
「雅…俺に刺青を彫って……」
「!」
「俺に竜の絵を……」

そこまで言った時に、雅に突然胸倉を掴まれた。
「ふざけんじゃねぇよ!」
雅が本気で凄く怒っているのが判るが、優希も引くつもりは無かった。
雅は、優希の真剣な目を見て、掴んだ手を乱暴に離した。
「真面目な銀行員が刺青?馬鹿な事言っているんじゃねぇ」

「銀行は半年前に辞めたよ、今は不動産会社の契約社員だ」
優希は雅が独立を決めた翌日に退職願いを提出し、そしてひと月後に退職した。
その後、銀行員時代に取得した「宅地建物取引業主任者」の資格を生かして不動産会社に再就職した。
これは全て優希の計画通り高度成長期の波に乗り、不動産関連の会社は人手不足の上、契約に立ち会える主任者が不足していた。
名義貸しは違法だ……だから名義と共に契約時に立ち会うなどの約束の上、優希は月十五万円の報酬に加え、分譲物件の成立の際の歩合で不動産会社と契約した。
表向きは正社員だが、優希は自由な時間が必要だったから実質契約社員という形をとった。

バブルの今、分譲も土地も凄い勢いで売れるから、優希の歩合もかなりの金額になる。
賞与は無いが、銀行員時代よりも年収は上がるだろう……


「銀行を辞めた?お前はいったい何を考えている?」
「俺はちゃんと考えているよ、俺の今までの全ての行動は、今日のこの日の為だったんだ」
優希は雅が彫師になると決めた時から、自分の人生設計を組み替えた。

「駄目だ!」
「雅っ!」

そして同じやり取りがひと月も続いた。
「ああぁぁ…雅……」
後ろから雅に貫かれている。久しぶりの交わりだった。
あの日以来雅は優希を抱こうとしなかった。

「あぁ――――っ、まさっ」熱い昂ぶりが何度も抜き差しされる。
直ぐにでも射精しそうだったが、今夜の優希の性器はしっかりと紐で縛られていた。
それなのに雅は中の良い所を集中的に突いてくる。

「やだぁ………雅っ…もうイカせて――」
それでも自分の腰が貪欲に動き、もっと雅を感じようとしている。
「ああぁぁぁぁ…ああぁぁあ………」
雅の手が優希の腰に固く回され優希の腰を引きながら、そして自分の腰を激しく打ち付けた。

優希の、目の奥で火花が弾ける。
「あああ―――イクッ!まさぁ――イク―――」
どっくん、どっくんと内壁が蠢いている。痙攣しながら雅の芯をギュウギュウ締め付けて、雅の芯の硬さを再認識してしまう。
「まさぁ…ああぁぁぁ……」
一度後ろだけで達したら後は、ほんの少しの刺激……背中を撫で回す雅の手の平にも感じてしまう。

「……痛いぞ」ぽつんと雅が呟いた。
「…………」
「半年近くはかかるぞ」
「…………」
「この綺麗な肌が隠れてしまうぞ」
「………いい雅が覚えていてくれるのならいい」

初めて雅に抱かれた時に肌が綺麗だと囁かれたのがついこの前のような気がする。
「彫り終わるまで、抱かないぞ……」
「………うん」優希はそう言われるような気がしていた。

そこまで言うと雅は背中のいたる所を舐めるようにキスし、そして優希を堰き止めている紐をそっと解いた。
大きく腰を抜かれ、求めるように腰が動いてしまう。
その途端激しく突き上げられ、優希は悲鳴のような声を上げ、触れてもいない性器から白濁を放ちながら、何度目か判らない程の絶頂を迎えた。

――――優希二十八歳、熱くて長い夜だった。


それから三日後に優希は雅の初めての客になった。
布団の上で腹ばいになる優希の背中に針が刺さる。
「うっ」覚悟はしていたものの、やはり呻き声が漏れてしまう。
「止めるなら今だぞ」揶揄するような雅の声に、優希は大きく被りを振った。

普通は褌を締めるそうだが、何故か優希の場合は全裸だった。
その事を言うと「今更」それだけが返って来た。
たったそれだけの事なのに、自分は特別だという気がして優希は嬉しくなる。

呻き声が漏れないように、タオルを咥える事も覚えた。
腫れ具合や体調を見ながらゆっくりと進められて行く。
だが二週間程経つ頃に自分が全裸だった事を後悔した。
二週間以上の禁欲生活だ、シーツに押し付けられ擦られるペニスが反応しだした。
背中に圧が掛かるたびに刺激も強くなる。

