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この世の果てで 23

 23, 2010 00:00
拓海は瀬田から見たら何の価値も無いような荷物を
大事に扱ってくれる瀬田の気持ちが本当に嬉しかった。
「飯でも食って帰るか?」
実際拓海もこの荒らしの件で疲れた気分だった。
「すみません、明日からはきちんと作りますから」
そう言うと「気にするな」瀬田が笑顔を見せた。

瀬田が連れて行ってくれたのは、お洒落なイタリアンの店だった。
「拓海運転は・・・出来ないか?」
聞きながら否定する瀬田に向かい
「一応就職に不利にならないように、免許頑張って取得しました」
ちょっと照れたように言う拓海が可愛いくて仕方ない。

「俺少し飲んでいいか?」
「はい、あ・・・でも俺左ハンドル運転した事が無いです」
と言うか、免許証を貰ってから車に触れていなかった。
それを正直に話すと
「そうか、じゃ今夜は家に帰ってから飲むか・・
運転は今度ゆっくり教えてやるよ」
自分が運転に不慣れなせいで瀬田に酒を飲ませる事が出来ずに申し訳無く思い
「すみません」
「いいよ、気にするな」

瀬田は強引ではあったが、拓海が本当に困る事、嫌がる事は決してしなかった。
「悪いと思ったら、今夜は一緒に風呂に入れ」
「え!それとこれは別じゃないですか?背中ならお流ししますから」

瀬田は内心舌打ちしながら、ゆっくり進もう・・そう思った。
拓海はいつの間にか『拓海』と呼ばれている事に気付いた。
瀬田の低くよく通る声で自分の名前を呼ばれるのが
気恥ずかしいが嫌ではなかった。

「拓海?どうした?」
「いえ、何でも・・・」
拓海はそう言いながら自分の頬が緩んでいるのが判って余計に恥ずかしくなった。
「さあ好きな物を何でも注文しろ」
そう言われメニューを見てから、それが日本語で書かれてない事に気付いた。

「お任せします」そう言うしかない。
「そう、好き嫌いは?」
「ありません」好き嫌いなど言ってられる身分では無かった。
「そうか良い事だな」
瀬田のそんな些細な思いやり溢れる言葉が嬉しい。

「イタリアンで無くてもいいが、拓海の一番好きなのって何だ?」
「・・・笑いませんか?」
「勿論言ってみろ」
「え・エビフライです」
その言葉を聞いた途端瀬田が破顔する。

「ほら笑うじゃないですか?」拓海が少し臍を曲げるが
「俺も大好物だ」
嬉しそうな顔に釣られて拓海も笑顔になる。

そういえば誰かとこんなにゆったりとした気分で食事をするのは何時以来だろうか?
自分は年齢の割りには、随分と急ぎ足で人生を歩いて来たような気がする。
脇目も振らずに歩いて来た、そろそろ少しだけゆっくりと歩いてみても良いのだろうか?

「社長・・ありがとうございます」
「ん?ご馳走様の間違いじゃないのか?」
「いえ、それは食事が終わった後に言います、
今は何だか今のこの時間にありがとうって言いたいんです」

「そうか・・・どういたしまして、って言えばいいか?」
「俺・・社長の前だと・・・息が楽に吸えるって感じなんです」
「そうか?だがもし拓海が息が出来なくなったら、俺が人工呼吸してやるから安心しろ」
「じ・人口呼吸って・・・それちょっと意味が・・」
そう言いながらも拓海は自分の顔が熱くなるのが判った。

『俺何焦ってるんだろ?からかわれてるのに・・・』
そんな拓海に向かって
「飲んでもいないのに、酔ったような顔してるぞ」と
今度は本気で揶揄され更に顔が熱くなった。





ご覧頂きありがとうございます。
ちょっとだけ二人の距離が縮まったような気がします。


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