あの日から1週間、4人はまた同じ居酒屋に集合した。
目的は康二からプレゼントを返してもらう為だった。
今まで頻繁に来ていた癖に二人に遠慮しているのか、今週は一度も来なかったのだ。
「おい、康二返せよ」
「今返すよ」面倒臭そうに鞄の中を掻き回している。
「それより、間違われた品物は?」
「え…………?」
康二にじっと見つめられて、那月は赤面している。
「康二てめぇ、那月さんを苛めるなっ」
他人からは見えない仕切られた椅子席の中で、駿平は庇うように那月を抱きしめた。
「ベタベタしてんじゃないよ」
康二におしぼりを投げられて、みんなに笑われながらも楽しい飲み会は始まった。
「でもいいなぁ、一緒に暮らしているんだもんね」と恋人の康二とは一週間に一度くらいしか会えない一樹が、ぼそっと呟いた。
康二と一樹は同じ会社だが、それぞれ会社が用意した独身寮に入寮していた。
寮といっても、普通のワンルームマンションだから泊まる事は出来たが、一緒に住む事は不可能だった。
「来年まで待て」ぽそっと言う康二に、その意味を問うように一樹は見た。
「俺、マンション買うから」
「えっ?」3人同時に同じ声が出た。
「俺、マンション買うから」さっきと同じ台詞で康二が答えた。
「すげぇ―――康二お前凄いな」
固まる二人を他所に俊平だけが、テンション高かった。
「勿論ローンだけどな。5年勤務したらローンも問題なく通るだろうから」
「そうか、マンションか……」那月は呟いた。
「ああ、そしたら一樹一緒に住むぞ」
「え……っ?」きょとんとした顔の一樹の大きな目が、さらに大きくなった。
「だから、一緒に住もうって言っているんだ」
「康二……」
信じられないような顔をしていた一樹が「嬉しい」と破顔した。
「何か俺たち、プロポーズの瞬間に立ち会ったみたいだ……」
駿平がにやにやして康二を見ると「まあな、そんなもんだ」と康二も、にやっと返した。
その言葉を聞いた一樹が、にこにこしているのに泣いていた。
「お前器用な奴だな……」と呆れたように康二がその頭を撫でるのを、駿平も那月も複雑な思いで眺めていた。
早く二人きりになりたそうな一樹の為に、駿平も那月も早々に切り上げてマンションに戻った。
「康二結構頑張ったんだな……」
「うん、頑張ったんだね」
那月は同じ年齢の康二が、そういう風に先の事をしっかり見据えていた事に、軽いショックを受けていた。
「康二の奴、ああ見えても昔からお年玉貯金するタイプだったからなぁ……」
那月だって、多少の貯金はあったが、それを頭金にしてマンションを買う事など考えた事はなかった。
こういう性癖をもっていたら、しっかりと足を地面に着けて地道に生きていくしかないのに、少しばかり自分の考えが甘かったようだと思った。
「康二たちは、寮だからなぁ、家賃安いし……」駿平が口数の少なくなった那月に気を遣うようにそんな事を言っていた。
「那月さん、あと7年待っていて。俺大学卒業したら一生懸命働くから」
そう言いながら那月の肩を抱く駿平に、曖昧に頷きながらも7年後の自分を想像していた。
33歳……もう立派な大人の男だ。
普通なら子供の一人はいるかもしれない。
それに7年後の駿平の傍にいるのが自分だとも限らないのだ。
先月、那月に「うちの会社に来ないか?」と有難い声がかかった。
取引先の社長自らが、那月を呼び出しそう言ったのだ。
年収で100万円は増える……だが社長の自分を見る目の色が、その返事を保留にしている一番の理由だった。
多分あの社長はゲイかバイだ。
自分の腕を買ってくれているのは、今までの仕事の付き合いで判っていたが、それが全てとは思えない何かを那月は感じていた。
駿平に7年後の夢を見させるよりも、自分が数年後にその夢を現実にしたいと那月は願った。
あの社長が予想通りゲイかバイでも、だからと言って自分をどうにかしようと思っているとは限らない。
那月は無理にでもそういう方に考えようとしていた。
来週自分からもう一度コンタクトを取ろうか?
「那月さんどうしたの、ぼんやりして?」
「あ、ごめん。ちょっと仕事の事考えていた」
「何かあった?」
「う……ん、もしかしたら違う会社に移るかもしれない……」
「そう?でもちゃんと考えて、那月さんの人生なんだからね。仕事のやりやすい環境を選んで」
「うん」
那月は急に心細くなって、駿平の胸に顔を埋めた。
1週間前に初めて男同士のSEXをした。
だが翌日が仕事となると、駿平は遠慮しているのか手を出しては来なかった。
「那月さん……抱いていい?」
ちょっと照れくさそうに駿平が聞いてきた。
「駄目だと言ったら?」揶揄するように那月が聞くと
「そしたら、我慢する」と駿平はきっぱりと言い切った。
自分の事を一番に考えてくれる駿平が、とても好きだと思った。
そして駿平の事を一番に考えている自分も、確かにここに居るのだ。
若い駿平の負担になりたくない……
那月は駿平の襟首をそっと引いて、自分から唇を寄せて行った。
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