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俺、武藤駿平 17

 18, 2011 00:11
那月が連れて行かれた先は、高級中華料理店だった。勿論個室だ。
「私は中華料理が好きなんだけどね、一人で来ても美味しくないからね」
円卓の向い合せの席に座っている剣持が、機嫌良さそうにそう言った。
広い円卓には、事前に予約していたのだろう、着席すると直ぐに大皿に乗った料理が運ばれて来た。

「遠慮しないで食べて」
「はい……戴きます」
那月もこんな豪華な中華料理は初めてだったが、特にマナーが必要な訳でもなく、周りを気にするでもなく、落ち着いて食事が出来た。
(駿平君にも食べさせたかったな……)
駿平の好きそうな料理が沢山並んでいる。

「どうしたの?何か幸せそうな顔をして、そんなに喜んでもらえたのかな?」
「あ……いえ、戴きます」
駿平の事を考えていて、つい口元が緩んでいたらしかった自分に、内心苦笑してしまう。
「恋人の事でも考えていました?」
「え……は・はい」
那月の素直な反応に、剣持の目尻が下がり嬉しそうな顔になった。
「その恋人って女性ですか?それとも?」

「……そんな事は剣持さんには関係ない事です」
と、那月はきっぱりと言った……が、剣持は楽しそうに笑いだした。
「本当に貴方は、素直な方ですね」
「……」那月は自分が何をからかわれているか咄嗟には、判らなかった。

「普通そういう質問をされたら……」
それだけ言うと剣持は楽しそうな顔をしながら、ホタテのクリーム煮を美味しそうに口に入れた。
「あ……」那月は剣持の言葉の意味を少しして気づいたが、もう今更だった。
恋人が異性か同性か聞く事自体がもうおかしいのだ。
それに笑う事も怒る事もしない那月は、恋人が同性だと認めたようなものなのだ。

「僕はそういう話をする為に来たのではありません」
「いや悪かったね。いいよ、仕事の話をしよう」
剣持は見た所、35・6歳だろうか?
もしかしたら、もう少し上なのかもしれないが、落ち着いた物腰は男としての余裕を漂わせていた。

茶封筒が乗ったテーブルが回され、那月の前で止まった。
「それは、契約書。読めば判る事だから、自宅に帰ってからでもゆっくり読んで」
「はい……」
那月は目の前に置かれた、茶封筒を取りながら頷いた。
「急がないし、そこに書かれている以外の事で何か条件があれば、考慮するよ。兎に角ゆっくりと考えてくれればいいから」
「はい、ありがとうございます」
「だから、今日はゆっくり食事に付き合ってもらえるかな?」

剣持の笑顔の下には計り知れないものが隠されているようだ。
いや、何も考えていないのかもしれない、ただ本心が何も読めない男だと那月は思っていた。
これが大人の男というものなのかもしれない。
那月が普段一緒に暮らし、好きな駿平は、何を考えているか直ぐに判るタイプだ。
だから駿平といると気持ちが楽になる。

だが剣持とはそういうプライベートな付き合いでは無いのだ、仕事の話だと那月は割り切った。
いや、剣持がそういう態度を見せている訳では無かった。
(僕って自意識過剰だ……)
そう思うと何だか肩の力が抜けて、通り辛かった食事も喉に通る。

「美味しい」
「ああ、ここの料理はお勧めだよ。いつか恋人と来るといい」
「そうですね、いつか……」
そう答えながらも1回の食事に、家賃の半分は飛んでしまうだろう贅沢は出来ない。

「実は、その書類には書いてないが、日向君にはデザインの方も手掛けてもらいたいんだが、どうだろう?」
「えっ?デザインですか?」
「嫌いじゃないだろう?君の仕事を見れば判るよ」
剣持の言葉は那月の心を動かすのに充分過ぎる言葉だった。
ずっと自分もそう思っていたが、今の会社では那月にそういう仕事は回っては来ない。

那月の目が輝いたのを見た剣持は具体的な話を始めた。
そんな話を始めたら時間が経つのが早くて、あっという間にデザートの時間になる。
時計を見てこの店に来てから3時間も経っている事に気づき、那月は慌てた。
「そろそろ出ようか?」
「はい、今日は本当にご馳走様でした。後日連絡って事で宜しかったですよね?」
「いいよ、日向君の都合の良い時で。でも良い返事を待っているよ」
「はい……」

那月は、最初の目的であった年棒のアップの事など頭から飛んでいた。
自分のやりたかった仕事を任せてもらえるかもしれない、その事で頭がいっぱいだった。
「自宅まで送ろう」
店を出た所で、剣持にそう言われて那月は、慌てて断った。
「地下鉄でも充分に間に合う時間ですから」
「そうか?この時間は酔っぱらいが多いぞ、遠慮しなくていい」
「……」
いつもなら、遅い時間に帰る時は駿平が迎えに来てくれるが、今日はそういう訳にはいかない。

(駿平君心配しているかな?)
仕事の話に夢中になり、時間の経つのも、駿平に途中連絡を入れるのも忘れていた。
マナーモードにしていた携帯を慌ててポケットから出した。
駿平からのメールが2件、着信が1件履歴に残っていた。
考えてみたら、夜の11時を過ぎてから、迎えに来てもらうなんて無理な話だ。

「さあ送ろう、乗りなさい」
剣持は今夜1滴のお酒も飲んでない事を那月は思い出した。
「剣持さん、お酒は飲めないのですか?」
「いや、アルコール大好きだよ」
「じゃ、今夜は……」
「将来有能な社員になる人を、無事に家まで送る予定があったからね」
揶揄するように剣持がそう言い、那月は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「さあ、乗って」
「はい、申し訳ございません」
中華料理店の駐車場に停めてあった剣持の車の助手席のドアを、剣持自ら開けてくれる。
「ありがとうございます」
そう頭を下げて、那月は助手席に滑り込んだ。


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COMMENT - 3

梨沙  2011, 05. 18 [Wed] 10:39

( ̄へ ̄|||) ウーム

取り敢えず、今の所無事!?
というか 危なっかしくて見ていてハラハラします(>▽<;; アセアセ
剣持も油断できない男っぽいですし… (ノ゚⊿゚)ノあうぅ!!です
那月が誰の毒牙にもかかりませんように!!
意味不明なコメントいたずらかも知れませんのであまり気になさらないで下さいね(*^^*)

Edit | Reply | 

けいったん  2011, 05. 18 [Wed] 11:28

梨沙さまの言う通り 那月が どうにもこうにも危なっかしくてーオロオロ((;ω;))オロオロ

那月のその考えは 甘いぞ!

私が 推測(妄想とも言う)するに...
剣持って奴は、鬼畜で ド変態に 違いないのだっ!
だから そんな会社に 転職しては ダメだからね~駄目!乂(´Д`;)

駿平に 相談してよ~頼むから(T人T)

kikyouさまへ
そんなコメなんか 気にしないで!と言っても 気にされるでしょうが、でも【気にしないで!】と 言わせて下さい。
どんまい ゚*。(p`・ω・´)q。*゚ どんまい...byebye☆

Edit | Reply | 

ちこ  2011, 05. 18 [Wed] 12:40

う~~~~ん(><)
送りオオカミを取るか、電車の痴漢を取るか・・・難しい問題だ・・・
シェイクスピアより難しいよ・・・
アナタならどっち!!
って、送りオオカミを選びました。那月さん・・・駿平わんこはまだなの~(>_<)
kikyouさま~おかしなコメントは気になるでしょうが、こういう時は必ずこういうおかしなお方が出没しますから!無視!無視!

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