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罪よりも深く愛して 19(完結)

 03, 2011 00:00
「――――屋上を探そう」

一生懸命に足を動かしているはずなのに、一向に前に進まない感覚に苛立ちながら、千夜たちは屋上に辿り着いた。
丁度昼食の時間と重なっているため、屋上に人の姿は見えない。

「千里?千里!」広い屋上を皆で声を大にして叫びながら探し回った。
「大丈夫だ、この柵を越える事は出来ない」
速水の言葉に柵の方に目をやると、到底人間が越えられる高さでは無い事に安堵の息が漏れた。
そして屋上の端っこで遺骨を抱き締めたまま、座り込んでいる千里を発見した。

「千里っ!」
千夜の呼びかけに顔を上げる事もせずに、千里は「お兄ちゃんごめん、僕……柵を登れない」と項垂れた。
「ふざけるなっ!柵を登ってどうしようと言うんだっ!?」
「僕は、お兄ちゃんから沢山の物を奪った……僕なんか居ない方がいいんだ」

「そうだ、お前は俺から全てを奪った!」
千夜の激しい声にジョージが動こうとしたが、速水の手に止められた。
「お兄ちゃん……」やっと千里が顔を上げて千夜の顔を見た。

「お前は俺から全てを奪った、そして最後のひとつまで俺から奪おうとするのか?」
「……最後のひとつ?」
「ああ、そうだ……俺の大事な最後のひとつまで……」
「……?」
「分からないのか?千里……俺の大事なものが?」
「お兄ちゃん?……」

「千里、俺の前から居なくなるなよぉ、もう俺にはお前しか残っていないんだ……」
「僕を許してくれるの?」
「許すも許さないも、千里は何も悪くない」
「僕生きていてもいいの?」
「当たり前だ、母さんの分まで生きていてくれよ……」
「本当にいいの?許してくれるの?」

そして、千夜と千里は屋上の柵の前で随分と長い事抱き合っていた。

森川の妻が急を聞いて駆けつけてきた。
千夜の胸から剥がすように千里を立たせると、その頬を思いっきり張った。
一瞬の事で、千夜も周りも止める暇がなかった。それほどに素早い行動と、それに増して森川の妻の、怒りの黒いオーラに誰も近づけなかったようだった。

唖然として頬を押さえる千里へ「これは、あなたのお母さんの分!」
そう言うと、もう片方の頬も張った「これは、千夜君の分」
「これは速水院長の分……」
「これは森川の分……これは譲二さんの分……これは……」

だが、最初の2発は激しい音を立てたものの、その後は叩いた頬を撫でるようなビンタだった。
「……これは……私の分……」
千夜にもやっと聞き取れるような、言葉にならない嗚咽のような声が聞こえた。

「森川さん……ごめんなさいっ!」
まるで小さい子供のように、森川の胸に顔を埋め泣きじゃくる千里だった。
病室でも、さっき千夜の胸でも大声で泣く事の出来なかった千里が、やっと見つけた泣き場所のように、ただただ声を出して泣いていた。

その時の流れが長かったのか、短かったのか千夜には分からなかった。

「病室に戻ろう」ジョージの声に千里も頷いた。
ひょいとジョージに抱き抱えられ「歩ける」と小さく抵抗していたが、大柄なジョージの腕にまるでお姫様のように大事に抱えられ、屋上を後にした。

「ほら、いつまでも座り込んでいないで……俺たちも行くぞ」
速水にそう声を掛けられても、千夜は立ち上がる事が出来なかった。
「千夜?」
訝しげな顔で速水が顔を覗きこんできた。
「あはっ……力が入らない……」千夜の指が小刻みに震えているのに速水が気付いた。

速水が腰を下ろし千夜の前に身を屈めた。
「あっ!」
突然の速水の口付けに千夜の口から小さな声が漏れる。
ちゅっと音を立て啄ばむ口付けの後、千夜の目を見て速水がニヤリと笑い、もう一度唇が近づいてきた。今度は深く千夜の口腔を貪るような激しいものだった。

千夜の体から、さっきの興奮が醒め、そして新しい興奮が芽生えてきた。
千夜は速水の胸をそっと押して体を離した。
「だめ……これ以上は……」
「何だ?俺が欲しくなったか?」速水が揶揄するように言う。
「……はい……欲しくなりました」千夜は努めて明るく答え、すくっと立ち上がった。

