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僕の背に口付けを 序章「-雅-」1

 07, 2011 00:00
「おい、ちょっと待ってよ」
「俺はもう決めたんだ!」
「僕に一言ぐらい相談してくれてもいいだろう?」
「お前が反対しても、俺の決心は変わらないから」

急ぎ足で歩く雅の後を追って歩いていた優希の足が、止まった。
「別に反対なんかしないけど……でも」
大学を辞める事を知人の口から聞くまで優希は知らなかった。
自分が雅の一番近くにいる人間だと思っていた。

「……やっぱり雅は僕の事、汚いって思っているんだね」
数歩前を歩いていた雅が戻って来て、優希の腕を乱暴に掴んだ。
「ふざけんじゃないぞ!誰がそんな事言った?」
ただでさえ、無愛想で冷たいイメージなのに、それが怒ったら身が竦むようだった。

だけど優希もここで負ける訳には行かない。
「あぁもういいよ、僕これから新宿にでも行って、慰めてくれる人でも探すから」
投げやりな言い方に雅が、その腕を放し「勝手にしろ!」そう言って、又足早に去って行った。

「……雅」残された優希は、もうこんな苦しい恋は止めよう……そう思って、ひとりトボトボ歩き出した。
門を潜って右に曲がると駅がある。新宿に行くのなら右に曲がらなくてはならない。
そして左に曲がると、自分が借りているアパートがある。だが優希は、ゆっくりと左に曲がって歩き出した。一分程歩くと、そこには塀に凭れて煙草を吸っている雅が居た。
「ま・雅……」
煙たそうな顔でふーっと紫煙を吐く雅に、「遅いぞ」と一言だけ言われた。
「うん……」そして優希は、ただ黙って雅の後をついて歩いた。

そして着いた先は優希のアパートだった。
「じゃあな」雅が片手を挙げて何でもないように別れの言葉を吐いた。
「……うんじゃあ」
このまま帰ろうとしている好きな男を止める言葉を優希は持ってなかった。
ぽろっと頬に冷たい物を感じ、自分が泣いている事に気づいた。そんな優希を見ていた雅が近づいて来て「全く面倒くさい奴だなぁ」と溜息を吐くように呟いた。

泣いた事を誤魔化すように優希は「アハッ……」とおどけて笑って「じゃ」と片手を挙げた。
「ちっ!」と雅の小さな舌打ちが聞こえ、打ちのめされる。
雅に背中を向けアパートの階段に足を掛けた時に「来い!」と腕を引かれ、雅に引き摺られる様に歩いた。

通りまで出ると、雅はやっと優希の腕を離し、そしてタクシーを留めた。「渋谷まで」一言だけ命令するように運転手に言うと、後は面倒くさそうな顔で又黙った。
優希も黙って雅の後に続いてタクシーに乗り込んだ。

タクシーを降りた雅は優希に何か言う事も無く、すたすたと歩き出した。その通りには点々とホテルが立ち並んでいた。
躊躇いもせずに雅がその中のひとつのホテルのビニールの暖簾を潜った。慣れた風に小さな窓を覗いて「泊まり」とだけ無愛想に言った。

会計を済ませた雅は部屋のキーを受け取り、エレベーターに乗り込む。
『早く来いよ』目がそう語っている。優希は雅の後に続き、雅と並んでその箱に納まった。

「此処か」部屋の番号を確認し、キーを差込み雅は扉を開けた。
優希はラブホテルなんて来るのは生まれて初めてだ……
だが一方慣れているような雅に少し気持ちが沈んでしまう。
「ビール飲むか?」
備え付けの冷蔵庫から缶ビールを出し、優希に尋ねる。
優希は黙って頷いた。酒でも飲まなければ……この状況に付いていけないような気がしていた。

缶ビールのプルトップをいい音をたて雅が開けた。ごくごくっと小気味良く喉が上下している。
早々に一缶飲み干すと、「シャワー浴びてくる」と言う雅に「どうして此処に来たの?」と思い切って尋ねてみた。その答えを聞かないと、優希はもう一歩も先に進めない気がした。

