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1周年記念 「彼方から・・・」7

 18, 2011 00:05
「秀人君、ちょっといい?」一息吐いたところで蓮がそう声を掛けてきた。
「・・・はい」
「さっきの言葉の意味考えてみてくれないか?」
「あ・あれは・・・」
秀人は自分にも理解できない事を説明などできなかった。

「もしかして、秀人君の中にもうひとりの自分がいたりしない?」
「蓮さん、それはどういう意味ですか?」秀人が答えるより先に隆弘が口を挟んできた。
「・・もうひとりの自分?」
秀人は蓮と出会ってから自分がおかしいのは、もうひとりの自分がいるからなのだろうか?
と漠然と考えていた。
確かに、胸の中がざわざわと、そして焦燥感・悲しみ・苦しみ・・・

「あぁ・・・」そして自然と零れ落ちてしまう涙。

「秀人?・・・蓮さんもういいでしょう?」
これ以上苦しそうな秀人の姿を隆弘は見たくなくて蓮に詰め寄った。
「どうして?どうして泣くの?秀人君・・」
「・・・判らない・・・でも・・とても辛かった」

蓮は秀人が辛かった理由を知っている・・だが今は言えない。
秀人が自然に思い出すまで言ってはならないと思っていた。
そしてあの苦しみを現世まで引きずっている秀人を抱き締めて『大丈夫だから』と言ってやりたかった。

「秀人帰ろう!」隆弘が立ち上がって秀人を促した。
「もう少し待って・・」
「どうして?泣く程の何かなんだろう?」
隆弘もそれが過去なのかトラウマなのか、さっぱり判らないが秀人を苦しめている事だけは確かだ。

「蓮さん・・もうひとりの自分ってどういう事ですか?」
秀人の問いかけに隆弘も蓮も驚いた顔をした。
「秀人、もういいじゃないか帰ろう」
「ううん、駄目なんだ逃げたら、胸に何かつっかえてる事は確かなんだ・・」
秀人は隆弘に向かって胸に手を当て真剣に訴えた。

「秀人君・・・これは君自身が思い出す事なんだ、俺は何も伝えられない」
「蓮さん・・それは貴方に関係する事なんですか?僕はどうして貴方を見ると悲しくなるんですか?」
「悲しいだけ?」そう言われ蓮にじっと見つめられた。
「悲しくて、辛くて・・・苦しい」
「それだけ?」
「はい・・・」

マイナスの感情だけしかない事に蓮は落胆した。
自分がいなくなってから秀麗はどんな暮らしをしてきたのだろうか?
どんな思いで生きていたのだろうか?
そう思うと蓮もとても辛く苦しかった。

「焦らないで、自分を見詰めて・・・今はこれだけしか言えない」
『まだ潮は満ちてはいない・・』蓮はまだその時では無い事を知った。

「秀人、帰ろう」ふたりの訳の判らない会話に隆弘は憮然としていた。
「じゃ、蓮さん失礼します。もう貴方と会う事は無いと思います」
隆弘は秀人を護るべく秀人の前に立ちはだかりそう言い放った。

二人が部屋を出る時に、隆弘に気付かれないようにそっと秀人にメモ用紙を握らせた。
もう隆弘は秀人をここには連れて来ないだろうと最初から踏んでいた。
そのメモには蓮の携帯アドレスと番号が記載されていた。

秀人もそっと握らされた紙きれを黙ってズボンのポケットに捻じ込んだ。
蓮の手と一瞬触れ会った時に秀人の体に電気が走った。
「!」
「ほら秀人靴履いて」
隆弘に促され、秀人も「どうも・・ありがとうございました」と頭を下げた。
だけどその心の中には今まで感じた事のない何かが生まれ始めていた。


150余年前、江戸で疫病が流行った。
そして蓮三郎や秀麗が住む村にもそれは猛威を奮った。
だがふたりが暮らす村からは死人のひとりも出なかった。
普段から体の内側からの健康に気を配り、煎じ薬や薬草など常用していたせいなのかは判らなかったが、その評判はあっという間に世間に知れ渡り、薬を求めて多くの者が押し寄せた。

二人は金も身分も関係なく症状の酷い者から順に手当てをしていった。
寝食を惜しんで賢明に手当てした甲斐もあって、二人の周りも落ち着いて行った。
最後の患者を帰してほっと一息吐いた頃、秀麗は蓮三郎の容態に気付いた。

「蓮三郎様・・これが最後の薬です。どうか飲んで下さい」
蓮三郎だけではない、秀麗ももう体力の限界に来ていた。
もう何日もまともに眠っていないし、ゆっくり食する暇も無かった。
「私は大丈夫だ・・」
「駄目です、熱が高いじゃないですか?村の人から頂いた握り飯を粥にしますので、それを口にしたら薬飲んで下さいね」

