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1周年記念 「彼方から・・・」8

 19, 2011 00:07
とにかく秀麗はひきつけを起こしている子供の顔を横に向け様子を見守った。
『人として・・医者として・・』蓮三郎に言われた言葉が胸に刺さる。
愛する者を失いたくない・・・まだ秀麗の心は揺れていた。
だがその気持ちはこの母親とて同じ・・・
この手の中にある薬をどちらに飲ませればいいのか、秀麗は迷っていた。

「私なら大丈夫だから」さっきの厳しい声ではなく、いつもの優しい蓮三郎の声だった。
「本当に大丈夫ですか?」不安な顔の秀麗がそう聞いた。
「ああ、大丈夫・・だからその子が落ち着いたら薬を飲ませなさい」
蓮三郎の笑顔を見て秀麗もやっと決心がついたように頷いた。

だが、それから2日間蓮三郎の容態が回復する事はなかった。
「秀麗、私はこの世に生まれ二人の男を好きになった。ひとりは小次郎だ。」
小次郎とは、秀麗の従兄弟で若くして病でこの世を去ってしまった男だった。
「そして、秀麗お前だ・・秀麗と出会って、秀麗を愛して・・共に過ごせて私はとても幸せ者だ」
「蓮三郎様、秀麗もとても幸せな人生でした。でも蓮三郎様のいないこの世など何の未練も御座いません、だから逝かないで下さい」
秀麗はもう蓮三郎の命の灯火が尽きようとしているのが判っていた。
「秀麗・・小次郎の最期の言葉を覚えているか?」


『秀麗へ

せっかくそなたの父が手に入れてくれたこの薬
飲んだとて、1日2日命が永らえるだけ。
治る見込みのある病人に飲ませてやって欲しい。

そして、もし秀麗のこれからの長い人生
どこかで袖振り合う事があったなら、伝えて欲しい者が居る。

蓮三郎にありがとうと。
そして、そなたは亀の如く時を過ごしてから私の元に来てくれと。

秀麗若いお前には理解出来ないかもしれないが、ただそれだけを伝えて欲しい。

                                    小次郎』

「今はあの時の小次郎の言っている事がよく分かる。秀麗・・・ゆっくりでいい、本当にゆっくりでいいから、何時までも私は待ってるよ。」
「いやっ・・逝かないで・・・お願い・・逝かないで、ひとりにしないで・・・私も一緒に・・・」
「大丈夫・・・いつどこに生まれ変わっても必ず・・・
必ず迎えに行くから・・・泣かないで・・・・ちゃんと最後まで生き抜いて」
縋り付く秀麗に向かって最期の笑みを浮かべ蓮三郎は
「秀麗、私はお前を人として医者として誇りに思うよ。秀麗・・愛してる」と囁くように・・・

それからどのくらい時が流れたのか秀麗には分からなかった。
戸が開き人の気配と「遅かったか・・」という唸るような声は聞こえた気がした。
ゆっくりと上げた視線の先に昔見た顔があった。
「芳さん?」秀麗はこの地に来てから初めて芳と会った。
蓮三郎は時々訪ねて来る芳と会っていたらしいが、「秀麗は会う必要はない」と会わせてはくれなかった。
もう大奥での事を秀麗に思い出させない為だとは秀麗も思っていたから、敢えて会おうとは思わなかったが、12年ぶりに見る芳はあの頃と何ら変わらないような気がした。

「大丈夫か秀麗?」
芳は蓮三郎の亡骸に手を合わせたあと、そう尋ねた。
「はい・・」とても大丈夫ではなかったが、縋る胸などもう無かった。
「小雪も来ている、会わせてやってもいいか?」
「小雪様が?・・・はい、お別れを・・・」

芳の案内で外で待っていただろう小雪が入って来た。
泣き縋る小雪の体を支える芳の姿に今の二人の関係が分かる気がした。
秀麗はそんな二人を何の感情もなくただ眺めていた。
そしてそれからの事は芳と村の衆が滞りなく進めてくれた。

秀麗は床から起き上がる力も無く、芳と小雪の世話になりながら日々を過ごした。
10日ほど経った頃に「一緒に江戸に戻らないか?」と芳に言われ、秀麗はこれから自分がするべき事を思い出した。
『このままでは駄目だ、蓮三郎様にあわせる顔が無い』
自分の事を誇りに思うと言ってくれた人を裏切る事は出来ない。

その日から秀麗は床から離れ近くの山に入った。
だが何処に行っても、何の草を見ても思い出すのは蓮三郎の事だった。
暇さえあれば二人山に登ったり、沢に行ったりして色々な薬草を探したり摘んだりしていた。

ひとりでは寂しい・・だけど思い出の詰まったこの場所を離れる事も出来なかった。
芳も小雪も「又様子を見に来る」と言って帰って行ったのは、それから3日程過ぎてからだった。
本当にひとりっきりになった秀麗に村人たちも心を配り、その心を痛めながらも日々は過ぎた。
秀麗はひたすら薬の調合に時間を費やした。
もう後悔などしたくなかった、自分と同じ辛い思いを村人にもしてほしくなかった。

