天使の箱庭＜eternity＞

仙波が店を閉めマンションに戻ったのはそれから４０分くらいしてからだった。
店の近くの方が便利がいいからと兼介が探して来てくれたマンションだった。
ホスト時代に比べたら格は落ちるがそれでも男の一人暮らしには充分な広さとセキュリティだった。「男からも女からも身を守らないとならないからな」と冗談なのか本気なのか分からない兼介の言葉を思い出しながら、暗証番号を入力した。

兼介が仙波に断ってから先にこの部屋にいる事はあるが、許可なしに部屋に入る事はしなかった。それが安心なのか寂しいのか？と聞かれたら寂しいと答えそうだ。体の関係はあるが何処か一線を引かれているのは事実なのだ。

「早かったな、勝手に貰ってるぞ」と冷蔵庫に入っていた缶ビールを片手に風呂上りの兼介がそう言った。
「どうぞ好きにして下さい」家賃の半分は会社持ちの部屋だった。
「家賃は出してやろう」と引き抜きされた時に提案されたのを仙波は断った。だが給料に家賃半分の金額が住宅手当として付いていた。自分を大事にしてくれてはいる……それが店を任せた男への優しさか、抱いた男への優しさかは仙波には未だに図り知る事は出来なかった。

兼介という男は一言で言えば掴みきれない男だった。
今まで女を振り回していた仙波がそんな兼介に振り回されてしまうが、今の所こういう公私共に親密な付き合いをしているのは自分だけだと思っていた。

「お前も風呂入って来いよ」兼介の言葉に背中を押され仙波は風呂に入った。そして兼介の手を煩わせない為に自分で準備もする。兼介が相手している男は自分だけでないのは知っていたが、そんな事はどうでも良かった。その中では自分は特別であると自負していたが、先日店に連れて来た青年はそういう軽い相手では無い事は兼介の態度を見れば直ぐに判った。

『あの子が本命か……』穢れを知らない純真な目をしていた。
水商売で汚い部分も沢山見て来たし、しても来た自分とは比較など出来ないと仙波は思っていた。いずれは父親の跡を継ぎ経営者として人の上に立つ身だ、深入りするなとシグナルが鳴るがこの気持ちはもう仙波自身にも止められるものでは無かった。

バスタオルを腰に巻きつけリビングに行くが兼介の姿は見えなかった。もうベッドの中なのだろうか？「慎……こっちだ」案の定寝室から待ちわびたような兼介の声が聞こえた。
仙波はバスタオルを取り全裸でベッドに滑り込んだ。

「なあ？お前初めての男って覚えてるか？」
突然どうしてそういう事を聞くのかと不思議に思いながらも「覚えてますよ……」と答えた。
「そうか……やっぱり初めての男って忘れられないもんなのか」
「状況にもよりけりじゃないんですか？」
仙波の場合は同じ店で働いていたホストが相手だった。自分の性癖を知らしめした相手だ忘れる訳が無かった。そしてあの男との出会いがなかったら、もしかしたら自分はまだ自分の性癖に蓋をして抱きたくもない女を抱いていたかもしれない。

「どうしてそんな事を聞くんですか？」
「いや……」言葉を濁した兼介が言い訳のように仙波の腰に手を伸ばし自分の方に引き寄せた。
仙波もこれ以上何も聞くまいと思い、兼介の脚に湯上りで火照った自分の脚を絡めていった。



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