秀麗は村人に心から感謝した。
白米の握り飯など簡単に手に入らないのに・・・
ふたりの為に僅かな米を持ち寄って炊いたらしい。
秀麗が土間に下り、粥の支度をしている時に、入り口の戸が激しく叩かれた。

「すみません、先生!夜分すみません、隣村から参りました」
その女の声に秀麗は立ち尽くした。
もう飲ませる薬は無い・・・あとは蓮三郎の分が残っているだけだった。

「秀麗、開けてあげて」床の中から蓮三郎が声を掛けた。
「でも・・・」
「早く開けなさい」
「はい・・」

ガタガタと戸を鳴らして開けると、そこには幼子を背負った母親が立っていた。
「あぁ先生お願いします。この子が熱が高くて・・・お願いします看て下さい」
秀麗は「ここに寝かせて」とその子を畳の上に寝かせた。
高熱で痙攣を起こしている。
「先生、お願いします。この子はやっと5つになったばかりなのに・・・こんな」
隣村と言っても山に近い場所だ、半日以上はかかってしまう。

「出来るだけの事はしますが・・・もう薬がありません・・・」
秀麗はその母親に向かってそう言った。
「秀麗!」蓮三郎の厳しい声が飛んできた。

「すみません、もう薬が無いんです」
秀麗は心を鬼にしてもう一度その母親に言った。

「秀麗・・・人として、医者の端くれとして・・・恥ずかしくはないのか?」
蓮三郎の言葉に秀麗はただ俯いて涙を零す事しか出来なかった。


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COMMENT - 15

-  2011, 02. 18 [Fri] 07:40

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NK  2011, 02. 18 [Fri] 08:14

秀麗の涙

今までの秀人くんの過剰反応に、余程辛い別れがあったのだろう
と想像してましたが。。。本当に可哀想。

蓮じゃないけど、独りになった秀麗はどうやって生きていたのでしょう。

裏大奥の秀麗ちゃんは、なぜか泣き顔しか思い出せません。
大切に愛でられていたのに、悲しくても、嬉しくても、
痛くても、気持ちよくても、泣いていたような印象なのです。
大輪の花が咲いたような笑顔というのが見てみたかったな。
記憶違いかなぁ。また読みに行こう♪

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けいったん  2011, 02. 18 [Fri] 09:41

「裏大奥」番外編ですね!

今の 秀人と蓮の微妙な雰囲気を 見ると 「裏大奥」時代の 秀麗と 紅蓮さまを もう一度見たくて ちこ様や NKさまの様に ”出張”される方が 多いのでは?

今日の更新分は 「裏大奥」の後の 番外編とも言える話しですね。
二人は 寿命尽きるまで 幸せに暮らしていたと 読者の誰もが 思っていたのに そんな事が あったなんて 哀しすぎます。。。

NKさまが言うように 蓮三郎が 亡くなった後 独りになった秀麗を考えると・・・ p(´⌒`。Q)グスン...byebye☆ 

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-  2011, 02. 18 [Fri] 10:26

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梨沙  2011, 02. 18 [Fri] 10:32

(Tへヽ)(/へT) シクシク..

2人が幸せに暮らしていた事は分かっていたんですが…
最期の別れに関してこんなに悲しい思いをしなければならない葛藤があったとは。・゚゚・(>_<;)・゚゚・。
1人残された秀麗はどんな辛い思いをして残りの人生を暮らしたんでしょうねo(´^`)o ウー 
最期の薬を蓮三郎のために残しておきたい秀麗の思い 患者にと思う連三郎の思い 究極の選択ですよね(・_・;
蓮三郎には蓮三郎の秀麗には秀麗の思いが… 相手を思うが故の事でしょうが それが必ず相手の幸せに繋がるというわけではないんですよね…; ̄ロ ̄)!! 切ないです(;_;)

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びび  2011, 02. 18 [Fri] 13:17

切なさにナミダです。

最後の薬…。ホントに究極の選択だったね(/ _ ; )シクシク。。。

秀麗ちゃん、哀しい看取りの後の独りでの暮らしはどうだったのかな?
思い出すのにブレーキをかけてしまう程の辛い日々だったの?

蓮様が秀人を思い、『思い出してほしいけど、それで秀人の心が壊れるのは怖い…。』みたいな葛藤も切ないよ~( i _ i )
前世も今世も、ひたすら秀麗(秀人)を大事にするところが男前過ぎです~(/ _ ; )

涙涙の切なさ街道真っしぐらですか?
辛いです~!楽しみです~!

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ちこ  2011, 02. 18 [Fri] 16:46

出張長すぎ?