そんな優希の状況を知っているのか知らないのか雅は、足を広げさせその間に体を置いて彫って行く。そして関係ないのに、時々尻の肉を撫でるように掴んだりする。
「雅っ……」
「どうした?」と雅が惚けた声を出す。
「何でも無い……」声が上擦っているのが自分でも判った。
「今日は此処までだ」背中に滲んだ血を拭きながら雅が声を掛けた。
「えっ?」今日は時間の経つのが早かった気がする。
下半身の事情に気をとられていたせいか、普段よりも痛みを感じなかった。

だが直ぐに起き上がれない事情の優希に向かって雅が声を掛けた。
「何時まで寝ているつもりだ?」
―――絶対に気づいている。
「もう少し休んでいる……」優希はそう答えるしか無かった。

だが優希は、腹の下で熱を持っているペニスを持て余してしまう。
「辛いか?」雅の突然の言葉に驚いて顔を見上げた。
「いや…もう痛みにも慣れた……というか麻痺してきた?」
そう答えると、雅は「そうか」と言いながら何故か優希の尻をまた撫でている。

「あ……っ」今はそれだけの刺激でも止めて欲しかった。
尻を撫で回されるだけで、腹の下の芯が固さを増してしまう。
「雅…やめっ……あっ」雅の手が太腿の内側に下りて来て、優希は我慢できずに甘い声を漏らしてしまった。
「優希……辛いなら出せ」

雅がさっき辛いか?と聞いてきたのは……こっちの事か?
それに気づいた途端、顔が熱くなり耳まで赤くなってしまうのが自分でも判った。
「……いい、全て終わるまで我慢する………」優希の言葉に雅がふっと小さく笑った。

そして四ヶ月後「終わりだ」と言う雅の言葉を背中で聞いた。
優希は雅の「全部彫り終わるまで見るな」と言う約束を守っていた。
そして終わりの言葉から更に一週間待たされた。
瘡蓋や腫れがあるから、まだ駄目だという事だった。
その間も保湿クリームや痒み止めなどのケアで毎日雅の家に通った。

その日の夕方優希が訪ねて行くと、三枚の大きな姿見が用意してあった。
(いよいよだ……)優希は、体が奮える思いだった。

「脱いで」雅の言葉に操られるように優希は、衣服を脱いで行く。
最後の下着で躊躇っていると「全部だ」と雅は無表情で言い放った。
今更だが、こういう状態で全裸になるのも恥ずかしい気がした。

ライトが姿見を照らし、雅は優希をその前に連れて行く。
「えっ?」
優希は自分の目を疑った……竜じゃない!
驚いて雅の顔を見ると「お前に竜は似合わない」と一言だけ言われた。
優希の背中に描かれたのは装飾を一切施さない抜き彫りの観音菩薩像だった。

彫っている最中に「肩とか腕は?」と聞いた事があった。
「お前はヤクザ者じゃないんだから、そこまで入れる必要は無い」と素っ気無く言われていた。
そして、その背に彫られた観音菩薩は、凛とした佇まいで全てを見透かすような雰囲気の、芸術と呼ぶ方が相応しいものだった。

「雅?どうして?」
「目には見えないが、俺の背中には竜が居ると思ってくれ」
「雅の背中は竜……?」
「そうだ、お前が一番好きな竜は俺の背中にある……そんな俺をお前に見守っていて欲しい……」

優希はその言葉を聞いて、もう一度ゆっくりと自分の背中が映る鏡を見た。
すると、ある一点に目が行った………近づいてもう一度確認するようによく見た。
「雅……これは?」
「何か文句があるか?」そう言った雅は普段あまり見せない、照れたような少し拗ねたような……出逢った頃の雅の顔だった。

『彫雅命』
それを指でなぞってみた……優希は、もう零れる涙を止める事は出来なかった。
「雅……」
「来い」
その言葉に導かれ優希は雅の胸に倒れこんだ。

四ヶ月半振りに雅に抱かれた。お互いに貪る様に抱き合った。
「あああぁ……雅」
突き上げられる度に嬌声が漏れる。
優希は雅と出会って丁度十年………身も心も深く繋がった夜だった。


頑固な雅は客を選び過ぎているような気がする。
「半端もんには彫りたくない……最初にそんな奴に彫ったら、後もずっとそんな奴ばかりだ」
そう言い続けた雅が、本当の意味で初めての客を迎えたのはそれから二年後だった。



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