「もう大丈夫です、ありがとうございました」
千里を失くすかもしれないという恐怖は、速水の適切とは思えない行動に救われた。
「ちょっと、こっちへ来い」
急に速水に腕を取られて、千夜は給水タンクのある方に引っ張って行かれた。
「えっ?何……?」
「此処なら人目に付かない」
そう言うと速水は胸ポケットから小さいチューブを取り出して、ニヤッと黒い笑みを零した。

「あぁ……っ」
給水タンクに手を付いた千夜を後ろから速水が激しく犯している。
幸い今は昼飯時、食事をしているか休憩をしているか、屋上に人は居なかった。
タンクのおかげで死角になっているとはいえ、いつ誰が来るか判らない場所で千夜は気がきではなかった。
「ああっ……」
それでも速水から与えられるのは苦痛よりも快感だ。

浅く深く抉られながらも千夜の快感のツボを確実に攻めてくる。
「あああっ……もっ……」絶頂を迎えそうになり孔が締まると速水は逃げる。
「やだっ……」千夜はだんだんと、一体ここが何処でどういう状況にいるのかも判らなくなってくる。

「千夜……愛している」後ろから耳を舐めるように囁かれた。
その言葉にもう、男同士だとか、最初のきっかけが何だったのかどうでも良くなった気がする。
「俺も愛しています……爽輔さん……」

これが罪でもいい……
速水の手で扱かれ卑猥な湿った音を立てているのは、紛れもなく自分の体なのだから。

「ああっ……もう達く……」
一瞬体が浮遊するような感覚の後、千夜は速水の手の中に吐精した。
孔が激しく痙攣するような中、速水がずるりと千夜の中から出て行き、そして速水自身の手の中に吐き出した。中に飛沫を受けない事が寂しい……
そう思ってしまう自分に千夜は、失笑してしまう。

「さすが、二人分は多いな……」
速水が揶揄するでもなく、まじまじと己の手の平を眺め、溜息を吐きながらハンカチを取り出した。
途端に今までの事がとても破廉恥な行為に思え、千夜の顔が真っ赤に染まった。
いや……いつ誰が来るか判らない屋外での行為は破廉恥そのものだ。

冷静な頭で考えると受け入れた自分も信じられない、すっかり速水の色に何もかも染められたような気がした。
家族はいたが、背負う物の大きさに千夜は、ひとり突っ張るように生きてきた。
だから速水の色に染められるのも悪くは無いと思ったりする。
誰かに甘える事が結構幸せなのだという気持ちを、噛み締めていた。

「俺……爽輔さんに出会えて良かったです、もう何も後悔しません……」
「俺は……後悔している、あいつ等にお前を抱かせたことを」
「あ……でもどうして?」
「お前を俺と同じ所まで堕としてみたかった、お前は俺にとって綺麗過ぎた……」
「そんな?それだけの理由であんな事を?!」
「すまなかった……でもお陰でよく判ったよ」
「何が判ったと言うんですか?」
「お前を誰にも渡したくない、あんなに胸が苦しかったのは初めてだった……」
「はっ?」自分で仕組んでおいて、よくもまぁ……呆れて言葉も出ない。

だが速水の立ち直りは早かった。
「だからお前は俺以外の男と話をする事も禁ずる」
いつもの俺様な速水、いやそれ以上に豹変している。

「さあ、病室に戻るぞ」
呆然としている千夜の腕を取って歩き出す速水の後を千夜は歩く。
少し歩幅を広げて―――肩を並べた。
速水がちらっと千夜を見て口角を上げる。
そんな速水を見て、千夜は口元を緩めた。

確かにここに愛はあった。
速水の傍にいたら、今後色々な事があるだろうと思う。
でも、それでも一緒にいる事の方が幸せだろうと千夜は確信できた。


―――ここに愛があるから、罪よりも深い愛があるから―――完

2011-1-26-ryu.jpg
イラストの版権・著作権は『BL脳炸裂!!』のRyu様にございますので
無断転載・転写は固くお断り致します。


こちらのイラストは、時間が無くて新しく描く事が出来ないのでと、Ryu様が背景を変えて明るい千夜にして下さったものです。
もう涙もない明るい千夜です。ありがとうございました!