もう、出張が楽しすぎて(//∀//)
『沙羅双樹』まで読んじゃった(≧▼≦)アハッ
秀麗ちゃんと蓮三郎の別れの時が・・・流行り病に犯されたじゃない冒された蓮三郎の医師としての覚悟と、蓮三郎を失いたくない秀麗ちゃんの蓮三郎を思う気持ち(涙)
でも、薬を子供に譲らなければ蓮三郎は助かったとしても、彼の心には生涯医師としての悔いが残り、薬を隠した秀麗ちゃんにも子供を犠牲にしたという後悔が残りますよね~(>_<)
う~ん、辛いな~でも、秀麗ちゃんは一人でどんな辛い、寂しい人生を送ったんだろう?
再び会えた喜びより拒絶の気持ちが先立つなんて・・・
記憶が戻って、二人が再び抱き合えるのか、それとも〈秀人をケーキで餌付け作戦〉遂行中の優しいお兄さま~上様の手が早いのか!?はたまた、一番近くにいる大本命(なのか?)隆弘くんの勝利か!
この勝負の行方、見逃せません\(^O^)/

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 00:48

鍵コメ Lさま  ああ、そんな別れ方を…

こんばんは。

そうですね・・・辛い別れでした。
どうしてもその記憶の方が今の秀人には大きいみたいです。

一瞬触れた指先に何かを感じてしまった秀人。
その覚醒は蓮からの切欠であって欲しいですね。
(あぁ他人ごとですね^^;)

これからも楽しく見守って下さいネ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 00:50

NKさま  秀麗の涙

こんばんは。

おおNKさまも出張ですか!
今日見て、目次が無い事に気付いたkikyouです^^;
1ページ30話読めるようには設定して来ました。

秀麗の泣き顔・・・
そういえばイラストも泣き顔が多かったですね。
色々泣かせてしまったようです^^;

現世では幸せの涙を零して欲しいですね。

コメントありがとうございました(*^_^*)

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 00:55

けいったんさま  「裏大奥」番外編ですね!

こんばんは。

9話までは番外的な話になっています。
10話からは現代ですので、ガンガン行こうと思っています(笑)

やらなければならない事が多すぎる時って気だけ焦って
全然前に進まないし・・・

「僕の背・・」の加筆修正を始めて、約12万文字を単純計算に90ページくらいと
考えていて・・改行は頭に入っていたのですが
余白を全く考えていなかった!
だいぶ焦っています(笑)
いった何ページになるんだ!

ギアをそろそろ入れ替えなければなりません。
とにかく頑張る!(>_<)

コメントありがとうございました(#^.^#)

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 01:07

鍵コメ Tさま 壮大な愛のお話ですね

こんばんは、初めまして!

辛い別れの思い出が漠然と秀人を今は支配しています。
でも全部思い出せれば、楽しかった思い出も自然と蘇ってくると思います。

早く現世で幸せにしてあげたいと、書き手は思っているのですが
なかなか進まないものです(笑)

でも、基本ハピエンですので、待ってて下さいネ。

初コメントありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します(*^_^*)

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 01:28

梨沙さま  (Tへヽ)(/へT) シクシク..

こんばんは。

秀麗は究極の選択の為に自分を追い詰め、早い別れに心を痛めながら過ごしてきました。
その辛さだけを今の秀人は漠然と感じている。
あぁ秀人も可哀相だぁ。

早く・・・頑張ります!

今度こそ幸せ(いや、勿論あの頃も幸せだったんですよ)に
なってもらいたいと思っています。

コメントありがとうございました(*^_^*)

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 01:31

びびさま 切なさにナミダです。

こんばんは。

「人として、医者として・・」と叱られた事も秀麗の心を痛めてしまっています。
本当に究極の選択・・
果たして立場が逆でも蓮三郎は同じ事をしたのだろうか?
などと書き手も考え込んでしまいます^^;

10話からは、現世の話に戻りますから、
何か進展してくれるはずです^^

>辛いです~!楽しみです~!

この相反する気持ちも判ります(#^.^#)

コメントいつもありがとうございます。

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 01:37

ちこさま 出張長すぎ?

こんばんは。

長期出張ですね!(笑)お疲れ様です。
その上寄り道までしてしまった・・・

究極の選択・・・どっちを選んでも辛いし後悔しそうです。
でも蓮三郎の言葉に迷いながらも従った秀麗。
きっと迷った自分も許せないのかもしれません^^;


10話からは現世に戻ります。
そうケーキで餌付けする兼にぃと真っ直ぐにぶつかってくる隆弘からも
目が離せないですねぇ。

3人の男・・最初に動き出すのは誰でしょうか?
先ずはチョメチョメです(笑)

楽しみに待ってて下されば嬉しいです。

コメントいつもありがとうございます(#^.^#)

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kikyou  2011, 02. 19 [Sat] 01:43

拍手コメ ☆さま

こんばんは。

秀麗のために泣いて下さってありがとうございます。

☆さまの思いをしかと受け止めました(笑)
現世ではうんと幸せなカップルになる事でしょう。

ま、それまでは多少時間がかかるかもしれませんが^^;

幸せなふたりを楽しみにしていて下さいね。
コメントいつもありがとうございます(*^_^*)

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