何かに取り憑かれたように秀麗は薬草を探し煎じた。
近所の子供たちが秀麗を慕って家に集まって来ている時だけが秀麗の心が休まる時だった。
未来ある子供の笑顔を守りたいと秀麗は心から思った。
それは蓮三郎の教えでもあった。
秀麗の子供たちに向ける笑顔はとても美しく、そして儚かった。

満開の桜がはらはらと舞い散る暖かい春の日に、桜の木に凭れ蓮三郎の元に旅立った秀麗の姿が発見されたのは、それから4年の年月を重ねた頃だった。
何故か秀麗の唇には薄紅色の紅が引かれていた。
その顔はとても穏やかで美しく村人たちはその美しさに見惚れながらも、泣き続けた。

『やっと蓮三郎様のお傍に・・・』
寂しくて死にたくなる夜を幾夜も過ごした秀麗の魂は時を越えて蓮三郎の元に辿り着くだろう。


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COMMENT - 8

ちこ  2011, 02. 19 [Sat] 07:44

しくしく(T_T)
ふえ~~~んっ(涙)
朝から、kikyouさまに泣かされたぁ~~~(涙)
秀麗ちゃん、寂しさに耐えて頑張ったんだね~(T_T)
同じ時代に転生できた三人・・・(上様の執念?!)果たして上様の《ケーキでゲットだ作戦》は功を奏すのか?!
秀人くんは思い出すことが出来るのかっ?!
レンさんは秀人くんの記憶の扉を開けられるのか?!
あ~ん、どうなるんでしょうか~っ(≧▼≦)

幼なじみ隆弘くんにも、がんばって欲しいし~上様も捨てがたいっ(笑)

よ~しっ!
上様プッシュのダークホース隆弘で!!←なんの予想だっ(笑)

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-  2011, 02. 19 [Sat] 10:38

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-  2011, 02. 19 [Sat] 22:55

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梨沙  2011, 02. 20 [Sun] 00:23

・゚゚・(×_×)・゚゚・。 ビエーン

秀麗 蓮三郎との約束を守って1人で必死に生きたんですね(T_T)
でも その4年間は蓮三郎と過ごした12年の幸せを忘れてしまうほどに辛い4年間だったんですね…
秀人の反応を見る限りわ 後を追うこともできず自分の命のともし火が消えるまで 思い出とともに生きる事は本当に辛く悲しいものだっだんですね~ そんな悲しみを乗り越えて現世では 幸せをと願わずにはいられません(⌒^⌒)b うん

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kikyou  2011, 02. 20 [Sun] 00:30

ちこさま

こんばんは。

沢山の予想ありがとうございます^^

それぞれの思いの強さが新しい出会いになりました。

隆弘は、新入りっぽいですね。
(まだきっちり考えていない作者談)

過去編が終わって現代に話は移り変わりました。
これからが本番ですね、何か序章が凄く長かったみたいです。

泣きながらも楽しんで貰えれば嬉しいです(*^_^*)

コメントいつもありがとうございます!

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kikyou  2011, 02. 20 [Sun] 00:33

鍵コメ Mさま

こんばんは!

読んで下さってありがとうございます。

上様派ですか!?
結構多いんですよね・・・
でも終わらない三角関係・・
現代版はもっと複雑になりそうです。

おしゃる通り同じ身分同士、余計に複雑に絡んでしまいそうです。

どうも、プロント無しで進める話なので、これからどう転ぶかも分かりませんが^^;
(そのせいで、いつも自分の首を絞めてしまっています)

見守って下されば嬉しいです(*^_^*)

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 20 [Sun] 00:37

鍵コメ Tさま  ひとりで‥

こんばんは。

そうですね・・ひとりで逝きました。
それでも愛する人の元に旅立てる喜びの方が大きかったのです^^

秀麗(秀人)の花のような笑顔を見届けてくださる!
ありがとうございます(#^.^#)

楽しんで読んで下さる事が私の励みでもあります。
心に残るような話を書きたいです♪

コメントありがとうございました!

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kikyou  2011, 02. 20 [Sun] 00:43

梨沙さま  ・゚゚・(×_×)・゚゚・。 ビエーン

あっ・・又泣いてる。・゚・州*ノД`*州・゚・。
ごめんよ~

こんばんは!

一緒にいる楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。
でも辛い日々はその何倍も遅く過ぎるのでしょうね。

誰かを愛している日々が一番好きです私も。
それこそ遠い過去ですが^^;

秀人も覚醒して幸せになるのか、それともこのまますれ違ってしまうのか?

楽しみにしてて下さいネ。

コメントいつもありがとうございますヽ州・∀・州ノ ワチョーイ♪

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