1話の文字数を多くしましたので、19話での完結になりました。
最後まで読んで下さってありがとうございました!

新作の予定はまだ立っていません……。・゚・(ノД`)・゚・。
Ryuさんの設定をお借りした「数字擬人化」が現在4話分くらい書いているのですが
書き上げてからの更新になります。

その前に千尋奪還に行かねばなりません。
その方向で頑張りますので、少々お待ち下されば有難いです。
宜しくお願い致します。




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COMMENT - 6

しお  2011, 07. 03 [Sun] 00:28

kikyoさん最終回なっちゃいましたねぇ毎回更新時間を気にしながら心待ちにしてました。
千夜君と速水さんのこれからも楽しみにしてまーす。ハピエンで良かった

それと私、間違えてました・「そして僕らは」でした又観覧出来るのを楽しみにしてますね。
基本、同人誌はイベントのみ販売ですか?関西の方へはこられませんよね?
マタマタ質問しちゃってすいません

それとお忙しい中お返事ありがとうございました。
私のkikyo様中毒はまだまだ続きそうです。うふっ

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びび  2011, 07. 03 [Sun] 07:05

一度読んでいたお話でしたが、それでも毎回ワクワク、ドキドキ、ハラハラしながら読ませていただきました♪( ´▽`)

一話が増量されていて読み応えがあり、とても得した気分にもなりました。

千里くんの元気になったお話も気になるし、気持ちを素直に見せて独占欲の塊になった速水さんの、トンデモ愛情表現なんかも見てみたいし…。
と、ついニマニマしてしまうぐらいの甘いハピエン堪能しました~♪( ´▽`)

そうそう!千尋くんの奪還(;゜0゜)
そうですよ~。早く助けてあげて下さい~(>人<;)

でもいつでもお待ちしてますから、kikyo 様のペースで更新するのを楽しみにしてます(*^^*)

Edit | Reply | 

tukiyo  2011, 07. 03 [Sun] 09:48

始まりもkikyouさんらしかぬ雰囲気でしたがラストもタンクに
隠れてとは~と少々驚きwww
でも途中からの甘さはkikyouさんでしたね。

千尋、釣るされてクルクルまわりすぎて目が回ってないかしら~ww
ゆっくり待ってますから新作も合わせて無理せずにアップして
くださいね~。

Edit | Reply | 

けいったん  2011, 07. 03 [Sun] 10:12

Ryuさまが描かれた千夜が とっても美人さんで もう クラクラ~(((*゚Д゚*)))
これから もっともっと 速水に愛されて もっともっと 綺麗になっちゃうのだろうなぁ~♪

いつもとは 違うkikyouさまの作品を しかと堪能させて頂きました!

ちょっと忘れかけてた千尋(ごめんね)、早く 助けてあげないと この暑さで 燻製になってるかも!
食べたら きっと いい匂いがして 美味しいだろうな♪
(((~ ̄*)コッコノアジハ・・・byebye☆

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梨沙  2011, 07. 03 [Sun] 23:42

(///∇//)テレテレ

ハピエになるのは分かっていましたが…
経過はなかなかにハードでした(^^;; でも、そのおかげで最終回はとっても嬉しかったですね(*^^) 鬼畜な速水さんは依然と存在してましたけどうふ♪(* ̄ー ̄)vこれが2人にとってはいい関係なんでしょうね(⌒~⌒)ニンマリ
千里のことを考えるとちょっぴりせつないですがo(´^`)o ウー
周りには支えてくれる人が沢山いるので大丈夫でしょうo(*^▽^*)o~♪
何気に千里とジョージの関係にアンテナが立ってしまいましたがw

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甲斐  2011, 07. 04 [Mon] 12:21

何回読んでも最後までどきどきでした
ホントに『自分で仕組んでおいて、よくもまぁ……呆れて言葉も出ない。』です
けど、そんな人に惚れてしまった千夜ちゃん、何されても嫌いにはなれないでしょうね

それにしても速水センセったらいつでもどこでもナニできるように準備万端なんですね
もちろんかわいい千夜ちゃんに傷などさせないようにうんといい気持にさせてあげたい故の愛情ですわね

その後の様子も知りたいです
続編やSSで再会できたらうれしいです

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