「お前を抱くためだ」潔い言葉に眩暈がしそうだった。
それだけ言うと、雅はシャワーを浴びに部屋を出て行く。
『お前を抱くためだ……』その言葉が優希の頭の中でリフレインしている。
五分もすると雅が腰にタオルを巻いた姿で出てきた。

「お前も入るか?」
「う……うん」優希は縺れるような足取りで浴室に向かった。
優希はシャワーを浴びながら自分の震える体を抱きしめた。
好きな男に抱かれる喜びと怖さ……
それでも優希は、自分が雑誌とかで得た情報の全てを思い起こし準備をした。
受け入れる器官では無い所に受け入れる準備を―――

優希も雅と同じように腰にタオルを巻いてシャワー室から出た。
だいぶ時間が掛かっただろうけど、それに対して雅が文句を言う事はなかった。
優希は、雅が腰掛けるソファの隣に腰を降ろした。
「優希、腹は減ってないか?」
こんな状況で腹が減っていても食べられる訳は無い。
「大丈夫……」と小さく返事をした。

「そうか……来いよ」雅が先に立ってベッドに向かった。
優希は温くなったビールを一口飲み、その後に続いた。

雅はベッドの縁に腰掛けているが、優希はベッドに上がって座った。
「優希……俺は彫り物師になる」
雅が大学を中退する理由も勿論それだった。
優希は雅がずっとその世界に憧れていたのも、そして勉強していたのも知っている。
「うん……」

「やっと弟子入りが認められた」
ずっと弟子にして欲しいと通っていたのも知っていた。
「うん……良かったな」
「ああ、だがこれで喰って行けるまで何年掛かるか判らない」
「厳しい世界だものな……」
「別に俺がヤクザになるわけじゃないが、ヤクザな世界に足を突っ込むのは確かだ」

それはそうだ、刺青なんて素人が入れる筈は無い。ヤクザ者と繋がりが出来てもそれは仕方ない。
「俺の傍に居たって何もいい事なんか無いぞ」
「別にいい事なんか望んでいない……ただ……」
「危険な目に合うかもしれないぞ」
「別に危険な目に合うのは素人だって同じだ」

そう言うと優希は一年前の忌まわしい事件を思い出し眉間に皺を寄せた。
女に纏わり付かれるのが嫌で、大学に入ると早々にゲイである事をカムアウトした。
告白してくる女を傷付けないで断るには、これが一番効果あった。
だが、そういう噂はあっという間に大学中に知れ渡る。

「別に本当の事だからいいや」くらいにしか思ってなかったし、逆に密かに自分もゲイである事を優希に打ち明けて来る奴もいた。ある日、優希は「好きな奴が男だ、相談に乗ってくれ」と言われ自分で判る事があれば、とその先輩のマンションに付いて行った。

「緊張しているから飲んでもいいか?」と聞かれ承諾をすると、優希にもビールを勧めて来た。優希は一杯だけと言って、そのビールに口を付けた。

その後優希はいつの間にか意識を失い、気が付いた時には全裸に剥かれ、ベッドに四肢を拘束された状態だった。




■同人誌掲載分ですが、ブログに再アップする際にもう一度加筆修正しました。
粗が多くて、本当に申し訳ございません!

本日は帰宅が遅く「悲願花」の更新が出来ませんでしたので、
「雅」を急遽アップしました。明日以降「悲願花」の更新が出来ても
毎日「雅」は上げて行きます。

「僕の背に口付けを」が下げたままで、読みたいというメールも頂くのですが、
今回は「雅」を先に上げる事にしました。ご理解お願い致します!
(文字数に関係なく、内容で区切りを入れて行きます)


スミマセン^^一応貼ってもいいですか?……
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COMMENT - 4

-  2011, 07. 07 [Thu] 00:14

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-  2011, 07. 07 [Thu] 08:43

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-  2011, 07. 07 [Thu] 10:13

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-  2011, 07. 08 [Fri] 00:00

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