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この世の果てで 27

 26, 2010 00:00
瀬田のマンションに帰ると、瀬田と1個づつ段ボールを抱え部屋に入った。
「今日は色々有難う御座いました」
拓海は改まって瀬田に深く頭を下げた。
「ああ・・疲れただろう?今日は俺が飯の支度してやるよ」
「いえ、大丈夫です・・このくらい・・」
『このくらいで弱音を吐いてる場合でも立場でもない』

「そうか、簡単なものでいいぞ」
瀬田は拓海の意思を優先させそれ以上は手を出そうとはしなかった。
今の拓海に気持ちを考えると流石の瀬田も躊躇うものがあった。

拓海は与えられた部屋に段ボールを置きに行った。
そこは、ただ広くて昨日運んだボストンバッグ1つと紙袋が1つ・・
そこに2個の段ボールが増えただけの、寂しい部屋だった。

此処に住むと決めてなければ、自分はあの荒らされた部屋に
一人住み続けるしかなかったのだ、それを考えると何というタイミングか・・・運命か?

母と暮らした思い出のある部屋を捨てた・・・
父が死んでそれまで暮らした町を捨てて来た。
そして流れ着いたのがあのアパートだった。
出来る事なら自分の手で思い出を整理してから離れたかったが
あの状況を見るのも辛かった。

何もかも失くした・・・
もう帰る場所は無い・・・・

「拓海・・・」立ち尽くす拓海の肩に瀬田の手が置かれた。
「・・・」拓海は返事が出来ずにただ唇を咬んでいた。
「いいぞ、泣きたい時は泣いても」
「・・んな・・男が簡単に・・」
やっと出た否定の言葉を言い終わらないうちに
瀬田が拓海の肩を引き寄せ胸に抱いた。

「しゃ・・社長・・すみません、少しだけ・・すみません」
瀬田の胸が広くて暖かくて、拓海は少しだけその胸に顔を埋めた。
「う・・うっ・・・うっ・・」
堪えても嗚咽が漏れてしまって、瀬田の背広の胸をぎゅっと握り締めた。

瀬田はそんな拓海の背中を黙ってさすっている。
泣いて少し落ち着いた拓海は、今度は自分が泣いた事が恥ずかしくて
瀬田の胸から顔を上げられずにいた。

「拓海」瀬田の甘い声が耳元で囁かれた。
「はい」恥ずかしくて消え入りそうな声で拓海が答える。
「一緒に風呂入ろうか?」
「ちょ、ちょっと何言って!」瀬田の言葉に拓海は勢い良く顔を上げた。

「ははは・・元気になったか?」
「社長?」
「さ、飯だ!」
「はい・・」
拓海は返事をすると、少しだけ笑顔を見せ
瀬田に背中を押されるようにリビングに戻った。

結局ふたりで一緒にキッチンに立ち簡単な食事を作って済ませた。
「すみません、明日からはきちんとやりますから」
拓海は此処に甘やかされる為に来た訳ではない。
住み込みのハウスキーパーとして来ただけだ・・それを肝に銘じた。

「明日、家具を買いに行こう」
リビングで寛いでいる瀬田が急に言い出した。
「え?家具?」
「そうだ、お前の部屋は何も無いだろう」
「で・でも・・俺布団があれば後は何も必要ありません」
「備品だ、気にするな。」
「備品・・・・」

瀬田が拓海に遠慮させない為に言った言葉は拓海に小さなショックを与えた。
『俺が此処を辞めても誰かが此処を使うもんな・・・』

その後、服を着たまま瀬田の背中を流し、瀬田のベッドの隅を借りて眠りについた。

『もっと自分を大事にしなさい、世の中そう甘くは無い』

拓海は夢の中の言葉にはっと飛び起きた。
封印したい記憶の奥底にあった言葉だ。
どうして急にこんな夢を見たのか判らなかったが、

最近色々な事が自分の周りで起きて、神経が昂ぶっているのだろうか?
その夢で拓海は眠れなくなり、何度も瀬田を起こさないように寝返りを打った。
「眠れないのか?」少し掠れた声が掛けられた。
「あ・・すみません、起こしてしまいましたか?」

「気にするな・・」いつもの言葉が返って来てちょっと安心した時に
肩を引き寄せられ、胸に抱かれた。
「社長?」
「いいから眠れ」
「・・・はい」

この胸の温もりは父の温もりなのか、母の温もりなのか・・・
それとも全く異質のものなのか・・・
拓海はそう考えながらもその温もりのおかげで深い眠りに落ちていった。






ご覧頂きありがとうございます。

何だか最初の頃と違って1話1話が長くなってます^^;

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