「速水だ、早かったな」
その声を聞いた途端に切ってしまいたい衝動に一瞬襲われたが、それでも気丈に伝えた。
「融資お願い出来ますか?」と。
「判った、準備が出来たら改めて電話する」そんな簡単な言葉で速水の電話が切れた。
一世一代の決心が、たったの数秒で終わった。
「あっ」電話を切り、目を凝らすと暗闇の中赤い花が一面に咲いていた。
「彼岸花?」ずっとここに立っていたのに全く気付かなかったのだ。
どれだけ自分が緊張していたのだろう?そう思うと笑いが漏れてきそうだった。
だが、千夜から零れたのは笑い声ではなく、一筋の涙だった。
「俺はからかわれたのかも?」
電話で返事をした日から1週間過ぎても、速水からは何の連絡も来なかった。
千夜は鳴らない電話を肌身離さず持ち歩いた。
そして8日目の午後に待っていた電話が掛かってきた。
大学の夏休み中、千夜はバイトに精を出していた時だった。
「今日私の所に来られるか?」
「バイトが5時に終わるので、5時半頃には伺えます」
「では、5時半に院長室で待っている」それだけ言うと電話は切れた。
前回といい、今度といい速水の電話は用件だけでプツッと切断される。
物として扱われているみたいで、少し不快な気もしたが、その『物』がこれからの自分なのだ。
千夜が約束の時間に行くと、中には院長以外に2人の人間がいた。
「彼ら夫婦が君の弟に付き添って渡米する」
そう言って紹介された夫婦は速水の病院の医師と、その妻である元看護師という女性だった。
「渡米は1週間後だ、もうあっちにアパートメントは借りてある、身の回りの物だけ持って行けばいい、君の母親も一緒に行くように」
「え、あの?」
千夜は融資の件でもう少し詰めた話をするのだろうと思って来たのだが、
既に話は渡米の話になっていた事に、千夜は驚きを隠せなかった。
「行くのなら、体調が落ち着いている今がチャンスだ。向こうでの生活は心配する事はない、この二人は英語も堪能だし、傍に居れば不自由する事はない」
そう聞かされながら、書類を渡された。
「これは君の母親に書いてもらう書類だ、パスポートは以前に取得しておくように言ってあるから、大丈夫だな?アメリカに行ってからも、先が長いだろうからそのつもりでと伝えておきなさい」
「はい……」
「君の母親には私からさっき連絡を入れておいたから、その書類を持って行けば判るはずだ、もう帰ってもいいぞ」
狐に摘まれたような気分で、千夜はまともに声を出す事も無かった。
だがこの8日間の間に、速水は全ての準備を整えてくれたのだという事だけは判った。
そして1週間後、母も当事者の千里も何も判らないまま、渡米させられた。
空港で母と千里に向かい「心配しなくていい、この二人に任せておけばアメリカでの暮らしにも直ぐに慣れるから、手術が決まったら私も君の兄さんを連れて渡米する。それまで頑張るんだぞ」
医師としての速水の言葉に母も千里も安堵の色と涙を浮かべ、健康な体を求めて旅立って行った。
「はぁ……っ、はっ……」
さっきから、ゆっくりとしたペースで速水は腰を動かしていた。
このまま永遠に続いてしまうのではないだろうか?そう思うような動きだった。
だが千夜の中にある敏感な部分に、何故か今夜は頻繁に当たる。
千夜はそれが何なのか、それを速水は気付いているのか、それさえも知らなかったのだ。
「やだっ……そこ……いやです」
胸騒ぎがする、何かが変わってしまうような気がして千夜は怯えた。
「お前に拒否権はない」
「……ああぁっ!」故意にそこだけを擦っている事に千夜も気付いた。
「お・お願いです……変だから……」
「自分を解放して素直に快楽に溺れろ」
速水の媚薬のような言葉に、千夜は首を横に振り続けた。
速水は執拗に中の良い所を攻めているのに、陥落しない千夜の引き締まった背中を見ていた。
速水は中学生の頃の千夜の事はよく覚えていた。
弟千里が入院する度に毎日見舞いに来て、よく弟の面倒を見ていた。
一生懸命面白い事を言って千里を笑わせていたのを、廊下から何度か見た事があった。
