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この世の果てで 26

 25, 2010 14:00
いつの間にかすぅすぅと寝息をたてている拓海をじっと眺めていた。
「何で勃ってたんだ?」
返事など返ってこないのは判っていたが、瀬田は口に出していた。
はらっと額に落ちた髪を優しく梳いてやり、瀬田は拓海の隣に体を横たえ目を瞑った。


そして次の日の夕方、瀬田は拓海を連れてアパートに向かった。
二人がアパートに到着すると、秘書の狭山が待っていたのに拓海は驚いた。
「あ・・こんにちは、尾崎拓海です、あの以前社長室で・・」
おたおたする拓海に狭山は無表情で「存じてます」とだけ答えた。

その態度にしゅんとしてしまう拓海に
「気にするな、こいつは人見知りするもんでな」そう瀬田は笑った。
そしてその狭山の後ろに体格の良い男が2人控えていた。
「社長・・何だか大袈裟じゃないですか?
俺が持っていく荷物なんか、本当に少しなんですよ」
「いいから、気にするな」

何でも『気にするな』と適当に答える瀬田に閉口しながらも
拓海はドアノブに手を掛けた。
「待て俺が開ける」瀬田に止められたが、
拓海は「大丈夫ですよ」と笑ってドアを開けた。

入り口にある電灯のスィッチを点けた拓海の動きが止まった。
押入れから引っ張り出したのだろうか?
布団が散乱して、そしてそこは血の海だった。

入り口で固まっている拓海の背中越しに
「大丈夫だ、ペンキだ」と瀬田の声がした。
ペンキだと言われて、拓海は初めて部屋に充満するシンナー臭に気付いた。

だが真っ赤なペンキを撒き散らかされたその部屋を見た拓海は
胸に杭を打たれたように激しく落ち込んだ。

『俺は誰にこんなに恨まれてるんだろう?』本当に身に覚えがなかった。
だが、人の恨みというものは、自分では判らないうちに
買ってる事があるのかもしれない。

「社長・・俺何をしたんでしょう?」
流石の瀬田も「気にするな」とは言えない状況だった。
「拓海大丈夫だ、俺がついてる」
瀬田はそう言って拓海の肩をぎゅっと抱き締めた。

「あー、いい雰囲気の所申し訳御座いませんが?」
突然背後から狭山が声を掛けて来た。
拓海がうっかり狭山が一緒にいる事を忘れていた・・
というかあまりのショックに気が動転していたようだった。

「何だ、狭山?」瀬田は少し不機嫌そうに振り向いた。
「尾崎君、君は佐久間俊一という男を知ってますか?」
狭山が手帳を見ながら拓海に確認した。

「さくま?佐久間しゅんいち?」
拓海は頭の中で小学校から大学までの知り合いの名前を凄い勢いで思い出してみた、
バイトで関わった人間を含めても、佐久間という名前には覚えが無い。

「知りません・・年は?」
「24歳です、尾崎君よりも2つくらい上ですね」
それならば余計に的を絞れるが、それでも思い当たる名前では無かった。
拓海は力無くゆっくりと首を振りながら
「やはり知りません」

「狭山、それ以上は今は判らないのか?」
「はい、今日1日此処を張り込みさせて、住人以外で此処に出入りしたのは、
この佐久間という男だけでした。
後を着けて住所と名前だけは判明しましたが・・・後は調査中です」

「そうか、詳しい事が判ったら連絡してくれ」
「畏まりました」

そんな二人の会話を拓海は唖然として聞いていた。
『何だよ・・張り込みとか・・調査とか・・』
父が事故を起こし、裁判で負けそして獄中で自殺した・・・
だがその後は貧しくても平凡に暮らして来たと思っていた。

拓海は父の事故の事を詳しくは聞かされていなかった。
当時まだ小学3年だった。
そんな拓海は母から聞いた
「お父さんは悪くないのよ、事故だったの」と言う言葉を信じていた。
世間の悪い噂は耳に入って来たが、拓海は母の言葉を信じた。
子供心に信じる事しか母を生かす方法が無いような気がしていた。

「拓海?大丈夫か?」
「は・はい・・・」
「最低限必要な物だけ用意しろ、後は処分する、いいな?」
「はい・・」

血の色に染まった寝具など持っては行けない・・
母と一緒の頃から使っていた箪笥にもペンキが付着していた。
小さくても思い出が詰まった家具も処分しよう

拓海はそんな内面を隠すように黙々と必要な書籍などを段ボールに詰めていった。
先日少し持ち出していたから、もうそれ以上何も無かった。
そんな段ボールがたった2箱できた。

「もう・・・これで・・・」
そう言うと拓海はツンと目頭が熱くなり顔を背けた。
「後は処分するぞ?いいか?」
「はい、お願いします」瀬田の目を見ることは出来ずに頭を下げた。

「社長、後はこちらで手配しますから、先にマンションへ」
狭山も拓海の心情を察したのだろう、そう瀬田に声を掛けた。
「ああ、後は頼むぞ」
そう言うと拓海の肩を抱き促した。

「帰るぞ、俺たちの家に」
「・・・はい」『俺は帰る所など無い・・・』
二人の男が書籍の詰まった重い段ボールを瀬田の車まで運んでくれた。
その二人に頭を下げ、拓海は瀬田の運転する車に乗り込んだ。






いつもご覧頂きありがとうございます。
本日はお礼の意味で追加更新です。
キリが悪くて少し長くなってしまいましたが・・・

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。



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