2ntブログ

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

罪よりも深く愛して 10

 25, 2011 00:00
24日の21時過ぎに9話を更新してあります。
気づかれてない方はこちらからどうぞ^^




一億の金ですら、普通には返せそうもない。
速水とは5年契約だったが、5年が過ぎ体は開放されても千夜は、一生を掛けても返済して行こうと思っていた。
それでも返せるかは判らない。余程金回りの良い仕事につくしか方法は無い。
(1日55000円……それが俺の価格だ)
単純計算の1日の自分の値段に、千夜は眩暈がしそうだった。
そんな価値など無いのは重々承知だが、それでもそれしか方法は無かったのだ。

「おい、着替えとタオルは此処に置いておくぞ」突然の声に驚き
「はい、ありがとうございます」と返した声は掠れてしまっていた。
シャワーを終えて扉を開けると、バスタオルとバスローブが、畳んで置かれてあった。
考えてみれば、昨夜もホテルに泊まっている、さすがに3日目も同じ服を着たくは無い。

後で洗濯機を借りようと思い、そのバスローブに袖を通した。
背の高い千夜は、更に高い速水の服を違和感なく着る事が出来た。
少しだけ肩は落ちるがバスローブなんてこんなものだろうと思う。
だが風呂上りにこんな格好などした事のない千夜は、下着も着けていない状態で前の緩い服を着る事は恥ずかしかった。

速水の前に全てを曝け出した体であっても、やはり落ち着かない。
リビングに居る速水に「洗濯機を貸して下さい」と頼みに行くが、速水の姿はもうリビングには無かった。
(もう寝たのだろうか?)少し開いた寝室らしい部屋の灯りが漏れている。
多分そこにいるのだろうが、千夜には声を掛ける事もその扉を押して部屋へ入る事も、出来ない。

「千夜……こっちに来い」
その声に一瞬ぎくりと体が強張ってしまったが、速水の言葉に「NO」は言えない。

「あの……洗濯機貸してもらえませんか?」千夜は寝室に入ってそう聞いた。
「朝、新しい着替えは出してやるから、もう休め」
速水にそう言われたらそれ以上言う言葉はなかった。
「ベッドは1つしか無いから」それは必然的に同じベッドで眠れという事なのだ。
「はい」大柄な男が二人横になっても、何ら支障の無いサイズのベッドに千夜は上がった。

「バスローブを着て寝る奴はいないぞ」
千夜は黙って少し湿ったバスローブを脱ぎ、軽く畳んで足元に置いた。
緩い灯りがそのしなやかな肢体を僅かに照らしている。
ベッドが軋まぬように、そっと速水の隣に体を滑り込ませる。
いつもと違う設定に少し動揺しながらも、千夜は黙って目を閉じた。

「千里君の事は心配するな、俺に任せておけばいい」
千夜が一番聞きたかった事を、速水は判っているかのように口にした。
速水とて医者として、そして関わった者として気にしているのだろう、と千夜は思った。
「金は一生掛かっても……いや一生じゃ払いきれないかもしれませんが、必ずお返ししますから……」
「お前とは5年の契約を結んだはずだ、それ以上拘束するつもりは無い」
「でも……」5年などで元が取れる筈なんか無い。
それどころか、自分は今速水のマネージャー的な仕事で、生活に困らない程度の給料まで貰っているのだ。

「どうして……そんなに良くして下さるのですか?」
こんな事をして速水に何の得があるというのだろうか?
男が欲しければ、速水なら困る事などないだろう……現に昼間千夜はそれを目の当たりにしている。
手塚との事を気にしないようにしていたが、心の奥底にずっと引っかかっていた。
「あの……手塚先生とは……いえ何でもありません」自分は今何を聞こうとしたのだろう?
この3ヶ月の間、速水に特定の恋人が居ないと思いこんでいたが、もしかしたら手塚が恋人なのかもしれないし、自分の知らない誰かがいるのかもしれない。

そう思った途端、胸の中が何かで軋む音がしたような気がした。
速水が自分以外の誰かを抱く――――
自分も速水以外の誰かに抱かれる――――
その事実がこんなにも重く、胸に圧し掛かって来るとは思ってもいなかった。

――――つらい。
その辛さは初めて速水に貫かれた夜とは違う辛さなのだ。
千夜は薄暗いベッドの中で静かに涙を零す自分を心の中で…………笑った。

そしてその夜速水が千夜に手を伸ばす事はなく、静かに朝を迎えた。
千夜は一度速水を病院まで送ってから、渡米の支度にマンションに戻った。

そして千夜は身の回りの物を詰めたボストンバッグを用意して、再び病院に戻った。
車にバッグを残したまま院内に入ると、エレベーターの所で偶然に手塚医師と会ってしまった。
今はあまり顔を合わせたくは無い男だ。
手塚はエレベーターが閉まらないようにボタンを押し千夜に「乗らないの?」と声を掛けてきた。
「すみません」俯き加減にエレベーターに乗り込むと、静かな2人だけの空間になってしまった。

「速水院長は朝からたて続けにオペだというのに、のんびりとしたもんだね」
千夜の顔を見ようとはせずに、黙って院長室のある階のボタンを押しながら手塚はそう言った。
「俺がいても何も出来ませんから……」実際医学の知識がある訳ではない、何も出来ないのだ。
「そうだね、君は爽輔の下半身の事情だけを判っていればいいしね」
屈辱的な言葉に添えられた速水の、まだ千夜が一度も呼んだ事のない『爽輔』という名前。
そして手塚は、千夜と速水の関係を知っているような言葉も吐いたのだ。

「爽輔はパワフルだからね、君も大変でしょう?」
手塚の言葉に含まれたトゲが千夜の胸に何本も突き刺さってしまう。
何一つ言葉を返せない千夜に向かって「でも僕は諦めないよ、僕には色々な意味爽輔が一番だから」手塚はそう言い残しエレベーターを降りて行った。

『僕は諦めない?』手塚の言葉の意味が今少し判りかねた。
だが今の言葉で判った事がひとつあった、手塚は速水の恋人では無いという事が。
頭の中は千里の事でいっぱいなのに、つい心で速水の事を考えてしまう。
「下半身の事情か……」自嘲しながら手塚に言われた言葉を呟いた。
融資の事までは、手塚は知らない感じだったのだけが幸いだった。

院長室をノックしても返答はないが、千夜は扉を開けた。
まだ最初の手術が終わってないのだろう。普段から昼食を摂らない速水の為に室内にある小さい冷蔵庫に、途中で買ってきた冷えた栄養ドリンクを補充した。
案の定冷蔵庫には1本も残っていなかった。これは速水にとって眠くならない相性の良いドリンクなのだ。

千夜が着いて10分程で、院長室のドアが音もなく開けられた。
「お疲れ様です。早かったんですね」時計を見ると予定より30分程早い。
千夜は手際よく電子レンジを使い、熱いオシボリを用意し速水に渡した。
ソファに深く身を沈めながら、疲れた目を癒している。
(良かった、冷えたのを買ってきて)そう思いながら、千夜は瓶の蓋を開けたドリンクをテーブルの上に置いた。
普段手術の後に速水が求めるのは、この2つだけだった。

「千夜、ここに来て咥えろ」
だが、今まで一度も言われた事のない言葉に千夜は一瞬にして体を強張らせた。



日本ブログ村とFC2のランキングに参加しています。
ポチっと押して下されば嬉しいです(*^_^*)
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村





関連記事

COMMENT - 1

-  2011, 06. 25 [Sat] 10:29

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Edit | Reply | 

WHAT'S NEW?