だが高校生になった千夜と顔を合わす事は全くなかった。
一度千里に尋ねた事があった「最近お兄さん来ないね?」と。
「うんお兄ちゃんバイトが忙しいみたいで……でも時々夜遅く来ているみたい。枕元に僕が読みたいって言っていたマンガ本とかが置いてあるから……」
「そうか良かったな、早く元気になって兄さんとずっと一緒に居られればいいな」
速水がそう言うと「はい」とキラキラした瞳で千里は答えた。
まだ自分の未来を捨ててはいない瞳の輝きに、速水も安心したものだった。
去年大学から講師を頼まれて、その打ち合わせに大学を訪問した事があった。
予定より早く終わり構内を散歩していると、体育館がやけに賑やかなのに気付いた。
練習試合なのだろうか、何気なく覗いてみると、ちょうど大将同士の対決をしていた所だった。
どちらの選手も、間合いを詰めながら相手の隙を狙って睨み合っている。
速水は白い胴衣の大将の優美な立ち姿に、目が釘付けになっていた。
まるで白鷹が獲物を捕らえるかのように、優雅にそして俊敏に面を1本決めた。
―――剣心一如(けんしんいちにょ)剣は人なり、剣は心なり―――
そんな言葉が速水の頭に浮かんできた。
その瞬間に館内は、女子学生の黄色い声援と野太い男の歓喜の声に包まれた。
一礼した後、その白鷹が面を外してもその男女混じった声援は止む事はなかった。
速水はその面の下の素顔を見て「ほぅ」と感嘆の声を心中呟き大学を後にした。
速水は少し角度を変え、もっとキツク攻めた。
千夜は俯いていた顔を反射的に上げ仰け反る。
瞬間に垣間見るしか出来ない千夜の艶姿……(見たい)何度そう思った事か判らない。
その白い喉に喰らい付き、あの半開きになった口腔を貪りたい。
だがそんな行為は千夜を、深く傷つけるのではないかと思うと躊躇うものがあった。
(いや違う……本当は自分の為だ。千夜の顔を見たら自分は陥落する。いや、もう堕ちているではないか……)そんな葛藤は、何時になったら終わるのだろうか?
速水は激しく抽送を始めた。
「あぁぁっ!あぁっ、くっ……はぁ……」
苦しげな千夜の喘ぎ声に速水の理性が少し崩れた。
おもむろに千夜の脚を持ち上げ体位を変えた。
「えっ?あぁっ!!止めろっ見るな……」咄嗟の事で千夜は本音を隠せなかった。
「お願いです……見ないで下さい」次の言葉は、立場が言わせた懇願だった。
速水は千夜の長い脚を肩に担いだ。
初めての体位に千夜の顔が苦痛に歪み、そしてぎゅっと瞳は閉じられた。
「千夜、目を開けろ、開けて俺にその顔を見せながら達け」
長い時間達する事を許されない千夜の孔が意思に逆らって伸縮し、今までシーツを濡らしていた蜜が今度は自分の茎を濡らす。
(イきたくて気が狂いそう……)千夜は鍛えた心身も、性欲の前では脆いものだと思った。
(堕ちる……)
そう思った瞬間に頭の中が真っ白になり、目の奥に星の花が咲いた。
びくびくと伸縮を繰り返す孔は速水の杭を締め上げるが、千夜は自分がまだ吐精していない事に気付いた。
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◆拍手コメのロン様へ
「僕の背に口付けを」の公開はもう少しお待ち戴けますでしょうか?
同人誌の件がありましたので、下げていました。
7月中頃には、再度公開しようと考えております。
ごめんなさい!もう少し待って下されば嬉しいです。
宜しくお願い致します。
<続きを読む>に私信になってしまいましたが、
1曲貼ってあります(*^_^*)
今日はお友達の誕生日でした。
何もしてあげられないけど、せめて私の大好きなEXILEの曲を贈ります。
お誕生日おめでとうございました。
ああああああ!!今更新日時を見て唖然としてしまいました。
今日のうちにと、日付が変わる前の更新をしたのに……
日付……1日勘違いしていました……17日だと思っていたのに。
御免なさい!
でも素敵な曲なので聞いて下さいね。
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