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悲願花 4

 09, 2011 00:18
「越して来いってどういう意味ですか?」
速水はさらりと、もの凄い事を言っているような気がした。
「あの部屋は、千里君と譲二に住まわせろ」
「で、でも……」あの二人だけで同居させる事は千夜にとって、とても不安な事だった。

「お前がいても邪魔なだけだ……」
速水は言葉を続いているが、指先は千夜の体を弄っていた。
「邪魔?俺が?」
「お前もとことん鈍い奴だな、あの二人は好き合っている」
「え……千里が譲二と?」
兄弟のように仲が良いと感じていたが、それが性愛に繋がるものだとは千夜は考えていなかった。

「あ……っ」速水の指が千夜の胸と尖りを指の腹で転がしている。
「本当は、譲二は千里君と一緒に日本に戻って来たかったんだ。だが仕事の引き継ぎや担当している患者の事で、戻るのに1年半もかかったんだ」
水面下でそんな工作をしていた事も、千夜は初耳だった。

(千里が譲二と……)
千夜にしてみれば、実の弟まで男とそんな関係になるのが信じられなかった。
いや、信じたくなかった……

―――もう自分は速水のいない生活は考えられない。
精神的にも肉体的にも速水と離れたくは無いと思っていた。
だが、千里は別だ……
やっと普通の生活が送れるようになった千里は、いつか女性と結婚して子供のいる暖かい家庭を築いて欲しかった。
自分のような思いは千里にはさせたくなかった。

茫然としている千夜の体を速水は綺麗に洗っていた。
何も考えたくなくて、千夜はただ速水に身を任せていた。
シャワーの湯で洗い流された泡が足元に流れ、消えて行く様子を黙って見ていた。

大きなバスタオルで体を拭かれ、プライベートルームに連れて行かれベッドに腰を下ろした時に、初めて今の状況を呑み込めた。

「千里君と譲二が俺たちみたいな関係になるのは嫌か?」
「……はい」
「そうか……」速水の声が幾分沈んだ声だったのを気づいたが、今の千夜は速水を気遣う余裕は無かった。

「千夜、お前は今幸せじゃないのか?俺と一緒にいて不幸か?」
「え……?」千夜は不幸とか感じた事が無かったが、改めて尋ねられれば即答で「幸せ」とは答えられなかった。
千里の事がなければ、即答したかもしれない……

自分の立場は棚に上げている事は重々承知している、だけど弟の事は別問題だ。
「……千里に聞いてみます」
千里に本当の気持ちを聞いてみたい、もしかしたら速水の勘違いかもしれない。
千夜はそう思いたかった。

せっかく子供を持てる体になったのに……
(母さん……)
千夜は速水に押し倒されながら、無念に亡くなった母の気持ちを思った。


ふいっと速水が千夜の体から離れた。
「今のお前は抱きたいとは思わない。帰りたかったら帰れ」
怒っているのか、呆れているのか速水はそう言い捨てた。
「ごめんなさい」
速水が不機嫌だからと言っても、今の千夜は体を繋げる気持ちになれなかった。

速水はバスローブのままで、ベッドの上に疲れたように体を投げ出していた。
千夜は、この部屋に置いてある自分用の着替えをクローゼットから取り出し、身支度を整えプライベートルームから出た。
本当は、速水を拒む自由など千夜には無い事は分かっている。
だけど千里の事がはっきりしない以上、身を任せる気にはならない。

千夜が院長室に戻ると、丁度速水の携帯が鳴った。
(シロかもしれない)そう思うと、つい千夜は速水の携帯に手を伸ばした。

「もしもし」思った通りシロの声だった。
「千夜です、剛さん意識が戻られましたか?」
「うん、戻った!ちゃんと喋れるし、僕の事も覚えている」とシロは嬉しそうに言った。
「いや、傷は背中だから……」千夜も呆れて失笑した。

「あれ?これって速水先生の携帯でしょう?大丈夫なの?」
「あ!拙いかも……」咄嗟に出てしまった携帯は速水の物だ。
「でも、もう出てしまったのは仕方ないね。先生にも伝えておいて」
そう嬉しそうにシロは言って電話を切った。

千夜は、手の平の中にある携帯電話をどうしたものかと、持て余した。
パタンと電話を閉じたが、手遊びするように何度か開けたり閉じたりしていた。
さっきのシロの言葉が頭の隅に残っていた。

つい千夜は携帯を完全に開いた。
「……」そして慌てて閉じた。
そして、もう一度開き、携帯の待ち受け画面をじっと眺めた。
パタンと音を立てて、再び閉じる―――

「い……いつの間にこんな写真」
そこにはもう何年も着ていない、白袴姿で笑顔の千夜が収められていた。
まだ何も知らなかった頃の千夜だ……笑顔に曇りが無いと自分でそう思ってしまった。
(俺の笑顔は曇ってしまったのだろうか?もうこんな顔で笑えない……)


「シロは何だって?」
いつの間にか入口に速水が立っていた。
千夜は速水の携帯を握り締めたまま、言葉に詰まった。




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